院内の簡便な免疫反応測定を実現した動物用免疫反応測定装置「富士ドライケム IMMUNO AU10V(以下、AU10V)」の登場から12年。動物医療の進歩やお客様の声を受けて、「富士ドライケム AU20V(以下、AU20V)」へと進化した。開発プロジェクトを率いた田中良憲に、AU20Vの特徴や活用法などを聞いた。
田中 富士フイルムのAU10Vの特徴は、多彩な検査項目を、院内で簡単に測定できることです。AU20Vでもその強みは活かしつつ、測定の準備から実行、結果確認に至るワークフローをさらにシンプルにしています。
特に、希釈測定にかかる操作の簡略化は、非常に大きな改善点です。従来装置のAU10Vでは、検体と希釈液の同時セットができなかったため、測定の途中でそれらを置き換える操作が必要でした。そこでAU20Vでは、検体と希釈液を同時にセットできるように設計したため、ワンストップの測定が可能になりました。
また、操作しやすく、見やすいタッチパネルもポイントです。従来装置は物理ボタン操作のインターフェースでしたが、AU20Vでは操作性を追求し、5インチのカラー表示タッチパネルを採用しました。これにより、初めて使う人でも直感的に扱うことができます。
AU10VとAU20V 操作画面の比較
そもそも富士フイルムの動物用免疫反応測定装置は、生化学を測定するための動物用臨床化学分析装置*1のセット利用を念頭に置いて開発されているため、インターフェースやユーザビリティの統一は重要な要素の一つです。そのため今回は、メニューの遷移や設定の仕方といった細かい部分を揃えるだけではなく、並べて置いたときの統一感も意識し、見た目も進化させています。
田中 AU10Vの発売は、2013年でした。当初は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)とT4(サイロキシン)の2項目からスタートし、その後、市場のニーズを受けてCOR(コルチゾール)、TBA(総胆汁酸)が追加され、2019年にPRG(プロゲステロン)、SAA(血清アミロイドA)を加えて6項目の測定が可能になりました。これらは大変なご好評をいただき、SAA測定のために装置を導入いただくケースも多くありました。
とはいえ、発売から時間が経過したことで臨床化学分析装置*1も進化し、当初のコンセプトであったセット利用において、インターフェースや操作性に差異が生じてきました。試薬の追加に合わせて開発した希釈機能などにも、課題が見えてきました。そこで、そうした課題の改善を目指して開発プロジェクトが立ち上がりました。
プロジェクトは、開発部、マーケティング部、デザイン部のメンバーが中心となって進めました。まずはいくつかの動物病院様を訪問させていただき、現場の課題やニーズを調査しました。さらに、営業員やサービスエンジニアからの意見も収集して改善策を議論し、どのように機能や仕様に落とし込んでいくかを決めました。
また、動物用免疫反応測定装置には高い精度が求められるため、装置自体の品質だけではなく、試薬を含めた性能が必要です。AU20Vは、お客様の利便性を踏まえて従来装置と同じ試薬を使用できる仕様になったため、チームには試薬の開発者も参画しています。従来の性能を維持できる体制を敷いた上で、富士フイルムの医療機器の開発プロセスに則り、ヒト用医療機器と同等の安全性、品質を確保しています。
田中 大きく3つあります。一つ目は装置サイズです。自動希釈測定にかかる操作の簡略化には、検体と希釈液の同時セットが必要でしたが、単純に並べるだけでは装置の設置面積が大きくなってしまいます。しかし、動物病院様ではさまざまな装置を利用されるため、省スペースの設計は必須です。コアな性能を維持しつつ、いかにサイズアップを抑えられるか。特に横幅を取らない設計は、優先度高く取り組みました。そうして試作を重ねた結果、従来装置とほぼ同等の、B4サイズに収まるデザインに仕上げることができました。
二つ目は、AU10Vとの相関性です。従来装置からの移行を想定した際、最も価値を損ねるのは、測定値が変わってしまうことです。そのため、従来装置との相関性については十分に評価を重ね、その精度を維持しています。
そして三つ目は、ユーザビリティの改善です。従来装置は場合によって、検体や希釈液をセットする際にスペーサーが必要でした。ところが、これを紛失してしまう問題が多くありました。また、装置の精度を確認するためのツール「装置チェック治具」についても同じことが起こっていたため、仕様の変更や機能の追加で解決しました。こうした細かい部分も含めて見直し、課題の一つひとつに手を加えています。
田中 そもそもTSHには非常に高い感度が求められることから、従来ではいわゆる液体法と呼ばれる大型の検査装置が用いられてきました。そのため、多くの動物病院様は外注検査に委託せざるを得ず、検査結果を得るまでに時間を要していました。
院内検査を実現するため、小型かつ高感度の両立を目指し、開発されたのがSPF法を採用した富士ドライケムAUシリーズです。独自の高感度な蛍光粒子を活用し、小さな試薬カートリッジの中で反応を完結させることで、装置の小型化と測定時間の短縮を実現しています。また、大型の検査装置では精度を維持するためにキャリブレーションという作業が必要でしたが、富士ドライケムAUシリーズではこれも不要となっています。
田中 従来装置では、検査途中に検体と希釈液を入れ替える作業が必要でした。たとえ10分で測定ができるとしても、そのためだけに装置の前に待機しているわけにはいきません。また、入れ替え作業のタイミングやスピードといった個人差は測定結果にほとんど影響がないとはいえ、厳密にゼロとは言い切れません。AU20Vでは入れ替え作業そのものを無くしたことで、手技によるばらつきを解消しています。これによって装置の前に待機する必要がなくなったこと、言い換えれば、測定中に他の業務ができることは、大きな価値があるのではないかと思います。
田中 院内で約10分という短時間で測定ができ、すぐに診断に活かせるところがAU20Vの強みです。特にTSHとT4を院内で測定できることは、甲状腺機能障害の早期発見につながります。そのことは結果的に、飼い主様の満足度向上にも貢献できるのではないかと考えています。
AU20Vは臨床化学分析装置*1とのセット利用をすることで、患者の状態をより深く知ることができる装置です。今後も獣医療へどのような価値提供ができるのかを追求し、新しい機能や検査項目の追加などの開発に取り組んでいきます。
- *1 動物用臨床化学分析装置:富士ドライケム
- *2 SPF:Surface Plasmon Fluorescence(表面プラズモン蛍光)
- 販売名
富士ドライケム AU20V
- クラス分類
動物用 一般医療機器
- 届出番号
7動薬第250号













