富士フイルムビジネスイノベーション

「うまくいき過ぎた会社は、新しいことができない」CINOとCTOが語るイノベーションの起こし方

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対談する二人

富士フイルムグループは、企業名が表すように写真フィルム事業で、そして富士フイルムビジネスイノベーションは複合機ドキュメント事業で、それぞれ業界をリードする存在として成長してきました。しかし、成功を収めた企業ほど、既存事業や過去の成功体験が変革への壁となることがあります。

富士フイルムビジネスイノベーションが2026年5月から新たにスタートした若手ソフトウェアエンジニア向けプログラム「Edge Talks」の第1回目では、富士フイルムビジネスイノベーション 取締役執行役員 CINO(Chief Innovation Officer)の井上氏と、取締役 常務執行役員CTOの鍋田氏が対談しました。

「うまくいき過ぎた会社は、新しいことができない」

── 井上氏が語ったその言葉を起点に、組織変革の難しさやオープンイノベーションの本質、そしてAI時代に求められる技術者像について語り合いました。

井上 あまねさん

井上 あまね

Amane Inoue

富士フイルムビジネスイノベーション 取締役執行役員 CINO

半導体分野での経験を経て2019年に富士ゼロックスに入社。アドバンスドインダストリアルサービス事業本部長としてソリューション事業の成長を推進し、新規事業の立ち上げや国内外でのM&Aを通じたインオーガニック成長を牽引。2025年より取締役執行役員CINOとしてビジネスソリューション事業を統括。

鍋田 敏之さん

鍋田 敏之

Toshiyuki Nabeta

富士フイルムビジネスイノベーション 取締役 常務執行役員 CTO

1994年に富士フイルムに入社。写真フィルムの材料開発を経た後、医療IT・AIを活用した医療機器やサービス開発を牽引し、2022年に執行役員に就任。2024年より富士フイルムビジネスイノベーション株式会社の取締役常務執行役員CTOとして技術開発全般を管掌。2026年にAI技術ブランド「REiLI Business」を立ち上げ、事業横断でAI戦略と技術開発を推進。

コラム:「Edge Talks」とは? 

「Edge Talks」のプログラム風景

「Edge Talks」は、富士フイルムビジネスイノベーションが2025年度に開始した若手ソフトウェアエンジニア向けの人材育成プログラムです。
AIやIT技術の進化が加速する中、自ら課題を見出し、提案や挑戦につなげる「課題形成力」の向上を目的としています。役員や社内外の有識者との対話を通じて、多様な価値観や考え方に触れる機会を提供していることが特徴です。

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「うまくいき過ぎた会社は、新しいことができない」

窓を背に話す井上さん

鍋田 井上さんは半導体業界からキャリアをスタートされ、その後は医療事業や新規事業、M&Aなど、さまざまな事業変革に携わってこられました。そうした経験を通じて、変化できる組織と変化できない組織の違いはどこにあると感じていますか。

井上 私がこれまでさまざまな事業や会社を見てきて強く感じるのは、失敗している会社よりも、むしろ成功している会社の方が変化は難しいということです。既存事業が順調に成長し、利益も出ていて、市場シェアも高く、お客様からも評価されている。そういう状況では、組織の中に危機感が生まれにくくなります。新しいことに挑戦しようとしても、「なぜ今それをやる必要があるのか」「今のやり方で十分うまくいっているじゃないか」という声が出てきます。

私はよく「あまりにもうまくいき過ぎた会社は、新しいことができない」と話しています。もちろん今の事業を伸ばすことは大切ですが、市場も技術も必ず変化します。成功体験が強い組織ほど、その変化に気付くのが遅くなることがありますが、危機になってから変わるのでは遅いのです。余力がある時に次の一手を打てるかどうかが、企業の将来を大きく左右します。

私は半導体事業で成長も衰退も経験しましたし、その後は医療や新規事業、M&Aにも携わってきました。その中で感じるのは、変化できた組織には共通点があるということです。それは、今うまくいっていることに満足せず、常に次の成長の種を探していたことです。

日本市場だけを見ていては生き残れない

スピーチする井上さん

鍋田 今回のお話の中でもグローバルというキーワードが何度も出ていました。

井上 私はこれからの企業経営を考える上で、日本市場だけを見ていては難しいと思っています。皆さんもご存じの通り、日本の人口は今後さらに減少していきます。将来的には6000万人規模になると言われていますし、生産年齢人口も減少していく。つまり、市場そのものが縮小していくということです。もちろん日本市場は重要ですが、縮小していく市場だけを見ていても成長はできません。プリンティング市場もそうですし、多くの市場で同じことが起きています。だからこそ、その先にある市場や成長機会を見ていかなければならない。

