生成AIは、組織をどこまで変えたのか。福岡の企業が語る、AI活用の現在地|生成AIコミュニティ 第6回レポート

生成AIの導入が広がり、企業のAI活用は「まずは使ってみる」段階から、業務への定着や組織全体への浸透を考える段階へと移りつつあります。一方で、社員間の活用度の差や社内ナレッジの整理、セキュリティ、人とAIの向き合い方など、活用が進んだからこそ見えてきた課題もあります。
2026年7月16日、富士フイルムビジネスイノベーションジャパン福岡支社で、生成AIコミュニティの第6回イベントを開催し、19社にご参加いただきました。今回のテーマは「生成AIは組織をどこまで変えたのか」。生成AIの活用・推進に取り組む社内外の登壇者による講演や、参加企業によるリアルな事例共有、グループディスカッションを通じて、AIが人や仕事、組織にもたらしている変化を考えました。本記事では、当日の講演や参加企業の声とともに、イベントの様子をレポートします。
コラム:福岡支社主催の生成AIコミュニティとは?

AIの活用を通じて、組織やチームの変革を目指すコミュニティ。福岡県内の企業でAI・DX推進を担うリーダーや担当者が集まり、生成AIの最新動向や実践事例を学ぶとともに、グループディスカッションを通じて各社の課題や試行錯誤事例を共有しています。
講演①|AI活用の先にある、組織変革

最初に登壇したのは、日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社で生成AI推進プロジェクトマネージャーを務める細山田隼人氏です。
細山田氏は、生成AI活用を個人の業務効率化だけで捉えるのではなく、人の行動変容から業務プロセス、さらには組織そのものの変革へつなげていく視点を紹介しました。
生成AIの活用を組織に広げていくために、利用状況を可視化し、社内コミュニティを通じて活用を促すことや、経営層のスポンサーシップによって取り組みを後押しすることなど、自社での実践を紹介。さらに、AIによる生産性向上で生まれた“余白”をどう価値につなげるかまで考え、個人の行動だけでなく、仕事の進め方や組織の役割そのものを見直していく重要性を語りました。
講演②|AIエージェント時代、仕事はどう変わる?

続いて、富士フイルムビジネスイノベーション CTO戦略室の髙橋和馬が、生成AIの最新動向を紹介しました。講演の中心となったのは、自律的にタスクを進める「AIエージェント」です。生成AIは、質問に答えたり文章を生成したりするだけでなく、システムと連携しながら複数の工程を進める存在へと進化しつつあります。
髙橋は、AIエージェントの進化によって、既存業務の一部をAIに置き換えるだけではなく、AIを前提に業務フローやシステムのあり方そのものを見直す動きが進んでいることを紹介。さまざまな事例を交えながら、AIが仕事の進め方を大きく変えていく可能性を解説しました。
AIを導入して見えた、次の壁
イベント後半では、AI活用実践企業として上村建設株式会社 システム部の田井村氏と西日本鉄道株式会社で生成AIの活用推進を担当していた人事部の小栁氏が登壇。生成AIを実際に活用する中で直面している壁や試行錯誤を共有しました。
AIを入れて気づいた「AI-Readyではなかった」

上村建設では、Microsoft Copilotなどを活用しながら、生成AIの社内展開を進めています。その中で見えてきたのが、社員による活用レベルの差です。初めて生成AIに触れる社員がいる一方、すでに複数のAIを使いこなし、会社が正式に契約していない、いわゆる「野良AI」を使いたくなる社員もいます。利便性を高めながら、セキュリティをどう担保するかも課題になっています。
さらに、AIを業務で活用しようとすると、社内のノウハウが人に依存していたり、判断基準が言語化されていなかったりと、AIに渡す情報そのものが十分に整っていないことにも気づいたといいます。

こうした状況を踏まえ、登壇で語られたのが「AI-Readyではなかった」という言葉です。「AIを使いこなせる組織になるためには、ツールを導入するだけではなく、データや業務知識を整理し、社員がAIを安全に活用できる環境やルールを整える必要がある。AIを導入したからこそ、自社に足りないものや、これから整えるべきことが具体化した」と田井村さんは話しました。
AIに任せるほど、人は考えなくなるのか

