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ポータブルエコー「iViz air」の共同開発から【看護にエコーを使う時代】を目指して
- * ポータブルエコー「iViz air」に関して「わらいふ100年対談」に掲載された対談記事です。
石川県立看護大学
学長 真田 弘美 氏
富士フイルムメディカル株式会社
代表取締役会長 岸本 尚

デジタル化の波による本業喪失の危機から第二の創業で新たな企業グループに生まれ変わった富士フイルム。その一つ、富士フイルムメディカルは、主に医療機器や医療ITの開発・販売を担う企業だ。岸本尚会長と真田弘美学長は、産学連携による超音波診断装置の開発を機に、看護師が超音波(エコー)を使う時代を夢見て切磋琢磨してきた間柄。看護に役立つエコーの開発に情熱を傾けてきたお二人に、開発秘話などを語っていただいた。
真田 私は長年、褥瘡を研究してきましたが、褥瘡の深さを目で見るのは限界があるとずっと感じてきました。それが2005年にアメリカのGEが、持ち運べて褥瘡の深さを見ることができるエコーを開発したのを知って、東京大学病院の褥瘡回診で使い、感動しました。その便利さと機能の高さに、これは看護に使えると確信しました。でも当時はまだ高額で、それで国内のメーカーに持ちかけて共同開発できないかを模索しました。その途中で岸本さんたちと出会うのですが、初めてお会いしたときに、岸本さんが「富士フイルムがなぜ生き残ったか」というお話を5分ぐらい滔々と述べられた。私はそのお話にとても感動して「あれだけのイノベーションを起こされた勇気とチャレンジ精神があれば、もしかしたら看護に必要なエコーの開発を、富士フイルムさんが実現してくれるかもしれない」そう感じたのを覚えています。
岸本 私がメディカル事業部に来た頃、全ての事業部がフィルム部門をもっていたんですけど、あっという間に売上げが下がっていくんですよ。一つの事業部で年間売上が2年ほどの間に半分ぐらいに減ってしまう。フィルムを扱う印刷会社が倒産して、特約店や街のカメラ屋さんも廃業に追い込まれ、企業としてどうやって生き残っていくか。まさに背水の陣でした。それで当時の社長が「第二の創業」を全社的に宣言し、技術の棚卸しをして、生き残れる技術、勝ち残れる技術はないか、競合にも負けない強みを発揮できる事業を全社的に探索していくわけです。幸いにメディカル事業部は残りますが、富士フイルムメディカルになってからも毎年100億ぐらい売上が落ちる状態でした。新たな事業をなんとかして開拓しないといけない。その途上、2015年に真田先生とお会いして徐々に変わっていきました。
“チェキ”
富士フイルムといえば、ユニークなテレビCMや、1986年に世界初のレンズ付フィルムとして開発した「フジカラー写ルンです」で一世を風靡した優良企業だ。しかし2000年を境に、写真業界のデジタル化の波を受け、カラーフィルムの需要は激減、ヘルスケア事業でもX線フィルムが減少の一途をたどるなど、経営や事業の大胆な変革を迫られる。
全社的に技術の見直しと新規事業の探索、開拓を進める中、ヘルスケア事業や従来からの強みである画像処理技術を活かした、超音波画像の高性能化などが主力事業に選定された。富士フイルムメディカルは、内視鏡やエコー、フィルムを使わない病院情報システムの開発など、医療事業を担う先端企業へと舵を切る。

フジカラー写ルンです
真田 褥瘡の深さが早くわかるようになれば予防できると思っていたときに、実は考えが180度変わるんです。きっかけは東日本大震災で被災した人が、生活
不活化病に陥って、避難所にいても自分でお手洗いに行けない。QOL(生活の質)がどんどん低下して褥瘡ができることがわかったことです。それで、褥瘡予防で大切なのは「最後まで自分でトイレに行けることではないか」と気づきます。そこで排尿自立に関しての医学管理料の保険収載に尽力しました。その時に、エコーで残尿があるか正確にわかれば、自立排尿の訓練にもなるし、褥瘡予防にもつながるのではないかとを考えて、御社のマーケティング担当の女性社員にお話をさせていただきました。
