富士フイルムビジネスイノベーション

環境とデザインをひとつの価値へ。未来のオフィスから考える、これからの複合機

#商品開発
#デザイン
#座談会
複合機と4人

脱炭素や資源循環への対応、GXの推進など、環境をめぐる社会や企業の動きが大きく変化しています。一方で、働き方の多様化に伴い、オフィスに求められる役割も変わりつつあります。

こうした変化の中で、これからの複合機はどのような存在であるべきなのか。2026年10月に発売されたA3カラー複合機「Apeos C7072シリーズ」の開発では、未来のオフィスや働き方を見据えながら、環境性能とデザイン、使いやすさを一体で高めることを目指しました。その実現に向け、開発、デザイン、調達、生産、資源循環など、さまざまな専門性を持つメンバーが早い段階から議論を重ねました。

環境とデザインを、どのようにひとつの価値へと形にしていったのか。ものづくりの舞台裏を聞きました。

   
荒井 康裕さん

荒井 康裕

Yasuhiro Arai

富士フイルムビジネスイノベーション
デバイステクノロジー事業本部 オフィス商品開発推進部

1992年に富士ゼロックス(旧社名)に入社。設計者として複合機のメカ制御基板の設計、プリントエンジンの画像処理システム設計を担当。2012年に商品開発推進部門に異動、現在は、オフィス商品開発推進部の部長として、複合機やプリンターの新商品開発のプログラム活動を統括。本商品では、商品提供責任者として企画、開発、生産の全般渡るマネジメントを担当。

伊東 圭史さん

伊東 圭史

Keiji Ito

富士フイルムビジネスイノベーション
デバイステクノロジー事業 本部 オフィス商品開発推進部

1997年に富士ゼロックス(旧社名)に入社。メカ系の設計業務を中心に経験を積み、2013年頃から商品開発推進業務を担当。本商品の開発では品質、コスト、納期を含む開発全体のマネジメント責任者を担当。

野口 由希さん

野口 由希

Yuki Noguchi

富士フイルムビジネスイノベーション デザインセンター

2008年に富士ゼロックス(旧社名)に入社。以来、A3複合機を中心にプロダクトデザインおよびユーザビリティを担当し、多くの商品開発に携わる。本商品ではデザインのプロジェクトマネジメントを担当し、コンセプトの具現化からデザイン実装まで関係部門と連携しながら推進。使いやすさと商品価値の向上に取り組んだ。

山本 真彦さん

山本 真彦

Masahiko Yamamoto

富士フイルムビジネスイノベーション デザインセンター

2019年に富士ゼロックス(旧社名)に入社。オフィス向け複合機やプロダクション機のプロダクトデザインを担当。本商品では外観デザインのリードデザイナーとして、設計・生産・調達・資源循環などの関連部門と連携し、コンセプト設計から量産デザインの確立まで一貫して取り組んだ。

 

環境を「実感できる」複合機へ

── 脱炭素や資源循環への対応など、企業に求められる環境への要請が高まっています。今回の開発では、環境をどのように位置づけたのでしょうか。

身振り手振りで話す伊東さん

伊東 脱炭素や資源循環など、企業に求められる環境への対応はますます重要になっています。富士フイルムグループでは、CSR計画「Sustainable Value Plan(サステナブル・バリュー・プラン)2030(SVP2030)」を掲げていますが、主力となる複合機は台数も多く、使う材料の量も大きいため、全社の環境KPIを達成する上でも重要な商品です。そこで、2030年の目標から逆算して、「この商品でどんなKPIを設定し、何を実現する必要があるのか」というところから議論しました。

商品開発について話す荒井さん

荒井 商品を考える中で、一つの柱に置いたのが「環境を実感できる」ということでした。複合機は紙を使う機械なので、環境という観点ではネガティブなイメージを持たれやすい。一方で、オフィスで仕事をする上では、なくてはならないものでもあります。
だからこそ、環境性能だけを追い求めて利便性を損なうのではなく、使いやすさと環境性能をどちらも高めたいと考えました。環境性能を数値として高めるだけではなく、実際に使う人にも「この商品を使うことが環境への貢献につながっている」と感じてもらえる。そんな複合機を目指しました。

