「自分たちだけじゃない」がAI推進を動かす。福岡の企業が集う生成AIコミュニティ誕生の裏側

生成AIの導入が進む一方、社内への浸透や経営層の理解、セキュリティ、投資対効果など、AI推進担当者が抱える悩みは複雑になっており、同じ目線で相談できる相手が社内にいるとは限りません。
「福岡に、AI活用に悩む企業同士が本音で話せる場をつくろう」。そんな思いから、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン 福岡支社の二人が立ち上げたのが、生成AIコミュニティです。2025年2月に11社で始まり、2026年7月の第6回まで、参加企業の声を取り入れながら進化を続けてきました。
なぜセミナーではなく、コミュニティという形を選んだのか。立ち上げを担った谷村と大森に、誕生の背景と企業を越えた対話が生み出した変化を聞きました。

谷村 元宏
Motohiro Tanimura
富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社 福岡支社 ソリューション営業部 プロフェッショナルエキスパート

大森 章司
Shoji Omori
富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社 福岡支社 ソリューション営業部 部長 兼 ビジネスパートナー営業部 部長
1999年に富士ゼロックス(旧社名)に入社。国内営業を経てタイ、韓国での海外事業に従事し、グローバルアカウント営業やマーケティング、ソリューション事業の推進を担当。2022年より本部販売促進室長として全社営業施策やデジタルマーケティングを推進。2024年から福岡支社ソリューション営業部長、2026年よりビジネスパートナー営業部長を兼務し、DX・AI活用およびパートナー戦略を牽引する他、コミュニティの企画・運営に携わっている。
コラム:福岡支社主催の生成AIコミュニティとは?

AIの活用を通じて、組織やチームの変革を目指すコミュニティ。福岡県内の企業でAI・DX推進を担うリーダーや担当者が集まり、生成AIの最新動向や実践事例を学ぶとともに、グループディスカッションを通じて各社の課題や試行錯誤事例を共有しています。2026年7月16日には第6回を開催しました。
福岡でAIを本音で語れる場をつくる
── コミュニティを立ち上げたきっかけを教えてください。

谷村 始まりは、2024年秋ごろに企業の方々と生成AIについて話していた時のことです。「情報を集めるために東京や大阪まで行っている」「福岡には、同じ立場の人と安心して相談できる場が少ない」という声を、複数の企業から聞きました。福岡でも生成AIへの関心は高い一方、先進事例に触れ率直に議論できる機会は限られていました。企業の垣根を越えて悩みを共有する場が不足していたのだと思います。
その後2025年1月、生成AIに関する知見を持つ社内メンバーが福岡を訪れた際、何気ない会話の中で「福岡でも企業が集まるコミュニティをつくろう」という話になりました。以前から企業の声を聞き、この地域に場が必要だと感じていたこともあり、そこから一気に企画が動き始めました。福岡は人と人との距離が近く、つながりを大切にする土地です。その福岡らしさを、業種を越えて学び合う力に変えたいと考えたことが、コミュニティの出発点ですね。コミュニティ運営の経験も、明確な数値目標もありませんでしたが、まずは本音で話せる場をつくろうと、約1週間後には社内へ提案しました。支社長の「挑戦してみよう」という後押しも大きな力になりました。
── なぜ、セミナーではなくコミュニティという形にしたのでしょうか。

