富士フイルム株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長・CEO:後藤禎一)は、独自の浸透型単層リポソームに「ヒト型セラミド」を配合した「セラミド配合単層リポソーム」を開発しました。また、同リポソームにおいて、皮膚のバリア機能*1の一つである肌内部の水分蒸散抑制機能が従来よりも向上することを確認しました。今後、スキンケア化粧品の開発に応用していきます。なお、当社は2025年7月4日より開催される「第50回日本香粧品学会学術大会」で今回の研究成果を発表いたします。
- *1 肌内部の水分蒸散を抑制する機能や、外的因子(アレルギー物質、大気汚染物質など)の侵入を防ぐ機能のこと。
当社は、スキンケア化粧品分野の研究開発において、皮膚への浸透性や皮膚のバリア機能を高める技術の開発などに注力しています。皮膚への浸透性に関する分野では、医薬品分野で培ったリポソーム技術をスキンケア分野に応用することで、皮膚を構成する表皮・真皮それぞれへの浸透性を高める独自設計の「単層リポソーム」2種を2022年に開発しました。また、皮膚のバリア機能に関する分野では、肌内部の水分や、スキンケア化粧品に配合する成分を肌内部に留めるために、重要な役割を担う角層へのアプローチなどを研究しています。
今回当社は、角層になじみやすいリン脂質で構成される「単層リポソーム」の処方技術を進化させ、肌内部の水分蒸散抑制機能を向上させる「セラミド配合単層リポソーム」の開発に取り組みました。
角層は、角質細胞と角層細胞間脂質で構成されています。角層細胞間脂質は、「ヒト型セラミド」のほか、コレステロール、脂肪酸などから成り、層状に積み重なるラメラ構造を形成することで、肌内部の水分蒸散を抑制しています。
当社は角層になじみやすいリポソームがヒト型セラミドの「ラメラ構造」形成能を促進すると考え、リポソームの外側の層に3種*2の「ヒト型セラミド」を配合した、「セラミド配合単層リポソーム」を開発しました(図1)。
「ヒト型セラミド」は水にも油にも溶けにくく、結晶性が高いため、単層リポソームに配合する際に、粒子サイズの増大化や、単層構造が安定しないという課題がありました。そこで当社は、リポソームを構成する膜に新たな独自処方を施すことで、「単層リポソーム」に「ヒト型セラミド」を安定的に配合することに成功しました。
- *2 N-オレオイルフィトスフィンゴシン、ヒドロキシステアリルフィトスフィンゴシン、ステアロイルオキシヘプタコサノイルフィトスフィンゴシンのこと。


当社は、3次元皮膚モデルを用いて、3種の「ヒト型セラミド」を配合した「セラミド配合単層リポソーム」が、皮膚バリア機能の一つである肌内部の水分蒸散抑制機能に与える影響を検証しました。その結果、「セラミド配合単層リポソーム」を添加した3次元皮膚モデルでは、従来の「セラミド非配合単層リポソーム」を添加した同モデルと比較して、水分の蒸散抑制能*3が約3倍向上したことを確認(図2)。本結果から、「セラミド配合単層リポソーム」が肌内部の水分蒸散抑制機能を向上させることを明らかにしました。

3次元皮膚モデル(角層を含む)に、水およびセラミド非配合単層リポソーム、「セラミド配合単層リポソーム」をそれぞれ同量添加。24時間経過時の水分の蒸散抑制能を測定した。
「セラミド配合単層リポソーム」では、セラミド非配合単層リポソームと比べて水分の蒸散抑制能が約3倍に向上した。
- *3 「セラミド非配合単層リポソーム」、「セラミド配合単層リポソーム」をそれぞれ添加し、24時間経過した3次元皮膚モデル内部から蒸散した水分量を、水を添加した同モデルから蒸散した水分量と比較した値。
当社は、「セラミド配合単層リポソーム」が水分蒸散抑制機能を向上させるメカニズムを解明するため、「セラミド配合単層リポソーム」と従来の「セラミド非配合単層リポソーム」と水をそれぞれ添加した3次元皮膚モデルの角層細胞間脂質を透過型電子顕微鏡で解析しました。その結果、「セラミド配合単層リポソーム」、および「セラミド非配合単層リポソーム」を添加した皮膚モデルでは、水を添加した同モデルと比較して角層細胞間脂質の厚みが増す傾向を確認しました(図3 透過電子顕微鏡像)。さらに、ラメラ構造の状態を「小角X線散乱法」*4を用いて詳細に解析したところ、「セラミド配合単層リポソーム」を添加した皮膚モデルの角層細胞間脂質において、従来の「セラミド非配合単層リポソーム」に対してラメラ構造の形成が強化されたことも明らかになりました(図3 角層細胞間脂質のイメージ図)。本結果から、「セラミド配合単層リポソーム」が角層細胞間脂質のラメラ構造の形成を強化し、肌内部の水分蒸散抑制機能を向上させたと考えられます。
- *4 試料にX線を照射し、ナノメートルオーダーの微細な構造を調べる手法のこと。

- *5 小角X線散乱法を用いて解析した結果をもとに作成したイメージ図
3次元皮膚モデルに水、「セラミド非配合単層リポソーム」、「セラミド配合単層リポソーム」をそれぞれ添加し、24時間培養。透過型電子顕微鏡を用いて角層細胞間脂質のラメラ構造を観察し、さらに「小角X線散乱法」を用いてラメラ構造の状態を詳細に解析した。
「セラミド配合単層リポソーム」は、水を添加した3次元皮膚モデルに対しては角層細胞間脂質の厚みが増す傾向を確認。従来の単層リポソームに対してはラメラ構造の形成強化が認められた。
富士フイルムホールディングス株式会社
コーポレートコミュニケーション部 広報グループ
株式会社 富士フイルム ヘルスケア ラボラトリー
化粧品事業部 マーケティング統括部
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