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日本

ポータブルエコーのインタビュー

小児エコーにおけるポータブルエコーの活用意義【前編】
―腹部エコー機器「使い分け」の未来を創ろう―

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

信州大学医学部保健学科看護学系/ 信州大学医学部附属病院内視鏡センター
兼任教授
中山佳子 先生

被ばくがなく、痛みのないエコー検査は、小児の診療現場で活用されています。今後、エコープローブは、聴診器と同様に利用されるのではないかと思います。腹部エコー検査で、腹部全体的すなわち‘森’を見るときには据え置き型エコー、腹部の特定の部位すなわち‘木’を見るときにはスマホ型ポータブルエコー、そして検査を終えた子どもが笑顔になる。これが未来の腹部エコー検査のスタンダードになるかもしれません。

小児科領域におけるエコー検査の普及と課題

エコー検査は、心臓や腹部を中心に小児科診療で広く行われてきました。最近は、動脈や中心静脈を確保する際に、「エコー下穿刺」がルーチンになっています。時には、採血や抹消静脈からの点滴が難しい患者さんに、エコー画像を見ながら処置を行うこともあります。

小児科領域におけるエコー検査の適応の拡大を実感する一方で、エコーを日常的に活用する一般小児科医はまだ少ないのが現状です。その理由は大きく二つあります。

一つは、小児科専門医の研修において、系統的なエコー検査の研修が十分でないこと。もう一つは、小児科はサブスペシャルティが多岐にわたるため、エコーの使用頻度は分野によって異なることです。そのため、エコー検査の普及には小児科医によって温度差があります。

小児科医が、一定レベル以上のエコー技術を習得するための研修システムには、改善の余地があると考えています。

当院小児科における腹部エコーの実施状況

私が信州大学医学部附属病院で小児科消化器病の専門外来を開設した約15年前、腹部エコー検査に対応する据え置き型エコー装置は、ワンフロアに1台しかありませんでした。当時、1つのフロアには5つの診療科が入っており、その1台を他科とシェアする状況でした。エコー装置を使うために、空いている診察室を探し、他科の先生と譲り合い順番待ちでした。

外来の予約が分単位で詰まっている中、それらの手順を踏むことは正直難しく、「今日はエコー検査を行わず、診察をしよう」という思考に陥りがちでした。そうした状況は小児消化器病患者さんの診療体制として最適とは言い難いため、約10年前に小児科専用のエコー装置が1台導入されました。

現在、私たちの小児科消化器外来の診療日には、病棟から大型の据え置き型エコー装置を移動させています。外来は、小児科消化器グループのメンバーが4~5人で診療しているので、外来の処置室にエコーを設置し、医師と患者さんが入れ替わり立ち替わりでエコーを当てています。

診療科専用でエコー装置を使用できることはありがたいのですが、まだ聴診器と同じように“診察の流れで気軽にエコーで診る”というレベルではありません。1つの診察室に1台、さらに希望すると、医師1人につきに1台のポータブルエコーが持てれば、よりスムーズ小児消化器外来の診察が進むと考えます。

ポータブルエコーを「使い分ける」必要性

小児消化器病の診療で心がけていることは、「森を見てから、木を見ること」。つまり、「臨床推論(森)を立ててから、疑った部位(木)をエコーで可視化して確認すること」です。

このような診療の流れの中で、症例に応じて、据え置き型エコーとスマホ型ポータブルエコーの使い分けをしています。腹痛のある子どもさんに、お腹のスクリーニングとしてエコー検査をする際には、据え置き型を使い、複数のプローブを子どもさんの体格や、見たい臓器で使い分けます。一方、便秘症の維持治療中で直腸の便の溜まりだけを見たい時、また、脱水を疑った患者さんで膀胱の尿の溜まりを見たい時、スマホ型ポータブルエコーを使用しています。要所要所でエコー機器を使い分けることで、結果的に診療の質が高まると考えています。

小児の慢性便秘症の診療

機能性消化管疾患に分類される慢性便秘症は、過敏性腸症候群と並んで代表的な小児期の消化器疾患です。良性疾患ではありますが、症状のため登校できないなど、QOL(生活の質)が下がってしまうことが問題です。

当院には、慢性便秘症の治療のため長い期間通院しているお子さんもいます。
通常の便秘症の診察で、医師は「薬を飲んで症状が良くなったらまた来院してください」とは言わないことが多いようです。患者さんのご家族の中には、「たかが便秘で病院に行って、もっと怖い病気をもらったら困る」、「なるべく薬を飲まないで治療した方が良い」と思っている方がいます。

当院に紹介された患者さんには、「たかが便秘」と捉えるのではなく、週に3回以上の快便感のある排便が維持できるまでは治療を継続する。道筋がついたら、かかりつけ医に維持治療をしてもらう。時には長期にわたる治療が必要になる可能性を、まず初めに説明します。

診療ガイドラインに準じた治療をして、便秘症の症状を改善させ、患者さんと家族のQOLをあげるためには、「この先生にまた相談しに行こう」、「あの病院にまた行こう」って思ってもらうことは大事な要素の一つとなります。裏を返せば、最大の懸念事項は、患者さんやお子さんが通院しなくなることだと思います。適切な医療を提供するためには、継続的に診療に来ていただくことが重要です。

小児の便秘症診療におけるポータブルエコーの使い方

小児の慢性機能性便秘症の診療では、排便日誌を利用して薬の内服状況や排便の状態を確認します。同じように薬を服薬していても、排便回数が減ったり、便失禁が再燃する患者さんがおられます。
そこで効果を発揮するのがポータブルエコーの存在です。小児科領域でのポータブルエコーの最大のメリットは、非侵襲的に直腸の便塞栓をベッドサイドで評価できる点。そしてもう一つは、診察室で使用できる点です。

診察室にポータブルエコーがない場合は、患者さんと親御さんに診察室からエコー装置のある検査室へ移動してもらわないといけません。時にはベビーカーを押しながら、兄弟を連れて部屋を移動し、移動や準備を含めるとトータルで20分ほど時間がかかってしまうこともあります。

診察室にポータブルエコーがあれば、お子さんやその親御さんの移動の負担が軽くなります。また、医師や病院側にとっても時間のロスが少なく業務効率化につながります。

さらに乳幼児や発達特性のあるお子さんの場合、診察台の上でじっと寝ていてもらうのが難しいことがあり、“小児科ならでは”の苦労です。なだめすかしながら、お子さんが横になった瞬間に腹部の所見をパッと数秒で取るのですが、それが“至難のわざ”です。

いかに泣かせずにベッドに横たわらせ、短時間でプローブを当てるかが重要になってきます。

そこで有用なのが「スマートフォン型」のポータブルエコーです。このスマホ型のポータブルエコーを使用した結果、お子さんの診察がスムーズに進むことを実感しました。その症例を次にご紹介します。