このお知らせは、報道機関向けに発信している情報です。
富士フイルム株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長・CEO:後藤 禎一)は、2025年4月29日から5月4日に米国ニューメキシコ州アルバカーキで開催された、自然言語処理において世界で最も権威のある国際会議の一つである「NAACL 2025」*1のIndustry Track(産業応用部門)に、当社の論文が採択されたことをお知らせいたします。
当社は、CTやMRIなどで撮影された医用画像に対して放射線科医が作成する読影レポートを構造化する自然言語処理「読影レポート構造化AI」を開発しており、この「読影レポート構造化AI」の最新の研究成果をまとめた論文がNAACL 2025に採択されました。
読影レポートは、放射線科医が患者の医用画像を観察し、病変の有無や病変の特徴などを網羅的に記載した文書です。放射線科医の知見や判断に至った思考過程が言語化された貴重な情報であり、さまざまな活用が期待されています。しかし、読影レポートは多種多様な医師特有の言い回しや医学専門用語を含んだ自由記述文での記載が主流のため、記載内容をそのまま統計情報の作成やAI学習データ、プログラム開発などに利用することが困難でした。この課題を解決するために、当社は「読影レポートを高精度に解析する新しい構造化方法」を提案し、これを開発しました。
読影レポートは、診療医に向けた文書であり、画像上の複数の病変(所見)を一つの文章にまとめて記載する場合があるため、個々の所見に対応する画像領域と1対1で対応付けるための構造化を正確に行うことはこれまで困難でした。そこで、当社はグラフ構造を活用した自然言語処理技術を提案し、高精度で所見ごとに分離・構造化することに成功しました(図1)。このアプローチにより、個々の医師特有の所見の記載方法に依存することなく、読影レポートの効率的な解析を実現しました。
左:既存技術、右:当社モデル
実際の活用シーンにおいては、施設、部位、疾患によらずにさまざまな読影レポートに対して高精度で構造化することが求められます。今回、多施設かつ多様な臓器・疾患を含む約8,400件の大規模な読影レポートデータセットを準備し、「読影レポート構造化AI」の性能評価を実施しました。性能評価の結果、当社「読影レポート構造化AI」が、既存の医療特化型言語モデル(UTH-BERT)や大規模言語モデル(GPT-4o)と比べて、約2倍となる約80%の正答率を達成し、優れた性能を示すことが確認できました(図2)。当社「読影レポート構造化AI」は施設間での性能差が小さく、汎用的に高精度な構造化が可能であることを示しています。
- 大阪大学の読影レポートで学習した当社モデルを使って、大阪大学を含む7施設での評価を実施
- UTH-BERT(医療特化モデル)、GPT4oの他モデルと比較(評価結果は、100点満点の正答率に相当)
* GPT-4oの推論にはコストがかかるため、各施設200レポートをサンプリングして評価
今回の研究成果から、当社「読影レポート構造化AI」は、医療現場で蓄積された医師による診断情報の活用をより効率的かつ効果的に進めるための基盤技術となることが期待されます。
今後も「読影レポート構造化AI」のさらなる性能向上に取り組み、医療現場での早期の実用化を目指します。
富士フイルムはAI技術ブランド「REiLI」のもと、医療におけるAI技術の活用の幅を広げることで、画像診断支援、術前シミュレーションの支援など、医療現場のワークフロー支援に取り組んでいきます。
- *1 「NAACL (The Nations of the Americas Chapter of the Association for Computational Linguistics; 北米計算言語学学会)」は、ACL(Association for Computational Linguistics)の北米支部が主催する国際会議。世界中の研究者が最新の技術を共有する場として定期開催されている。
富士フイルム株式会社
メディカルシステム事業部
- * 記事の内容は発表時のものです。最新情報と異なる場合(生産・販売の終了、仕様・価格の変更、組織・連絡先変更等)がありますのでご了承ください。