一方、西日本鉄道株式会社の小栁氏は、活用率やセキュリティ、投資効果といった企業側の論点から一歩踏み込み、「私たちはAIとどう向き合うのか」という問いを投げかけました。
小栁氏自身、日常的にAIを使う中で、分からないことがあればすぐに答えを求めるようになっている自分に気づいたといいます。AIは自分の能力を広げてくれる一方、返ってきた答えをそのまま受け入れ続ければ、自分で考え、判断する機会を減らしてしまう可能性もあります。
大切なのは、AIを「答えを教えてくれる存在」として使うだけではなく、その回答を材料に、「本当にそうなのか」「他の見方はないか」と自分で考えること。AIによって能力を拡張することと、AIに思考を委ねることは同じではないと語りました。「AIで何ができるか」だけではなく、「AIと人はどう付き合うのか」。AIが身近になるほど、技術だけでなく、使う側の姿勢も問われる点を考える機会となりました。
生成AIコミュニティで得た気づき
講演や企業事例の共有だけでなく、参加企業同士が立場や業種を越えて率直に意見を交わせることも、生成AIコミュニティの特徴です。継続してコミュニティに参加している西日本鉄道株式会社の小栁氏と、株式会社フォレストホールディングス DX戦略部の岡部氏に、この場で得た気づきや感じている価値を聞きました。
── 生成AIコミュニティには、どのような経緯で参加されたのでしょうか。

小栁氏 もともとは鉄道施設に関わる技術職で、災害対策などを担当していました。その後DX部門に異動し、社内でAI活用を推進する組織の立ち上げに関わりました。AIそのものを開発するというより、導入したAIをどう社内に広げ、活用度を高めるかという仕事が中心でした。そうした中で生成AIコミュニティを知り、他社がAI活用をどのように進めているのか知りたいと思ったことが、参加のきっかけでした。
── コミュニティに参加する中で、AIに対する考え方に変化はありましたか。
小栁氏 かなり変わりました。当時はAIを技術の一つとして捉えていたと思います。でも、さまざまな企業の方と話したり、専門家の方のお話を伺う中で、AIには組織や企業文化など会社そのものを変える力があるのではないかと感じるようになりました。
AIを単なる業務改善ツールではなく、会社そのものを変革するツールとして捉えるところまで視野が広がったことは、自身にとって大きな学びでした。
── 企業の垣根を越えて交流することには、どんな価値を感じていますか。
小栁氏 色々な会社が同じようなところで悩んでいると分かるだけでも、「自分たちだけではない」と思えます。自分たちより先を走る企業が何を考え、どこでつまずいたのかを直接聞けるのも新鮮でした。業界の違う方とつながれることも大きいですね。この場をきっかけに、イベントの外で交流や情報交換につながったこともあります。
── 生成AIコミュニティに参加して、どんなところに価値を感じていますか。

岡部氏 さまざまな企業の情報を得られることはもちろんですが、「他の会社も同じような悩みを抱えているんだ」と分かることが大きいですね。それだけでも安心感があります。社内だけで考えていると、自分たちだけがうまく進められていないように感じることもありますが、他社も同じように試行錯誤していると知ることで、自社の取り組みを考えるヒントにもなっています。
── 社内へのAI浸透では、どのような難しさを感じていますか。
岡部氏 AIを使う人と、なかなか使わない人との差はあります。ただ、単純に若い人ほど使うというわけでもありません。若手でも使わない人はいますし、管理職でも積極的に使う人はいます。AIを使った方が良いと思っている人、実際に行動に移す人、まだ様子を見ている人など、社内にはさまざまな人がいます。一律に広げるのではなく、それぞれの立場や業務に合わせて、自分ならどこでAIを使えるのかを考えてもらうことが必要だと感じています。
── 社内でAI活用を広げていくために、大切だと思うことはありますか。
岡部氏 経営層や上司が実際にAIを使っている姿を見せることも大切だと思います。「AIを使いましょう」と言うだけではなく、「自分はこう使っています」と示すことで、社員側の受け止め方も変わるのではないでしょうか。他社がどのようにAIを広げようとしているのか、どんなところで悩んでいるのかを知ることも、自社で次に何をするかを考えるきっかけになっています。

小栁氏が語った「AIへの見方の変化」と、岡部氏が感じる「自社だけではないという安心感」。二人の言葉から見えてきたのは、生成AIコミュニティがAIの知識や成功事例だけを持ち帰る場ではないということです。それぞれが抱える悩みや試行錯誤も持ち寄り、企業の垣根を越えて対話する。その中から、自社だけでは気づけなかった視点や、次の一歩につながるヒントが生まれています。
福岡支社の生成AIコミュニティは、なぜ生まれた?

企業の垣根を越えて、AI活用について本音で語り合える場をつくりたいという思いから始まった生成AIコミュニティ。コミュニティを立ち上げた2人に、誕生の背景や、活動に込めた思いを聞きました。