富士フイルムビジネスイノベーション

「AIは新たな経営資源になる」
――富士フイルムビジネスイノベーションジャパン社長 旗生が語る、AIエージェント時代の企業変革

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講演する旗生さん

人手不足、賃上げ、物価高、円安――。

企業を取り巻く環境変化が加速する中、生産性向上はあらゆる企業に共通する経営課題となっています。そうした中で注目を集めるAIは、単なる業務効率化ツールではなく、企業競争力を左右する「経営資源」へと変わりつつあります。

2026年6月5日に、富士フイルムビジネスイノベーションジャパンが東京都江東区の豊洲ベイサイドクロスタワー内にある体験型ショウルーム「Bridge for Innovation」で開催したイベント「Bridge for Innovation 2026」で、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社 取締役 社長 旗生泰一が、「AIを経営資源にする ~チャット活用からAIエージェント実装へ~」をテーマに講演しました。人手不足やコスト上昇が続く時代に、企業はAIとどのように向き合うべきなのか。様々な業務に寄り添うAI活用を支援してきた知見と、自らも経営者として悩み試行錯誤しながら社内のAI活用や人材育成を推進する立場から、旗生が語った実践的なメッセージを紹介します。

旗生 泰一さん

旗生 泰一

Taiichi Hatabu

富士フイルムビジネスイノベーションジャパン 取締役社長

富士フイルムビジネスイノベーション取締役 専務執行役員

1987年に富士ゼロックス(旧社名)に入社。営業、サービス開発およびデリバリー領域を経験。2019年に執行役員、2021年に富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社の常務執行役員に就任後、2022年より現職。海外を含む営業領域全般を統括し、AI・セキュリティを軸にしたDX関連ビジネスへの取り組みを推進。

コラム:「Bridge for Innovation」とは?

Bridge for Innovationコンベンションの様子

「Bridge for Innovation」は、富士フイルムビジネスイノベーションジャパンが毎年5月から7月に全国7都市でお客さま向けに開催するコンベンションです。2026年のテーマ「ビジネスDXが、企業を変える。AIで変える。」に基づき、AI関連展示の拡充に加え、お客さま事例や実践的な講演を多数実施しました。

人手不足、賃上げ、物価高――企業経営は新たな局面へ

マイクを手に話す旗生さん

講演の冒頭、旗生は企業を取り巻く経営環境の変化について説明しました。

「人・モノ・金・情報。これまで経営資源といえば、この4つが挙げられてきました。しかし、この1〜2年でAIという言葉が、それらと並ぶほどの重要性を持つようになったのではないでしょうか」

2026年 企業をとりまく環境変化
企業が直面するコスト高

その背景として挙げたのが、人手不足の深刻化です。企業の人手不足を示す「雇用人員DI」は年々悪化しており、多くの企業で人材確保が大きな経営課題となっている他、賃上げや物価高、円安といった複数の課題にも直面しています。

「賃上げは従業員にとっては良いことですが、経営という視点では非常に大きな負担になっています。もちろん生産性向上やコスト削減で吸収していかなければなりません」

加えて、国内外から調達している原材料費も上昇を続けています。旗生は、こうした変化を一時的なものとして捉えるのではなく、今後も続くことを前提に経営を考える必要があると語りました。

「これまでのように景気の波による変化として見るのではなく、こうした環境変化が続くことを前提に経営を考える必要があります」

こうした環境の中で、生産性向上を実現する手段としてAIへの期待が高まっています。旗生は、AIを単なるITツールとしてではなく、新たな経営資源として捉える視点が重要になると説明しました。

AIは新たな経営資源になりつつある

では、AIは企業経営の中でどのような位置付けになるのでしょうか。

DXの中核はデジタルプラットフォームを活用したAIへ

企業のデジタル活用は、紙文書などのアナログデータをデジタル化するデジタイゼーションから始まり、業務プロセスをデジタル化するデジタライゼーション、さらにデジタル技術を活用してビジネスモデルそのものを変革するDXへと発展してきました。そして今、その先にある新たな段階としてAI活用が始まっています。

