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2022年7月29日~8月8日に配信された「AI活用や最新の医療機器を相棒にする開業医セミナー」より、杉本医院の杉本貴昭氏による講演の要旨を紹介する。
医療法人杉本医院
院長
杉本 貴昭
クリニックの特長と一般撮影のフローについて
当院は、2013年4月に大阪府泉大津市において外科・内科のクリニックとして開院し、一般消化器を主としてプライマリケアから専門医療まで幅広く診療を行っています。また、私は、日本外科学会、日本消化器外科学会、日本消化器内視鏡学会などに属し、専門医、指導医を取得しております。
当院のX線撮影については、開業時に富士フイルムのFCRを導入し、解像度に不満は感じていなかったものの、徐々に画像読み取りの時間が気になるようになり、同社のDRパネルを追加購入しました。しかし、当院では胸部だけで1ヵ月に80~120件の撮影を私自らが行っており、撮影と読影を限られた外来時間内に行う上で読影精度の維持に限界を感じていました。
そうした中で、以前からAIに興味を持っていたことに加え、読影精度に対する課題解決を目的として、胸部X線画像病変検出ソフトウェア「CXR-AID」をインストールした拡張ユニット「EX-Mobile」を導入することとしました。
EX-Mobileは、当院で使用している画像処理ユニット「Console Advance」にLAN接続するだけで、容易にセット可能でした。また、当院ではセキュリティ対策でインターネットには接続せず院内LANで運用を行っていますが、EX-Mobileの導入にあたってはクラウドシステムではないことも決め手の一つになりました。
実際の撮影では、電子カルテで一般撮影のオーダーを入力し、コンソールで対象オーダーを選択して撮影します。撮影後は、画像を確認してからCXR-AIDで診断補助処理を行います。操作はワンタッチで、約30秒の処理が終わると画像管理ソフトに転送されるので、診察室のPCの大きな画面で読影および患者さんへの説明を行います。
症例紹介
症例1は、乳がん術後で放射線化学療法後の40代女性、主訴は胸部痛で、来院時には症状は軽減していました。立位で胸部単純X線撮影を行い、CXR-AIDによる処理を行うと左上肺野に異常の可能性を指摘されました。処理前に読影した単純写真をあらためて見直すと左上肺に無血管野を認め、縦郭まで追えます(図1)。また、胸水貯留も疑われました。そこで、気胸と診断して、紹介先の呼吸器科に入院となり、胸腔ドレナージ施行によって軽快しました。なお、病状説明時に再度胸部を聴診しましたが、呼吸音の左右差を認識できませんでした。
図1

症例2は、普段は高血圧で投薬している70代男性で、検診目的での撮影です。立位で胸部単純X線撮影を行い、CXR-AIDによる処理を行うと、右中肺野に異常の可能性を指摘されました(図2)。単純写真を見直すと右中肺野に淡い結節像が認められ、spiculaを伴い、肺がんを強く疑いました。胸部CTでも同様だったため、呼吸器外科に紹介してロボット支援胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術となり、Adenocarcinomaでした。術後は早期に退院となり、現在は当院に通院されています。
あらためて骨透過処理を見ると同部に腫瘤像を認めますが、経時差分像でははっきりしませんでした。さらに前回の375日前の画像を確認すると、同部に非常に淡い陰影が疑われますが、経時差分像では描出困難であったと考えられ、CXR-AIDが見逃し防止に貢献したと感じています。
図2