岸本 富士フイルムが2012年にアメリカの携帯型小型超音波診断装置メーカーであるソノサイトを買収しまして、ちょうどソノサイトのコンパクト超音波診断装置でニーズを探していた時でした。担当の女性社員が、真田先生の「看護に役立つエコーの読み方、生かし方」という著書を読んで感銘を受け、研究室の門を叩いた。その時に先生が「聴診器と同じようにエコーを使いこなせる時代が訪れ、新たな看護ケアへと発展させたい」とおっしゃって。その熱い思いと信念に感銘を受け、私たちも一緒に医療現場を変えていきたいと真剣に挑みました。我々にとって褥瘡はまったくの素人、初めての分野です。弊社の社員は、私を含めて教わることが多く、普通だったら10年ぐらいかかる事業を3年ほどで仕上げられたんですから、先生のご指導とリーダーシップのおかげです。チームを牽引していただき、堅実に臨床データを積み重ねていくことの重要性を学ばせていただきました。

超音波画像診断装置 iViz air
販売名:FWUシリーズ 認証番号:301ABBZX00003000
2017年、富士フイルムメディカルは、真田さんが当時、教授を務めていた東京大学大学院の「社会連携講座・イメージング看護学」講座に参画、共同研究がスタートする。そして2年後の2019年10月に、最初の製品である「iviz air(アイビズ・エア)」を共同開発、世に送り出す。真田さんが描いていた「聴診器のようにエコーを持ち歩く」をコンセプトにしたポータブルエコーで、AI技術を使って尿の量を自動計測する機能を備えたエコーの先駆けとなった。これにより、看護師が患者の尿をエコーで計測することが可能になり、真田さんたちがめざした排尿自立、褥瘡予防の可能性を切り拓く。その後「直腸観察」や「肺エコーガイド」など連携機能をもった製品へ応用展開され、超音波事業部を支えていくのだ。
真田 今、国内では「2040年問題」が取り沙汰されています。団塊世代が、2025年に75歳を迎えることから、後期高齢者がますます増えて2040年には45万人もの医療難民が出るとも言われています。要するに今後、日本の高齢者医療は病院だけでは支えきれなくなり、在宅医療や訪問看護がさらに大事になっていきます。そのときに、患者さんが寝たきりにならないようにケアしていくにはどうしたらいいか。看護師はフィジカルアセスメントといって、問診・視診・触診などの身体検査を用いて患者さんの全身の情報を収集・評価し、適した対応を判断するために、聴診器までは使う教育がされています。それに可視化を加えると、患者さんの状態をより早く、正確に把握できますし、良いケアにつながることもわかっています。たとえば寝たきりの人が苦しい思いをしないように、最後まで自立した人生を送れるようにするためにも、エコーで尿や便の状態が可視化できることが、とても重要なことでした。
岸本 そこが当初、私たちには理解しにくかったんです。超音波事業部は、もともと画像の質や精度を上げる技術は持っていましたし、実際にもっと良くすることはできると思っていました。ただ先生がおっしゃる尿の量を計測するとか、便が滞留しているかどうかを可視化することに、当時は「意味があるの?」と。僕らも内視鏡とか開発していましたので、画像の精度を上げるのは「そのためなの?」と。私を含めて疑問に感じていた人間は少なからずいたと思います。ところが実際に臨床現場に出て、看護師さんの話を聞いてみると全然違う反応でした。尿の量を的確に掴めることが大事で、なおかつ便が硬いか、柔らかいかもわかることでケアの仕方も違ってくる、と。論文を探しても、便のことを書いているものなんて世界的にもほとんど見つからない。真田先生の教室から出る論文だけでした。現場ニーズを探り、臨床データを積み上げていく中で、世の中の常識や我々の認識が違うんだと。それで、これからの医療は看護師がキーパーソンになっていくかもしれないと気づいていくわけです。ただ技術的にクリアするのは大変でした。AIを使って、きちんとした質のいいデータを積み上げていかないと良い結果は得られない。私たち自身が、試行錯誤を重ねながら学びました。
真田 医師がエコーを使うのは「大腸がん」を発見するのがメインだとしたら、私たちは「便」を可視化するためなのでそもそも目的が違うんですよね。富士フイルムさんと出会う前、いろんなメーカーに持ちかけた時も「それ(エコー)は医師が使うものだからできない」とずいぶん断られました。便についての論文も、小児はあってもおそらく高齢者、それも腹圧がかからない方々の論文なんて見つけようがなかったと思います。そこをクリアできたのは、看護を大事にして、リスペクトしてくださった結果です。それにしても岸本さんが、ここまで熱心に私たちの要求を聞いて実現してくださったのは、ご両親の介護を経験なさったことも大きいのではないですか?