私はオーストラリアやシンガポール、韓国、マレーシアなど、さまざまな市場を見てきました。市場が違えば、お客様の課題も競争環境も求められる価値も違います。日本では当たり前だと思っていることが海外では通用しないこともありますし、逆に海外ではすでに一般化していることが日本にはまだ入ってきていないこともあります。だから私は若い人たちに、ぜひ海外へ行ってほしいと思っています。実際に現地へ行き、自分の目で見て、自分の耳で聞くことでしか得られない気付きがあります。相手より早く変化に気付き、その変化を事業や技術につなげることができれば、大きな競争力になります。

鍋田 私自身も海外の技術イベントへ参加するたびに、技術の進化だけでなく、その技術がどのように社会実装されているのかを見ることの重要性を感じています。

オープンイノベーションの本質は「買うこと」ではなく「活かすこと」

鍋田 井上さんは長年M&Aにも携わってこられました。オープンイノベーションについてはどのように考えていますか。

井上 オープンイノベーションというと、外から技術を買ってくることだと思われがちですが、本質はそこではありません。本当に重要なのは、取り込んだ技術や人材をどう活かすかです。私はこれまで多くのM&Aに携わってきましたが、買収そのものが価値を生むわけではありません。買収した企業の技術を理解し、自分たちの技術や事業と組み合わせ、新しい価値につなげることができて初めて意味があります。どれだけ優れた技術を持つ企業を買収しても、それを理解できる人材や知見が社内になければ活かすことはできません。その意味では、自前主義だけでも駄目ですし、外部依存だけでも駄目です。自社の強みを持ちながら、外部の力も取り込む。その両方を組み合わせることが重要だと思っています。

そして、その考え方はデータ活用にも通じると思っています。多くの企業には日々の業務を通じて膨大なデータが蓄積されています。しかし、そのデータを十分に活用できている企業はまだ多くありません。AIが進化する中で、こうしたデータの価値はさらに高まっていくと思います。重要なのはデータを持つことではなく、それをどう活用し、新しい価値につなげるかです。技術も、人材も、データも、持っているだけでは価値になりません。それらを組み合わせ、事業やお客様の価値へとつなげていくことが重要なのです。そして、その価値創出を支えるのが、本質を理解し、技術を使いこなせる人材なのではないでしょうか。

AI時代だからこそ、本質を理解する人材は価値を持つ

マイクを片手にスピーチする井上さん

鍋田 生成AIの進化によって、ソフトウェア開発のあり方も大きく変わり始めています。

井上 今起きている変化は本当に大きいと思います。以前は人が何日もかけて書いていたコードを、AIが短時間で生成できるようになりました。要件を与えればコードを書き、設計を補助し、テストまで支援してくれる。数年前には考えられなかった世界です。ただ、それによって基礎知識が不要になるわけではありません。私は半導体業界出身ですが、昔の設計者はトランジスタレベルの仕組みまで理解した上で設計していました。今はCADツールが進化し、多くの工程が自動化されています。それでも、基礎を理解している人とそうでない人では、設計の質に大きな差が生まれます。

AIも同じです。AIが答えを出してくれる時代だからこそ、その答えが正しいのか、なぜその結論になるのかを判断できる人が必要になります。便利なツールが増えるほど、本質を理解している人の価値はむしろ高くなると思っています。だから若い技術者には、ぜひ基礎を大切にしてほしいですし、AIを使うことも重要ですが、その仕組みや背景を理解しながら活用できる人材こそが、価値を生み出していくのだと思います。

キャリアを積むことは、権利ではなく義務

和やかな懇親会の様子

鍋田 最後に、若手社員へメッセージをお願いします。

井上 私は、キャリアを積むことは権利ではなく義務だと思っています。少し厳しく聞こえるかもしれませんが、人は成長し続けなければいけないし、そのための機会があるなら取りに行くべきだと思うんです。

海外へ行く機会があるなら行けばいい。新しい技術に触れる機会があるなら挑戦すればいい。手を挙げる人には必ずチャンスがあります。変化のスピードはこれからさらに速くなります。だからこそ、自分のアンテナを高く持ち、新しい技術や市場に触れ続けてほしい。そして、自分自身の可能性を狭めずに挑戦を続けてほしいですね。

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