大森 セミナーは知識を得るには有効ですが、話を聞くだけで自社の悩みが解決するわけではありません。実際に使い、壁にぶつかり、他社の経験を聞きながら自社のやり方を考え直すという往復が必要です。成功事例だけでなく、迷いやつまずきも率直に話せる場をつくることに意味があると考えました。
また、企業から寄せられる相談も年々変わってきています。以前は「生成AIとは何か」「どのツールを使えばよいか」が中心でしたが、次第に「導入後、どの業務に定着させるのか」「社内にどう広げるのか」「経営層に投資効果をどう説明するのか」といった実践的な内容が増えていきました。生成AIは技術の話に見えて、実際には人材育成や組織運営、業務変革に深く関わるテーマです。成功事例を一方的に紹介するだけでは、各社の悩みの解決にはつながらないと感じています。
── コミュニティにはどのような企業が参加されているのでしょうか。
谷村 現在は、西日本鉄道株式会社、エフコープ生活協同組合、株式会社フォレストホールディングス、上村建設株式会社、西部ガスホールディングス株式会社、株式会社福岡銀行、ヤマエ久野株式会社など、福岡に根差した企業が参加しています。業種は異なっても、「AIをどう社内へ浸透させるか」「経営層や現場をどう巻き込むか」といった課題には共通点があり、異業種の対話から自社だけでは気づけない視点が生まれています。
構想から約1カ月で11社との対話を形に
── 構想は、どのように実際のイベントへつながったのでしょうか。
谷村 第1回は2025年2月20日で、準備期間は約1カ月でした。生成AI活用に問題意識を持つ推進担当者を中心に声をかけ、業種や企業規模のバランスも意識しました。本音で話せる密度を優先し、各社原則1人に限定した結果、11社すべてに参加いただきました。
大森 短期間で実現できたのは、支社内のメンバーが部門や役割を越えて動いたからです。初回は生成AIの最新動向に関する講演に加え、「活用への課題と期待」「今後どのようなコミュニティにしてほしいか」をテーマに、グループディスカッションを行いました。最初の回から参加者の悩みや考えを聞き、その声を次の企画へつなげる構成にしたことが、その後の方向性を決めたと思います。完成形をつくり込まず、まず動き、参加者の声を聞きながら改善する。その積み重ねが現在の土台になっています。


第1回目のイベントの様子
AIを知る場から組織を変える場へ
── これまで、どのようなイベントを開催してきたのでしょうか
大森 基本となるプログラムは、生成AIの最新動向や実践事例の共有、ゲストによる講演、参加者同士のグループディスカッションです。第1回は生成AI活用への期待と課題の共有から始まり、その後はデジタル人材、組織の熱量と成果、社内AIコミュニティ、組織・人材育成、業務への定着や活用の壁へと、参加者の声を踏まえてテーマを深めてきました。


谷村 2025年2月頃は「どの生成AIサービスを使えばよいか」という相談が多かったのですが、現在ではAIエージェント、セキュリティやガバナンス、経営層の理解、投資対効果、現場への浸透といった相談が増えています。利用頻度が高まらない、ルールが曖昧で踏み出せない、兼任の担当者が相談相手を見つけられないなど、活用が進むほど課題は具体的になります。企業の関心が、情報収集から社内推進、人材育成、業務変革へ移っていることが、6回の対話から見えてきました。
参加者からは、「他社の課題を知り、自社の取り組みを考える参考になった」「AIの最新事例だけでなく、人事評価や人材育成との関係まで考えられた」「担当者同士で率直な悩みを共有できた」といった声が寄せられています。
大森 2026年7月16日に開催した第6回では、19社にご参加いただきました。「生成AIは組織をどこまで変えたのか!」をテーマに、日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社の細山田隼人氏と富士フイルムビジネスイノベーションの髙橋による講演、参加企業2社の事例発表、グループディスカッションを実施しました。現場で直面した壁を持ち寄り、自社の課題に置き換えて考えることで、実践に近い議論が生まれました。


「自分たちだけじゃない」が背中を押す
── 参加者には、どのような変化が生まれていますか。
大森 特に印象に残っているのは、「社内に同じ目線で会話できる人がいなかったが、このコミュニティでモチベーションを取り戻せた」という声です。AI推進担当者は、社内では「AIに詳しい人」として期待されますが、本人も試行錯誤の連続です。経営層からは成果を求められ、現場からは不安や負担の声が上がる。その間に立ち、一人で悩んでいる方は少なくありません。生成AIの推進は、技術だけではなく、組織運営の問題として捉える必要があると感じています。