「AIというステージをより効果的に活用するためには、デジタイゼーション、デジタライゼーション、DX、というステップで築き上げてきたデジタルプラットフォームが必要不可欠です。これまで皆さまと取り組んできたデジタル化があってこそ、AIの力を発揮することができます」

「しかしながら、AIに関しては、このデジタル化の取り組みの延長線上にあるものではなく、企業全体の価値創出を『次のステージ』へと大きく引き上げる力があると言われています」

DXによって整備されたデータや業務基盤があるからこそ、AIは企業活動の中で価値を生み出します。旗生は、これまで築いてきたデジタルプラットフォームを土台にAIを活用し、業務変革や価値創出につなげていくことが、これからの企業競争力を左右する重要なポイントになると語りました。

企業活動のあらゆる業務にAI活用の可能性

モニターを横に講演する旗生さん

生成AIの普及により、多くの企業で情報検索や要約、翻訳、文章作成など、チャット形式でAIを活用する取り組みが急速に広がりました。一方で旗生は、AI活用の可能性はそうした一部の業務にとどまるものではないと語りました。

日本企業のAIの活用状況と導入対象業務

日本企業のAI導入状況を示しながら、「現在は特定の業務領域からAI活用を始めている企業が多いものの、企業の中の業務という視点で見れば、あらゆる業務にAI適用可能性があります」と説明。

「この業務にはAIが向いているという話ではなく、企業活動のほぼ全ての業務にAIを活用するチャンスがあると考えています」と述べ、企業全体を俯瞰して活用領域を広げていくことの重要性を強調しました。

生成AIを使ってお客さまと一緒に取り組んだ事例のひとつとして紹介されたのが、不動産会社のコスモイニシアでの広告制作業務です。

弊社お客様事例〜不動産広告業務(neoAI)

同社では、営業担当者ごとに広告文の品質や作成時間にばらつきがあることに加え、広告審査においても法令や社内ルールなどのレギュレーションへの適合性を確認するため、多くの工数を要していました。そこで、物件情報や地域特性をもとに広告文を生成AIで作成し、さらに法令や社内ルールへの適合性確認もAIが担う仕組みを構築しています。

その結果、広告文の作成時間は従来の1〜2時間から10〜20分程度へ短縮され、品質の均一化も実現。さらに広告審査では、法令やレギュレーションへの適合性確認の約90〜95%をAIが担うことで、担当者の負荷軽減と品質向上の両立につながっています。

旗生は、「人、品質、時間というメリットに加え、レギュレーションを守ることは企業品質にも関わる非常に大きな事例です」と説明し、生成AIが業務効率化だけでなく、法令対応やガバナンスの強化にも貢献する可能性を示しました。

さらに旗生は、生成AIからAIエージェントへの技術の進化によって、AIが企業経営に与えるインパクトも変わりつつあると説明しました。

「AIエージェントになると、AIが自ら考え、自ら判断し、自ら仕事を回す。そこまで実現できるようになってきています」

AIが単に質問に答えたり文章を生成したりする存在から、自律的に業務を遂行する存在へと進化しつつあると紹介。今後は、こうした技術の進展も踏まえながら、企業がどのように業務変革や価値創出につなげていくかが重要になるとの考えを示しました。

弊社社内事例〜契約確認業務の配分を自動化(弊社独自AI基盤)

生成AIからAIエージェント、そしてその先へとAI技術は進化を続けています。AIは人を支援するだけの存在ではなく、状況に応じて推論し、判断し、実行することで、人に代わって業務を担う経営資源へと変わりつつあります。

このように進化する技術を活用している例として一端が垣間見える事例として、富士フイルムサービスクリエイティブにおけるAI活用も紹介されました。

同社では、毎月約6万件発生する契約確認業務にAIエージェントを活用しています。従来はベテラン社員が案件の難易度や担当者のスキルを踏まえて最適な担当者へ振り分けていましたが、現在はAIがその役割を担っています。

「AIは担当者ごとのスキルだけでなく、スケジュールまで考慮して配分してくれます」
旗生はこのように説明し、人では考慮しきれなかった担当者ごとの予定まで踏まえて最適な配分を行うことで、生産性が飛躍的に向上したと紹介しました。現在では、この配分業務は100%AIに置き換わっているといいます。

