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日本
ニュースリリース

2022年11月21日

タンパク質の一種「BMP4(ビーエムピーフォー)」がシミ形成の重要因子であることを発見
シミ予防につながる効果を見いだした植物由来成分「ワレモコウエキス」を独自の単層リポソームに含有することに成功

富士フイルム株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長・CEO:後藤 禎一)は、タンパク質の一種である「BMP4(ビーエムピーフォー)」がシミの形成にかかわる重要な因子であることを発見しました。また、植物由来成分の「ワレモコウエキス」に「BMP4」を抑制しシミ予防につながる効果があることを見いだしました。さらに、当社の高度な技術を用いて、「ワレモコウエキス」を独自の単層リポソーム※1に含有することに成功しました。
今後、今回の研究成果として確認できた、「シミの形成の重要因子である『BMP4』を抑制する」というシミ予防の新しいアプローチを、化粧品開発に応用していきます。

  • ※1 リポソームとは、細胞膜の構成成分であるリン脂質を用いて、100~200ナノメートルサイズ(1ナノメートルは、1メートルの10億分の1のサイズ)に微細化されたカプセル状の微粒子のこと。

研究背景

シミは、メラノサイトから産生される過剰なメラニンが原因で形成され、そのメラノサイトはメラノサイト幹細胞から分化することでつくられることがわかっています(図1)。
当社は、メラノサイト幹細胞からメラノサイトへの分化を抑制することがシミ予防につながると考え、研究を進めました。
メラノサイト幹細胞は、真皮の毛包付近の領域(バルジ領域)に存在し、メラノサイトへと分化しながら、体毛付近の表皮に移動すると考えられています。一方で、シミは、体毛付近以外でも発生していることから、当社はバルジ領域以外にもメラノサイト幹細胞が存在するという仮説を立て、その検証を行いました。

【図1】シミ形成のメカニズム(イメージ図)
【図1】シミ形成のメカニズム(イメージ図)

今回の研究成果の詳細

1. ヒトの皮膚の毛包間表皮※2に、メラノサイト幹細胞が存在する可能性を見いだした

ヒトから摘出した皮膚から表皮を分離して観察したところ、メラノサイト幹細胞にみられるタンパク質を含む細胞を発見しました(図2)。
この結果は、メラノサイト幹細胞が表皮にも存在することを示唆しています。従って、メラノサイト幹細胞の分化を表皮で抑制することが、シミ予防の有効なソリューションになると考えられます。

【図2】ヒトから摘出した皮膚の表皮におけるメラノサイト幹細胞の観察
表皮を分離
【図2】ヒトから摘出した皮膚の表皮におけるメラノサイト幹細胞の観察1
毛包間表皮の観察
【図2】ヒトから摘出した皮膚の表皮におけるメラノサイト幹細胞の観察2
実験方法

ヒトから摘出した皮膚から表皮を分離し、メラノサイト幹細胞にみられるタンパク質「c-KIT」を白、すでに分化したメラノサイトにみられるタンパク質「TYRP1」を赤に染色した。

結果

毛包間表皮に、「c-KIT」のみ発現し「TYRP1」が発現しない細胞が発見された。これは、表皮にもメラノサイトに分化する前のメラノサイト幹細胞が存在することを示唆しています。

  • ※2 毛包と毛包の間の周囲に毛が存在しない領域。

2. 「BMP4」がメラノサイト幹細胞からメラノサイトへの分化を促す重要因子であることを発見

メラノサイト幹細胞からメラノサイトに分化する詳細なメカニズムの解明に取り組みました。分化メカニズムの分析と解明に必要な量のメラノサイト幹細胞を得るため、当社がもつ高度なiPS細胞技術を活用することで、iPS細胞からメラノサイト幹細胞を効率よく作製する手法を構築。本手法で作製したメラノサイト幹細胞を用いて、タンパク質の一種である「BMP4」の有無に応じたメラニン産生量を比較したところ、「BMP4」を添加した場合ではメラニン産生量が2倍以上増加しました(図3)。
この結果から、「BMP4」はメラノサイトへの分化を促す重要な因子であり、シミの形成に影響していると考えられます。

【図3】iPS細胞からメラノサイトへの分化過程と「BMP4」のメラニン産生への影響
【図3】iPS細胞からメラノサイトへの分化過程と「BMP4」のメラニン産生への影響1
「BMP4」有無によるメラニン産生量
【図3】iPS細胞からメラノサイトへの分化過程と「BMP4」のメラニン産生への影響2
実験方法

iPS細胞から、高効率でメラノサイト幹細胞へ分化させる手法を構築した。メラノサイト幹細胞からメラノサイトへの分化過程で「BMP4」を添加し、メラノサイトからのメラニン産生量を検証。「BMP4」を添加していない場合を100%とし、添加した場合のメラニン産生量を相対値で示した。