谷村 同じ立場の人と話し、他社も同じように悩んでいると分かるだけで、「自分たちだけではない」「もう一度進めてみよう」と思えることがあります。参加者からも、「他社の話に共感し、同じ悩みを抱えていることに安心した」「話しやすい雰囲気の中で新しい視点を得られた」「会社を越えて課題を検討できたことが参考になった」という声をいただいています。第5回までのアンケートでは、満足度は5点満点中平均4.9でした。出張当日にもかかわらず参加してから向かわれた方もいましたし、今後も継続して関わりたい場として受け止められていると感じます。
── 失敗やつまずきも共有されるようになったそうですね。
大森 成功事例だけを聞くと、自社との距離を感じることがありますが、どこで止まり、何に悩み、どう乗り越えたのかまで聞ければ、自社に置き換えて考えやすくなります。第6回では、成功だけでなく失敗やつまずきまで率直に共有されました。うまくいかなかった経験を含む実践知が集まることで、初めて本当に使える学びになると考えています。
谷村 参加者同士が学び合い、対話できる場を大切にしてきました。その活動を「社会貢献ですね」と受け止めていただいた時は、少し意外でしたが、とてもうれしかったですね。回を重ねる中で参加者との距離も近づき、勝手ながら“ファミリー”のような感覚も生まれています。


福岡ゆかりのお菓子や名品を味わえることも、イベントの楽しみの一つ。この日の懇親会では、参加企業であるやまやコミュニケーションズ様、フランソア様からそれぞれ「めんたいチューブ」と「フランスパン」をご提供いただきました。
参加者の実践が次の学びを生み出す
── コミュニティをきっかけに、イベントの外でも新たな動きが生まれているそうですね。
谷村 参加者同士が自主的に座談会や情報交換の場を設けるなど、イベントの外にも交流が広がっています。「コミュニティがきっかけで、新しいつながりが生まれた」と感謝の言葉をいただいたり、参加企業の経営層からも、コミュニティでの交流について声をかけていただいたりすることがありました。最初は、イベントの中で企業同士が対話する場として始まりましたが、そこで生まれた関係が外へ広がり、参加者自身の手で新たな交流が育っています。これは、私たちが当初想定していなかった、うれしい変化です。
── 今後、どのようなコミュニティに育てていきたいですか。

大森 最初は、私たちが場を用意し、最新情報や外部の知見を届けるコミュニティでした。しかし回を重ねるにつれて、「他社の具体的な取り組みをもっと聞きたい」「自社の課題について意見を交わしたい」という声が増えてきました。第6回で参加企業2社による事例紹介を取り入れたのも、その声を受けた試みです。参加企業の実践を起点に、自社の状況を重ねながら議論することで、より具体的な学びが生まれました。今後は、参加者が情報を受け取るだけでなく、自らの経験や課題を持ち寄り、コミュニティをつくる側に回る機会を増やしたいと考えています。参加者全員で問いを深め、それぞれの会社に合った次の一歩を探す場へ育てたいですね。
谷村 生成AIは変化のスピードが速く、少し情報から離れるだけでも最新の状況についていくことが難しくなります。だからこそ、一度集まって終わるのではなく、参加者の声や企業を取り巻く状況に合わせ、毎回内容を更新しながら続けることに意味があります。福岡は人と人との距離が近く、企業同士のつながりが生まれやすい土地です。その福岡らしさを、業種を越えて学び合う力へと変え、いつまでも参加していただける歴史のあるコミュニティに育てていきたいと思っています。
生成AIコミュニティで、実際何が生まれている?

イベントでは参加企業がAI活用の悩みや実践を共有しながら対話を重ねています。第6回では「生成AIは組織をどこまで変えたのか」をテーマに19社が参加。企業のリアルな声や、当日の議論の様子をイベントレポートで紹介します。
1992年に富士ゼロックス(旧社名)へ入社。システム営業を起点にマネージャー、営業責任者を歴任し、組織運営や事業変革を推進。2021年の富士フイルムビジネスイノベーションジャパン設立後は福岡支社のマーケティングサポート部長、ソリューション営業部長を務め、現在はDX・AI・セキュリティ分野で活動する他、コミュニティの企画・運営に携わっている。