症例3は、糖尿病のため他院で投薬中の60代男性で、主訴は微熱と咳嗽でした。発熱患者として対応し、インフルエンザ迅速検査はABともに陰性でしたが、新型コロナ抗原迅速検査および等温核酸増幅法であるNEAR法が陽性で、新型コロナウイルス感染症と診断しました。胸部単純X線撮影では右下肺野に浸潤像を疑い、CXR-AIDによる処理を行うと右下肺野に異常の可能性が指摘されたため、確信が得られました(図3)。これを肺炎像と考え、臨床症状および他の所見もあわせて、新型コロナウイルスの中等症I以上と診断して保健所に報告し、入院加療となりました。入院後の胸部CTでも同部に肺炎像が指摘されたと聞いています。なお、この症例はデルタ株でした。
新型コロナウイルス肺炎の画像上の所見としては、CT像で病初期の間質性パターン、両側の末梢中心とする多発性のすりガラス影が多い一方で、浸潤影や胸水は乏しく、進行によりARDSの病理像であるびまん性肺胞傷害像を呈すとされています。しかしながら、最近では小さな淡い病変のみ認める例も少なくないと報告されています。新型コロナウイルス感染症に対するプライマリケアにおいては、CTによる精査が望ましいものの胸部単純X線撮影も病期診断目的に有用と考えています。
図3

症例4は、既往歴のない40代女性で、家庭内感染による新型コロナウイルス感染症(オミクロン株)でした。初診時の胸部単純X線撮影では肺炎を認めず、軽症として感冒薬および解熱剤で保存的に加療しました。しかし、再びせきが出てきたと相談を受けて、再診時に胸部単純X線撮影を行い、CXR-AIDによる処理を行うと右上肺野に異常の可能性を指摘されました(図4)。私は前回の画像と比較して右下肺野にも陰影を疑い、経時差分像でも同部に陰影を疑いました。胸部CTでは、左右肺に斑状のconsolodationが散見され、air bronchogramや一部境界不明瞭なびまん性すりガラス像も認められたことから、少し時間の経過した新型コロナウイルスによる肺炎と診断しました。
当院における2022年2月までの新型コロナウイルス感染症症例では、新型コロナウイルス陽性患者に対して胸部単純X線撮影およびコーンビーム型CTを用いた検討では274例中53例、19.3%に肺炎像が認められました。これらはデルタ株までのデータで、オミクロン株に移行してからは1%以下となっています。オミクロン株は重症化しにくいものの、後遺症が多いとされているのは、本症例のように肺炎へと移行して、療養期間終了後にも症状が残るものがあるのではないかと考えています。
図4

症例5は、50代男性で主訴は咳嗽でした。発熱患者として対応し、インフルエンザ迅速検査、新型コロナウイルス抗原迅速検査および核酸検査を行いましたが、すべて陰性でした。胸部単純X線撮影とCXR-AIDによる処理を行うと、心陰影に重なる左下肺野に病変を疑い(図5)、側面像からは下肺野に浸潤像が疑われました。この症例は細菌性肺炎で、呼吸器科に紹介としました。
胸部単純写真で見落としやすい死角とされる横隔膜影下、肺尖部、肺門部は、特に注意が必要です。本症例ではCXR-AIDが指摘してくれましたが、心陰影に隠れる左下葉に関しては側面像を加える等の対策も望ましいと考えています。現状、CXR-AIDは胸部正面像のみの対応ですが、今後は側面像にも対応してもらえれば、さらに有用性が高まると思っています。
図5

CXR-AIDのヒートマップ表示と費用対効果について
CXR-AIDのヒートマップ表示機能は、病変候補を指摘するだけでなく、色調で確信度を示すので分かりやすいと感じています。
CXR-AIDの費用対効果については、病院や一部のクリニックでは放射線科医のもとに診療放射線技師が撮影や画像診断の補助を行っていますが、当院のような規模のクリニックでは院長以外に放射線科スタッフがいないケースも少なくないと思います。その中で、CXR-AIDによる画像診断支援は放射線科スタッフによる画像診断の補助に近い感覚で、心強い相棒として費用対効果は十分にあると実感しています。
まとめ
CXR-AIDをインストールしたEX-Mobileは、インターネット接続が不要で導入が容易であることに加え、カラー表示のヒートマップ機能およびスコア機能が分かりやすく、胸部単純写真読影の精度向上に役立っていると感じています。ご清聴ありがとうございました。
販売名:富士フイルム DR-ID 300の付属品(画像処理ユニット:DR-ID 300CL)
認証番号:221ABBZX00151000