富士フイルムビジネスイノベーション

挫折が教えてくれた「最後までやり切る」ことの重要性。プロジェクト終了を成長に変えた若手エンジニアの挑戦

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#働き方
#AI技術
インタビューに答える瀬戸さん

富士フイルムビジネスイノベーション(以下、富士フイルムBI)でAI技術の研究開発を担う「コアテクノロジーラボ」で、AI-OCR技術の開発に携わる瀬戸 卓弥さんは、入社当初から社内制度「Plism活動(※)」を積極的に活用し、部署を越えた「人脈」を築いてきました。

業務の10%を使ってスキル向上やキャリア開発を促す制度

変化や進化の激しいAI時代における技術選定の指針や、仕事に向き合うスタンス、目指すキャリア像について瀬戸さんに伺いました。

瀬戸 卓弥さん

瀬戸 卓弥

Takumi Seto

ビジネスソリューション事業本部 コアテクノロジーラボ 兼 CTO戦略室 AI CoE

大学時代は生命情報学を専攻しており、医療画像×AI技術の研究に従事。2021年に入社以降、技術開発部門(現コアテクノロジーラボ)に所属し、AI技術開発(表構造解析・次世代型OCR技術/LLM×OCR)を担当。2025年1月からCTO戦略室を兼務し、技術戦略の立案にも携わっている。

Plism活動を起点に築いた「人脈」が業務を円滑に進める原動力に

業務に就いて語る瀬戸さん

── 2021年に富士フイルムBIへ入社後、どのような業務に携わってきましたか?

入社後は、当時の研究技術開発本部に所属し、AI-OCRを中心としたドキュメント情報抽出技術や表構造解析技術の開発に従事してきました。OCRは、画像などの非構造データから文字を認識する技術ですが、実務で求められるのは単なる文字認識ではありません。

例えば、請求書処理では金額、請求日、支払期限といった情報を「意味として理解する」ことが重要になります。近年は生成AIの発展で、こうした領域の可能性が大きく広がり、高精度な製品も次々と登場しています。

私は文字を正確に認識し、そこに意味を付与する技術をいかに高精度に実現するかという点にフォーカスして、技術開発に取り組んできました。

特に製造業や小売業などの業界では、複雑な帳票フォーマットが数多く存在しており、生成AIが登場した今でも、業種や業務への特化が十分に進んでおらず、課題が残っていると感じています。そのため、文字列から意味を推定するだけでなく、行や列、セルの関係性といった表構造そのものを適切に理解する技術が求められるわけです。

技術開発を説明する瀬戸さん

── ソフトウェア系の技術開発や人材育成プログラム「Plism活動」への積極的な参加で得た学びは何かありますか?

業務時間の10%を活用して、自分の関心のある活動に取り組む「Plism」は社内制度の一つで、入社当初から参加していました。この活動を通じて、他部門の人たちと継続的にコミュニケーションを築いてきたことで、実際の業務でも物事がスムーズに進むようになりました。

やはり組織や部門が異なると、「誰に相談すればいいのか」と立ち止まってしまいがちですが、そうした壁を越えやすくなった点は自分にとって大きなプラスで、まさにPlismで築いた人脈が最大の資産となっていると感じています。

また、日常業務では関わる機会の少ない他部門の人たちと交流を持てたことで、通常業務の枠を超えた技術を学ぶ機会にもつながりましたね。

失敗を「恥ずかしい」と思わず、最後までやり切ることの重要性を学んだ

キャリアを語る瀬戸さん

── これまでのキャリアで印象に残っているプロジェクトやエピソードがあればお聞かせください。

独自の画像処理技術を用いた新規事業立ち上げプロジェクトが、とても印象に残っています。

当時は昇格試験と並行していたこともあり、開発に大きく貢献できなかったのが心残りですね。振り返ると、入社1、2年目の自分は小さなプライドに縛られていた部分もあったと思います。挑戦して失敗することを「恥ずかしい」と感じてしまい、一歩踏み出すことをためらっていたんですね。

ただ、それが3年目に入り、事業化に向けた正念場を迎えたことで状況が一変したんです。その時期は精神的にも体力的にも大変な時期で、もはやプライドを気にしている余裕はなく、分からないことは素直に聞きながら一つひとつ前に進めていくしかありませんでした。

この1年間を通じて、最後までやり切ること。仮にうまくいかなかったとしても、その原因を分析して次につなげることが大事だと強く実感しました。

「すべてを自社開発しない」。スピードと品質を両立させる技術選定

戦略策定を語る瀬戸さん

── 会社全体の将来を見据えたAI戦略策定を行う「AI CoE」ではどのような活動を行っていますか?

主にAI技術ブランド「REiLI Business」の中核をなす「認識・構造化AI」の技術戦略の策定に携わり技術を体系的に整理し、内製・外部活用を含めた開発方針を決めていく役割を担っています。

例えば、生成AIとOCRを組み合わせた製品をリリースした際にも、内製技術に固執せず、「自社として強みを持つべき技術は何か」「スピードや品質を考慮すると、他社の技術を利用した方が合理的な領域はどこか」といった観点から戦略を描いています。

また、私はコアテクノロジーラボと兼務しているため、策定した戦略に基づいて実際の商品に実装するAI開発まで関わっています。

── 技術戦略を策定する際に心がけていることや、変化の激しいAI時代に順応するための状況判断で意識していることはありますか?