結果

「BMP4」を添加した場合では、メラニン産生量が2倍以上増加することが分かった。

また、メラノサイトへの分化を加速させる要因についても研究を行いました。これまで、紫外線照射による炎症がメラノサイトへの分化を促進させることは知られていましたが、それ以外の要因については十分に研究が進んでいませんでした。そこで、さまざまな炎症因子を検証したところ、皮膚の乾燥や摩擦などで生じる炎症物質「IL-1β(アイエルワンベータ)」が、メラノサイトへの分化を加速させることが分かりました(図4)。メラノサイトの分化を抑制するためには、炎症因子に対するアプローチも効果的であることを示唆しています。

【図4】「IL-1β」有無によるメラニン産生量
【図4】「IL-1β」有無によるメラニン産生量
実験方法

図3の実験で構築した手法を用いて、メラノサイト幹細胞を作製し、同細胞に「IL-1β」を添加。メラノサイト幹細胞より分化したメラノサイトからのメラニン産生量を測定し、「IL-1β」の分化への影響を検証した。「IL-1β」を添加しない場合のメラニン産生量を100%とし、添加した場合の産生量を相対値で示した。

結果

「IL-1β」を添加した場合では、メラニン産生量が2倍以上増加することが分かった。

3. 「ワレモコウエキス」に「BMP4」の遺伝子発現の抑制効果を発見

メラノサイトへの分化を防ぐ成分を探索したところ、血行促進や抗炎症など幅広い用途で生薬として用いられている「ワレモコウエキス」に「BMP4」の遺伝子発現を抑制する効果があることを発見しました(図5)。さらに、メラニン産生への効果を確認するために、iPS細胞から分化させたメラノサイト幹細胞に「ワレモコウエキス」を添加し検証したところ、分化後のメラノサイトからのメラニン産生量が約50%減少することを確認しました(図6)。以上より、「ワレモコウエキス」がシミの原因であるメラニンの産生を抑制し、シミ予防に有用であると確認しました。

【図5】「ワレモコウエキス」による「BMP4」の遺伝子発現の抑制効果
【図5】「ワレモコウエキス」による「BMP4」の遺伝子発現の抑制効果
実験方法

ヒトの表皮細胞に10ppmの「ワレモコウエキス」を添加して培養。添加から24時間後に、「BMP4」の遺伝子発現量を測定した。「ワレモコウエキス」を添加していない場合の遺伝子発現量を100%とし、添加した場合の発現量を相対値で示した。

結果

「ワレモコウエキス」を添加することにより、「BMP4」の遺伝子発現量が80%以上減少することを確認した。

【図6】「ワレモコウエキス」有無によるメラニン産生量
【図6】「ワレモコウエキス」有無によるメラニン産生量
実験方法

図3の実験で構築した手法を用いて、メラノサイト幹細胞を作製し、同細胞に「ワレモコウエキス」を添加。メラノサイト幹細胞より分化したメラノサイトからのメラニン産生量を測定した。「ワレモコウエキス」を添加していない場合のメラニン産生量を100%とし、添加した場合の産生量を相対値で示した。

結果

「ワレモコウエキス」を添加することにより、メラニン産生量が約50%減少することが分かった。

4. 「ワレモコウエキス」を独自の単層リポソームに含有した表皮用ワレモコウリポソームを開発

「ワレモコウエキス」は、水溶性と油溶性の成分を含んでいます。表皮の最外層である角層が主に油溶性成分で構成されているため、水溶性成分は角層となじみにくく、「ワレモコウエキス」を皮膚に浸透させるためには、油溶性成分と同時に水溶性成分を皮膚に浸透させるための工夫が必要です。そこで、成分の浸透速度を制御できるよう設計した、独自の表皮用リポソーム(下記参照)を活用して、「ワレモコウエキス」を含有した表皮用ワレモコウリポソームを開発しました。

[画像]表皮用ワレモコウリポソーム
【参考】独自の表皮用リポソーム

当社は、水溶性成分の浸透性を高精度に制御し、表皮・真皮での浸透性をそれぞれ高める独自設計の単層リポソーム2種(表皮用リポソーム・真皮用リポソーム)を開発しました。
表皮用リポソームによる水溶性成分の浸透性実験において、同リポソームに含有した場合では、含有しない場合と比べて水溶性成分の浸透量が約3倍に高まることを確認しています(図7)。

お問い合わせ

報道関係

富士フイルムホールディングス株式会社
コーポレートコミュニケーション部 広報グループ

その他

株式会社 富士フイルム ヘルスケア ラボラトリー
商品開発・ブランド推進本部

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