岸本 そうなんです。褥瘡は皮膚の表面じゃなくて、中からあるものなんだというのを、父親の介護を通じて知りました。母親の場合は、嚥下と便秘です。特に便が出ないと、お尻に指を入れて取り出すんですよね。本人も苦しかったと思うし、嫌だっただろうなとつくづく考えさせられました。真田先生がおっしゃるように、便の問題は快適な生活を送るためには、実は大切なことなんだと改めて痛感しました。
看護師が使う携帯型超音波診断装置の登場は、患者のQOL向上と看護師のモチベーションにもつながっている。たとえば訪問看護の現場では、患者の便秘の状態が可視化できるので、訪問看護ステーションでは「看護師の離職率が減った」と、エコーを採用するところも増えているそうだ。ただ、便秘の診断にエコーを使うことは、診療報酬の対象にはなっていないなど、課題も残されている。それでも、今回の能登半島地震など災害急性期医療や人工透析の現場でも活躍するなど、利用は着実に広がっている。
真田 高齢者はますます増えるとしても、私は医療難民を出さない、たとえ寝たきりになっても、排泄のことは最後まで自分でできる。患者さんがなるべく自分の意思で、最後まで苦しまないで人生を全うできる。私はそれを「幸福寿命」と呼んでいますが、そういう人生に寄り添っていきたいと考えています。工学系の人たちとこれまで一緒に仕事をしてきましたが、実際にモノになって社会に実装するまでには時間もかかるし、大変なエネルギーも使います。そんな中で、岸本さんたちと仕事をして強く感じたのは、大切なのは「患者さんが楽になること」だと一生懸命に考えてくださった。医師や看護師ではなく、どうしたら患者さんが楽になるかを、毎週のミーティングで問いかけ、皆さん一人ひとりが製品にするぞという目的意識や情熱があふれていました。
岸本 今年、富士フイルムは90周年を迎えたんですが、グループ・パーパスを掲げたんですよ。「地球上の笑顔の回数を増やしていく」。富士フイルムって何をしている会社なの?ってよく聞かれます。もうフィルムもあまり扱っていないし、ワールドワイドで色々展開していくときに、私たちは何のためにある企業なんだと言うことを、もっと明確に、大々的に打ち出そうと。それで2024年から「地球上の笑顔の回数を増やしていく」企業だと世界にアピールしています。大切な人の笑顔や新しい命に寄り添い、幅広い地域でさまざまな仲間や企業とともに、地球上の笑顔の回数を増やしていく。人生100年時代の笑顔を支えるために、真田先生には看護理工学と褥瘡分野の第一人者として、これからも末長くご指導願いたいと思っています。
真田 こちらこそです。私は、エコーを能登半島地震で被災された患者さんのために使いたいと思っています。今、能登はどんどん人口が減って、訪問看護ステーションなどの福祉施設も作れない時に、訪問看護師がICTで繋いで画像を確認できるようになればきっとご本人も、ご家族も安心できるのではないかと思っています。これからも富士フイルムメディカルの皆様のご協力、ご支援をよろしくお願いいたします。
1979年、聖路加看護大学卒。1987年、クリーブランドクリニック聖路加分校ETスクール、1990年、米国イリノイ大学看護学部大学院、1987年~1997年、金沢大学医学部研究生(医学博士)。聖路加病院、金沢大学医学部附属病院で臨床経験を積み、その後金沢大学医療技術短期大学部看護学科(現・金沢大学)、1998年から金沢大学医学部保健学科の教授を務める。2004年、東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻老年看護学分野の教授に就任、東京大学大学院医学系研究科附属グローバルナーシングリサーチセンター長を最後に定年退職。定年までの18年間勤め上げ、2022年から現職。皮膚・排泄ケア認定看護師。Fellow of American Academy of Nursing(米国看護学術会議フェロー)
1977年、東京大学経済学部卒。同年、富士写真フイルム株式会社(現 富士フイルム株式会社)入社後、足柄工場印刷システム部配属。
2002年、富士フイルムメディカル株式会社へ移籍し成長事業の一つに掲げるヘルスケア事業の基盤確立と成長拡大への経験と実践を積み、2010年富士フイルムメディカル株式会社取締役専務執行役員営業本部長に就任、新規事業である内視鏡、超音波事業部長を務めた。2015年、同取締役副社長就任、2020年から現職。

本社:〒106-0031 東京都港区西麻布2-26-30富士フイルム西麻布ビル
設立:1965年1月
従業員:1,793名(2024年3月31日現在)
富士フイルムグループの一員。医療事業を担う最先端企業として、医療機器や医療用ネットワークシステム、付帯するソフトウェアの販売、開発、技術サービスを提供。人びとの健康と豊かな生活に貢献しています。
- 販売名
FWUシリーズ
- 認証番号
301ABBZX00003000