何より重要なのは、最新技術のキャッチアップを怠らないことだと考えています。特にAIの技術が進化するスピードはものすごく速くて、今は有力に見える選択肢でも、数か月後や数年後には状況が大きく変わる可能性があります。そのため、常に最新の動向を追い続ける姿勢が不可欠です。

さらに、スピード感も非常に重要です。OCRの分野であれば、実際に競合製品に触れて精度を確認したり、プレスリリースや公開情報を継続的にチェックしたりといった、地道な情報収集と検証を繰り返すことが、最終的に技術選定の精度を高めることにつながると思います。

加えて、生成AIを取り巻く技術や活用に対するガイドラインの整備が進み、次々と新しいルールや考え方が出てくると予測しています。こうしたルールメイキングの動向も常にウォッチしていく必要があるでしょう。

自分で考えて、問いを立てる力を磨くインターンシップ

インターンシップの説明をする瀬戸さん

── コアテクノロジーラボではインターンシップのメイン担当もされてますが、富士フイルムBIではどのような学生を求めていますか?

新卒採用では「自分で考えて行動できる人材」を何よりも重視しています。もちろん、Kaggleでの実績や学術論文の発表などがあれば望ましいですが、それ以上に、「なぜこの仕事をやるのか」「どうやって前に進めるか」をしっかり考えて、物事を進めていける力が重要です。

その考え方はインターンシップの設計にも反映されています。

私たちのインターンでは、あらかじめ答えが決まっている課題を渡すのではなく、漠然としたお客さまの課題を提示し、その中から「本質的に解決すべき課題は何か」を自分たちで見極めてもらい、解決策を提案してもらうアイデアソン形式のプログラムを実施しています。

最近の学生は、教えられた公式や手順をしっかり実践して、あらかじめ正解が用意された課題を解く力は非常に高いと感じます。 その一方で、「そもそも課題は何か」というように、自ら問いを立てる段階にまで踏み込める学生は少ない。そんななかで、当社のインターンを通じて「自ら課題そのものを定義すること」の意義に共感し、実践してくれる方と働きたいと思っています。

「企業としての存在意義」 を示すことが競争優位性の源泉になる

これからの強みを語る瀬戸さん

── これからの時代、AIとどのように向き合いながら共存・共創していくのが良いと思いますか?

技術戦略の策定に関わって思うのは、AIの進化によって「人間が本当にやりたいことに集中できる世界」の実現に近づくんじゃないかということです。仕事がなくなるというよりも、AIと人間が役割分担しながら協働していく関係になっていくと捉えていますね。

例えば、もし戦国時代に生まれていたら、「どうやって戦を生き残るか」というスキルが必須だったわけです。それが今の時代では、「AIをどう使いこなすか」に置き換わっており、人間とAIが一緒に価値を高め合っていくことが重要なスキルセットになっている。つまり、変化を恐れるよりも、柔軟に適応していく姿勢がより大事になるのではと考えています。

一方で、人間の身体性やリアルの体験価値といった“ハードウェア”の価値も高まっていくと考えています。人間が完全に電脳化でもしない限り、最終的には人間らしさの残る領域が最も重要になっていくのではないでしょうか。

── AIによるアウトプットは同質的・均質的になりがちですが、そのなかで“らしさ”や“個性”を出すためには何が必要だとお考えですか?

現在、多くの企業がAI活用に取り組むなか、単に技術力があるだけでは差別化が難しくなっています。そのため、「どんな社会課題に向き合っているのか」を明確に打ち出していくことが不可欠で、当社で言えば、「AIデバイド(情報格差)の解消」 をテーマに、全ての企業がAIを活用し公平に競争力を発揮できるよう、具体的な業種・業務にアプローチするテーマに取り組んでいます。技術の先にある 「企業としての存在意義」 を示すことが、結果的に競争優位性にもつながると思いますね。

また、AI-OCR領域で言うと、「世の中にほとんど出回らない業種・業務特化のドキュメントをどれだけ扱ってきたか」という知識とノウハウこそ、当社ならではの強みだと感じています。これまでのOCRの流れは、紙文書をスキャンして電子化し、PDFとして保存するまでが中心でした。しかし今後は、抽出した情報をもとにドキュメント自体を再構成し、新しい価値を提供することが求められるでしょう。ドキュメントを「保管する」だけではなく、「活かす」ところまで支援するというイメージです。

そうした取り組みは、「DocuWorks」のような既存プロダクトとも親和性が高いですし、複合機や「DocuWorks」といったデータの蓄積基盤から情報を取り出し、新たな価値を創出する一連のプロセスを統合的に提供できるのは、大きな強みだと言えます。

ドキュメントハンドリング・ソフトウェア

PC上に再現した電子の机と、その上に並べた文書を閲覧・編集するツールで構成された、ドキュメントハンドリング・ソフトウェア「DocuWorks」

「なぜこの技術に取り組むのか」を問い続け、AIデバイドの解決に挑む

今後の展望に答える瀬戸さん

── 最後に今後の展望をお聞かせください。

今の自分の立ち位置としては、AI×OCRの文脈におけるテーマの中で、アルゴリズムや評価の設計をするだけではなく、「商品をどう作って世に出していくか」というところまでを担っています。そのため、まずは自分の担当したプロジェクトがお客さまの課題解決に直接貢献することが重要だと感じています。

お客さまの課題に対して真摯に向き合い、自分なりにアプローチを考えていくことで、扱う課題の幅が少しずつ広がっていく。その繰り返しの先に、「なぜこの技術に取り組むのか」という社会的意義の視点もより自分事になっていくのではないかと思います。

写真
山野一真
古田島大介
編集
ヤスダツバサ(Number X)