部門を越えて、未来のオフィスから複合機の役割を描き直す

── 目指す環境価値を具体的な商品へと落とし込むために、どのように議論を進めていったのでしょうか。

座談会の4人

荒井 これまでは、性能なら性能、環境なら環境と、それぞれの領域で議論することが多かったです。今回は、環境とデザイン、調達・生産とデザイン、保守とデザインというように、いろいろな視点を「掛け算」して考えました。働き方やオフィスが変わる中で、従来商品の延長線上ではなく、複合機の役割そのものから考えました。「オフィスに来る意味って何だ?」というところまで立ち返って、人が集まって議論する場で複合機がどんな役割を担うのか。そこから必要な機能やデザインを考えていきました。

テーマを話す野口さん

野口 もう一つ、環境と同じくらい重要なテーマだったのが、サービスやソリューションとのつながりです。クラウドとの連携が進めば、複合機は紙を扱うだけでなく、人とサービスをつなぐ接点になっていく。そう考えると、スキャナーや操作画面の役割もこれまで以上に重要になります。そこで、スキャナーから操作画面へとつながる斜面を、お客様と向き合う一つの面として一体的に見せています。複合機がサービスへの「出入り口」になることを、造形でも表現しました。

UIにつながる斜面、お客様を迎え入れる造形

UIにつながる斜面をお客様を迎え入れる造形へ

伊東 調達しやすい材料と環境性能の高い材料、デザイナーが使いたい材料と安定して調達できる材料は、必ずしも一致しません。それぞれの立場で大切にしたいことが違うからこそ、何度も議論を重ねながら、着地点を探していきました。

野口 そうした議論を具体化する一つの場が、外部パートナーも交えたワークショップです。まず世界ではサステナビリティがどう捉えられているのかを学ぶ必要があると考えました。検討初期には、サステナビリティの専門家がいる外部パートナーも交え、議論するワークショップを実施しました。参加したのはデザイナーだけではありません。開発、調達、生産、商品企画、デザインなど、それぞれ異なる立場のメンバーが集まり、どのような商品にしていきたいか、環境負荷低減に対してどう貢献できるかについて未来の働き方やオフィス、そこで複合機が果たす役割を、部門を越えて一緒に考えていったんです。

山本 開発、調達、生産現場。それぞれに実現したいこともあれば、課題もあります。デザインができてから他の部門に渡すのではなく、最初から一緒に考える。その積み重ねが、今回のコンセプトや具体的なデザインにつながっていったと思います。

外部パートナーも交えたワークショップ
ワークショップでの議論

制約をデザインの個性に変える

── そうした部門を越えた議論は、具体的にどのようなデザインや工夫につながったのでしょうか。

Apeos C7072シリーズ

野口 ワークショップで共有した大きな考え方の一つが、「複合機は働く人を支える存在であり、主役は働く人たち」ということでした。オフィスの中で存在感を主張するのではなく、人や空間に自然に調和する佇まいにしたい。その方向性は、デザインだけでなく企画や開発メンバーとも共有していました。

荒井 今回は、再生プラスチックの使用比率を高めることも重要なテーマでした。ただ、白色の再生材は安定して調達することが難しく、調達性だけを考えれば黒い材料を使う選択肢もありました。実際に全面を黒くした試作もつくりましたが、圧迫感があり、主張が強かったんです。

野口 環境対応を進めながらも、私たちらしい親しみやすさや空間との調和は残したい。そこで改めて、ワークショップで共有した「人や空間に調和する複合機をつくりたい」という思いを形にしなければならないと感じました。

山本 再生プラスチックの使用比率を高めると、原料由来のばらつきによって色調や成形品質の維持が難しくなることがあります。だからこそ、環境に配慮した商品だから品質は妥協していい、という考え方は取りたくありませんでした。設計や生産のメンバーと一緒に、品質と環境をどう両立するかを徹底的に議論しました。

荒井 さらに、プラスチック使用量そのものも削減したいという考えもあり、外装カバーは可能な限り薄くしています。ただ、薄くすると強度や成形の難易度が高まります。そこで金型や内部構造を工夫し、設計や生産のメンバーが連携して成立させていきました。

左:従来機、右:Apeos新シリーズ

左:従来機、右:Apeos新シリーズ
再生材を使用している手前の白い部分は薄くなっていることが分かる

野口 色にも工夫があります。従来の商品色より少しトーンを下げ、柔らかく温かみを感じる白を採用しました。木調やグリーンを取り入れた近年のオフィス空間とも調和しやすく、落ち着いた印象を目指しています。同時に、再生プラスチック由来のわずかな色調差が目立ちにくくなるよう、人の色の見え方の特性も考慮して色を選定しました。

