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放射線技術部
佐藤 誠也 先生

国立がん研究センター中央病院では、2019年6月より富士フイルム株式会社との共同研究においてdeep learning-based universal image processing software(DLIP)であるSYNAPSE VINCENT PixelShineTMの初期検討を開始した。DLIPは、昨今注目を浴びている深層学習アルゴリズムを用いて取得画像に適応するように開発されたノイズ低減処理ソフトウェアである。メーカー、スキャナ、再構成方法には依存せず、撮像されたCT画像を用いてノイズ低減処理を行うことが可能である。本稿では、我々が行ったDLIPの画像特性に関する評価について概説する。
我々はDLIPの解像特性を評価するために、背景コントラストや画像ノイズに対応したtask-baseで測定されるMTFTaskを用いて空間分解能の評価を行った*1*2*3。図1は、3種類の線量(10,4,2mGy)で2種類のコントラスト(Δ300HU, Δ30HU)のファントム画像から取得したMTFTaskである。それぞれの線量条件において、フィルタ補正逆投影法(FBP)、モデルベース逐次近似再構成法(MBIR)、ディープラーニング応用再構成法(DLR)、およびFBPに3種類の強度(A1、A4、A9)で処理したDLIP(DLIP_A1、A4、A9)のMTFTaskを算出した。高コントラストモジュールの50% MTFTaskはすべての線量においてFBPよりもDLIP_A1,A4,A9の方が高値であり、特に、DLIPの10%MTFTaskは同線量のFBPと比較して最大71%改善された。低コントラストモジュールのMTFTaskは3種類の線量においてFBPと同様またはそれ以下の値を示した。






ノイズ特性の評価には画像ノイズ量とともに周波数特性を評価可能なNPSを用いた*4*5(図2)。表1には3種類の線量から得られたNPSのピーク(fP)と平均周波数(fA)を示した*6。3種類の線量でDLIPにおけるfPの空間周波数シフト変化はほとんどなく、画像テクスチャにかかるfAをみてもDLRやMBIRと比較してテクスチャを変化させることなくノイズを低減させていることが示された。また、ノイズ低減率はFBPを基準にした場合に3種類のDLIPのfpよりDLIP_A1;25%、DLIP_A4;75%、DLIP_A9;90%の低減効果が示され、ノイズ処理強度に応じたノイズ除去が可能であった。



| CTDIvol(mGy) | Peak spatial frequency (fp; mm-1) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| FBP | MBIR | DLR | A1 | A4 | A9 | |
| Standard(10.0) | 0.35 | 0.29 | 0.23 | 0.35 | 0.35 | 0.35 |
| Low(3.9) | 0.35 | 0.18 | 0.24 | 0.35 | 0.35 | 0.35 |
| Ultra-low(2.0) | 0.37 | 0.19 | 0.21 | 0.37 | 0.32 | 0.32 |
| CTDIvol(mGy) | Average spatial frequency (fA; mm-1) | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| FBP | MBIR | DLR | A1 | A4 | A9 | |
| Standard(10.0) | 0.58 | 0.34 | 0.34 | 0.57 | 0.54 | 0.48 |
| Low(3.9) | 0.58 | 0.29 | 0.31 | 0.58 | 0.56 | 0.51 |
| Ultra-low(2.0) | 0.58 | 0.25 | 0.27 | 0.58 | 0.56 | 0.52 |
CTDIvol: volume computed tomography dose index; FBP: filtered back projection; MBIR: model-based iterative reconstruction; DLR: deep learning-based reconstruction; A1, A4, and A9 were the processing strengths of a deep learning-based universal image processing software (FCT PixelShine, FUJIFILM, Tokyo, Japan).
低コントラスト分解能の算出には通常広く用いられているCNRではなく、画像の周波数成分に対応したCNRLOを用いて評価を行った*7。DLIPは線量とノイズ低減強度に応じて向上する結果となった。MBIR、DLR、DLIPは同線量においてFBPよりも良好な結果を示し、DLIPは10および4mGyにおいてDLRよりも良好な結果を示した一方で、2mGyではDLRより低値を示した。しかし、この結果から2mGyのような極低線量ではなく低線量の画像にDLIP処理を用いることで高線量相当のCNRLOを担保できることが示された。
DLIPは従来の非線形画像のような画像再構成とは異なり、構造の劣化を抑制しつつ高コントラスト組織を対象に解像度を維持しながらも画像ノイズの低減が可能である。また、低空間周波数領域におけるノイズの低減は低コントラスト組織の検出向上に寄与するものと考える。SYNAPSE VINCENT PixelShineTMの使用に際し、深層学習アルゴリズムや逐次近似再構成画像との組み合わせによってさらなる線量低減が可能であると予想され、今後の放射線被ばくの低減化に期待が高まる。
- *1 標準X線CT画像計測 改訂2版. 日本放射線技術学会. 2018
- *2 Richard S, Husarik DB, Yadava G, Murphy SN, Samei E (2012) Towards task-based assessment of CT performance: System and object MTF across different reconstruction algorithms. Med. Phys. 39(7):4115-22.
- *3 森 一生: 近年のX線CT画像の非線形的特性と画質の物理特性について, 東北大学医学部保健学科紀要, 22(1), pp. 7-24(2013)
- *4 Kijewski MF, Judy PF (1987) The noise power spectrum of CT images. Phys. Med. Biol. 32(5):565-75.
- *5 Boedeker KL, Cooper VN, McNitt-Gray MF(2007) Application of the noise power spectrum in modern diagnostic MDCT: part I. Measurement of noise power spectra and noise equivalent quanta. Phys. Med. Biol. 52(14):4027-46.
- *6 Samei E, Bakalyar D, Boedeker KL, Brady S, Fan J, Leng S et al (2019) Performance evaluation of computed tomography systems: Summary of AAPM Task Group 233. Med. Phys. 291 46:e735-e756.
- *7 Urikura A, Hara T, Ichikawa K et al (2016) Objective assessment of low-contrast computed tomography images with iterative reconstruction. Physica Medica 32: 992-998.

