AI時代の経営に求められるのは"現場起点“の変革

経営戦略としてのAI活用

講演後半では、AI時代の経営に求められる視点についても語られました。

旗生は、AI時代の経営を実現するためのポイントとして、「AIの全社展開と現場主導」「社員のAIネイティブ化」「AIエージェントによる自動化」の3つを提示しました。その中でも強調したのが、実際の業務フローやバリューチェーンを起点にAI活用を考えることの重要性です。

「基幹システムのような取り組みは本社主導で進める必要があります。しかしAIについては、現場を抜きにしては語れません」

旗生は、AI活用では大規模なシステム導入だけでなく、日々の業務の中にある課題に目を向けることが重要だと説明します。業務負荷が極めて高い領域は、すでにシステム化やRPA化が進んでいるケースも少なくありません。一方で、現場には、一つ一つの効果は大きく見えないものの、担当者が日々手間や時間を費やしている業務が数多く残されています。

「だからこそ、そうした身近な業務をAIエージェントで一つずつ改善し、その積み重ねが結果として大きな業務変革につながる」と語りました。実際に同社でも、業務カテゴリーごとにAIエージェントを活用した改善を進め、1年間で約20件の業務改善を実現したと紹介。

また、社員のAIネイティブ化についても、「IT教育だけでは足りない」と指摘します。AI時代に本当に必要なのは、業務そのものを見直し、「この業務をどう変えるのか、このプロセスをどう変えるのか、あるいはなくしてしまうのか」を考える業務設計力であり、それを社員一人ひとりが身に付けることが重要だと語りました。

さらに、AIエージェントによる自動化が進む時代には、「自動化を前提に組織や機能を設計する発想が必要になる」とも述べています。

その具体例として紹介したのが、富士フイルムビジネスイノベーションで推進しているAI活用の定着施策です。国内では約375人のデジタルオフィサー(※)を各部門に配置し、日々のリードやサポートを実施。さらにAIとDXに関するコミュニティがそれぞれ稼働しており(AI:約1.6万人参加/DX:約1万人参加)、困りごとやノウハウを共有しながら学び合う場を整備しています。また、全社対象のDXコンテストでは各部門の代表が部門で取り組んだAIの取り組みを発表し、優れた事例を表彰することで、現場発の実践を組織全体へ広げる仕組みづくりを進めています。

一方で、旗生はこうした取り組みが最初からうまく機能していたわけではないとも説明します。AI活用の定着に向けては、現場の状況を見ながら施策を見直し、試行錯誤を繰り返しながら改善を続けてきたと語り、「行ったり来たりしながら経営している」と、その難しさにも率直に触れました。

全社対象のDXコンテストの様子

2026年6月12日に開催されたDXコンテスト

※ デジタルオフィサーとは:各部門のDX課題をまとめ、課題提案者と協働しながら解決をリードする役割

旗生は、こうした活動を広く展開するためには、単に現場へ任せるのではなく、それを支える仕組みづくりが欠かせないと説明しました。どこでどのようなAI活用が行われ、どのような成果が生まれているのかを可視化し、有効な取り組みを組織全体へ横展開していくことが重要です。また、適切な権限設計やセキュリティ、AI利用に伴うリスクマネジメントなども含め、組織としてAI活用を支援する役割が求められると語りました。

AI活用を組織で広げるために

さらに講演の締めくくりでは、「AIツールの設定」「ガイドラインの整備」「業務設計」の3つを、AI活用を進める上での重要なポイントとして改めて提示しました。AIツールを導入するだけでなく、社員が安心して活用できるルールを整え、業務そのものをどう変えるかを設計することが、AI時代の競争力につながるとの考えを示しました。

AIを経営資源として活用する時代に求められるのは、ツールを導入すること自体ではありません。現場の業務を深く理解し、小さな改善を積み重ね、それを組織全体で支えていくこと――旗生は、その重要性を改めて強調し、講演を締めくくりました。