材質やテクスチャーについて話す山本さん

山本 白いカバー表面の細かな粒感や、サイドカバーの凹凸テクスチャーも今回のデザインの特徴です。これは単なる装飾ではなく、再生プラスチックの使用比率を高めながら、外観品質を維持するために取り入れました。再生プラスチックは、使用比率を高めると原料由来の異物が入りやすくなり、従来であれば見た目を理由に不良として扱われることもあります。そこで粒状のフィラーを加えることで、異物や材料由来のばらつきを目立ちにくくしました。再生材の活用を広げながら、品質も妥協しない。その両立を、デザインの工夫で実現しています。

白いカバー表面の細かな粒感やテクスチャー
左画像:サイドカバーの凹凸テクスチャー 右画像:左側トレーは旧型デザイン。右側トレーは粒状のフィラー入り。

左画像:サイドカバーの凹凸テクスチャー
右画像:左側トレーは旧型デザイン。右側トレーは粒状のフィラー入り。

デザインの視点を保守と再生へ

── デザインの視点は、商品を使う場面から、保守や将来の再生にまで広がっています。どのような考え方で取り組んだのでしょうか。

複合機に触れる3人

荒井 操作性というと、お客様が複合機を使う場面をイメージしがちですが、今回は保守・メンテナンスをする人にとっての使いやすさも重視しました。工具を使わずに部品を交換できるようにするなど、短い時間で簡単に作業できることも大切です。「保守×デザイン」も、今回の掛け算の一つですね。

野口 デザインセンターには、ユーザビリティを専門にするデザイナーもいます。今回は、お客様の操作のしやすさだけでなく、保守を担当するエンジニアの作業のしやすさ、例えば、複合機本体やオプションの設置、定期交換部品の交換などについて、設計メンバーと一緒に作業手順や操作する部分の形状まで検討しました。世界各国で販売していくため、保守を担当する人の経験や体格、作業の仕方もさまざまです。実際に検証しながら、どうすれば誰にとっても分かりやすく、作業しやすくできるかを考えていきました。

エンジニアが簡易的に交換ができる設計に

エンジニアが簡易的に交換ができる設計に

伊東 さらに、将来再生機をつくるメンバーにも開発段階から入ってもらいました。「将来この商品を再生する時、今どんな設計にしておけば作業しやすいのか」という視点を取り入れるためです。これまでは工場でいかに安定して速く組み立てられるかが重要でした。今回はそこに、早くバラせるという考え方も加えました。外側のカバーと内部の機能部品を分け、傷んだ外装だけを交換・補修できるようにする。使えるものをできるだけ残し、次につなげるための設計です。

山本 その構造上の設計の工夫はデザインにも現れています。白いパネルを本体に巻き付け、意匠上の特徴であると同時に、外装と内部機能部品を分離しやすくする構造的な考え方も反映しています。

製品トレーの比較
手に持って構造上の設計について語る

「みんなの顔が浮かんだ」一台

── 開発、デザイン、調達、生産、資源循環など、多くの人とつくり上げてきた一台です。完成した商品を見た時、どんな気持ちでしたか。

山本 途中の試作は何度も見ていたんですけど、実際に電源が入って、商品として動いている姿を見た時は、やっぱりすごく感動しました。ものをつくっている人間なので、商品が動いた時はいつも感動するんです。でも今回は、デザインだけでつくったものではなく、本当にいろいろな人と関わりながらできた一台だったので、完成した姿を見た時に、荒井さんや伊東さんをはじめ、一緒にやってきたみんなの顔が浮かびました。

和やかに話す荒井さん

荒井 この商品は、これから長く使われるプラットフォームとして設計しています。ハードウェアとして完成して終わりではなく、サービスや使われ方はこれからも進化していくと思っています。環境規制や社会の変化によって、複合機に求められるものも変わっていくはずです。その時には、今回と同じように、ものづくり、調達、設計、デザインなど、それぞれの専門性を持つメンバーが一緒に考えながら、時代に合わせて進化させていきたい。これからも、その積み重ねを続けていきたいと思います。

AI時代、複合機はどう変わる?

AI時代、複合機はどう変わる?

「Apeos C7072シリーズ」が目指すのは、環境性能やデザインの進化だけではありません。AI時代に複合機が果たす新たな役割と、その先に描く価値について、3名の役員が語ります。