AI PoCとは、AI開発・導入を本格的に行う前に、技術的に導入できるかどうか、期待する効果が得られるかどうか、確認する検証作業です。PoCでは試作品を作成して動作検証を行い、検証結果の分析と改善を繰り返し、実用化に向けての準備を進めます。
本記事では、AI PoCの重要性や実施期間、成功に向けてのポイントなどを紹介します。AIの導入や開発を検討中の方は、最後までご覧ください。
AI PoCとは?
AI PoCとは、AIの開発・導入が技術的に実現可能かどうか、期待するメリットが得られるかなど、AI利用の有効性を検証する作業です。AIはデータ分析や売上予測、部品の検品など、一定のルールやパターンにもとづく作業を支援するのが得意です。
ただし、AIの予測・分析精度は、データの量や品質が大きく影響します。多額の費用と時間が無駄にならないよう、AI PoCを事前に実施しておき、AI導入の有効性や費用対効果などを確認します。
PoC(Proof of Concept)とは、新たなITツールや設備の導入、新製品開発など、新たなアイデアの実現が技術的に可能かどうか、検証するプロセスです。PoCは日本語で「概念実証」と訳され、本格的な開発・導入に移る前に実施されるケースが一般的です。
PoCでは最低限の機能を搭載した試作品を活用し、アイデアの実現可能性や期待しているメリットが得られるか、確認します。PoCの実施でさまざまな点を確認しておくことで、開発や導入失敗にともなう損失額を抑えられる確率が高まります。
AI PoCが重要視される理由
AI PoCを実施すべき理由は以下の3つです。
- AI開発には多くのコストと時間がかかるため
- データの質と量が十分かを確認するため
- 業務での活用イメージを共有するため
自社でAIを開発する場合、多額の費用と時間、人員を投じることになります。PoCの実施で技術面やコストなど、さまざまな角度から開発を進めるべきかを判断でき、無駄な経営資源の投入を避けやすくなります。
自社でAI開発を進める場合、開発環境の整備や専門知識をもつ人材の確保など、多くの経営資源を投じる必要があります。実用化できるレベルにまでAIの出力精度を高めるには、何度も動作検証やデータ分析、追加学習が必要です。
開発には多くの経営資源を割くことになり、仮に失敗した際はこれまで投じた費用や時間が無駄になる可能性があります。PoCの実施で「自社が開発可能な技術レベルか」「投資費用を回収できるか」など、AI開発の実現性を早期に見極めることで、経営資源の不要な投入を避けられます。
AI開発・導入に向け、自社内に保存されている既存データの質と量が十分かを確認することも、AI PoCの重要な目的の一つです。
AIの分析・予測精度を高めるには、大量のデータを事前に学習させる必要があります。AIを構成する機械学習は、多くのデータを学習する過程で規則性や傾向を見出す仕組みであり、学習データの量と質が精度に大きく影響します。
高品質なデータを十分に用意できなければ、業務で活用できるレベルの精度に到達しない可能性もあるでしょう。しかし、自社のデータだけで実用レベルに達するかどうかは、実際に検証してみなければ判断できません。
PoCを実施すれば、追加学習が必要か、どのようなデータが不足しているかなどを早い段階で把握できます。これにより、分析・予測精度を高めるために必要な対応を事前に検討できるようになります。
実際にAIが業務を進めている様子を確認し、どのようなシーンでAIを活用すべきか、導入後のイメージを共有するのもAI PoCの重要な目的です。
ITリテラシーやAIへの理解度は従業員によって異なり、場合によってはAIにどのような業務を任せられるか、想像できない可能性も考えられます。活用シーンが曖昧だと、仮にAIを開発しても業務での使用頻度が想定よりも上がらず、費用に見合った効果が得られません。
AI PoCで事前に動作検証を確認しておくことで、データ分析や画像生成など、AIの活用シーンが明確になり、業務効率が高まります。
AI PoCの進め方
AI PoCの手順は自社でのAI開発と既製品のAI導入、どちらを選択するかによって異なります。以下は自社でAI開発を進めると想定した場合の手順です。
- PoCチームを立ち上げる
- 目的と評価指標を明確化する
- 計画を策定する
- データの収集や修正を行う
- AIモデルの選定と試作品開発を行う
- 検証結果の分析と評価を行う
- 本格的な開発へ移行する
プロセスごとの内容を見ていきます。
まずは、AI開発を推進するPoCチームを立ち上げます。AIを実用化できるレベルまで高めるには、データ分析や機械学習、AIの構造などに関する専門知識が必要です。そのため、PoCチームにはAIエンジニアやデータエンジニアなど、AI開発に関する知識をもつ人材を確保する必要があります。
もし自社に専門人材がいない場合は、システム開発会社や外部パートナーへ相談することも検討しましょう。知識や経験が不足した状態でPoCやAI開発を進めると、実用化に至るまでに多くの課題が発生し、結果として時間や費用を過剰に費やしてしまう可能性があります。
「問い合わせ対応の効率化」「不良品の削減」など、AIの導入によって解決したい課題を明確化しておくことが重要です。AIの導入目的が曖昧な状態だと、PoCの評価基準・評価項目も定まりにくく、確認不足のまま本格的な運用に移るリスクが生じます。
また、AIの導入目的を設定する際は、具体的な数値目標を掲げることが必要です。たとえば、「カスタマーサポート担当者の残業時間を20時間削減」といった数値目標を設定しておきます。
数値目標を設定しておけば、PoCの検証結果を評価する際の基準やAIの導入効果が明確になり、改善点を把握しやすくなります。
PoCの実施計画を策定する際に決めておくべき主な内容は、以下のとおりです。
- 実施内容
- 評価基準および検証項目
- 実施環境
- 日程
- メンバーごとの役割分担
上記の内容が決まり次第、計画書にまとめておきます。また、検証期間は2週間〜1か月が一般的で、長くても2か月ほどです。検証期間が長すぎると、課題の共有や改善策の策定に移るタイミングが遅くなり、AIの開発が長期化するリスクが高まります。
どのタイプのAIモデルを開発する場合でも、AIの出力精度は学習するデータの量と質に大きく影響されます。まずは開発予定のAIモデルに学習させるデータを整理したうえで、基幹システムやデータベースなどから、必要なデータを収集します。
データを収集したあとは内容の重複や誤り、欠損などがないか、確認が必要です。収集したデータに重複や誤りが多数含まれていると、PoCの検証結果やAIの出力結果が低下するリスクが高まります。
データの収集と修正が完了したら、開発目的に応じてAIモデルを選定します。目的別に使用するAIモデルは以下のとおりです。
目的 | 使用する技術 |
問い合わせ対応(チャットボット) | 自然言語処理 |
メディア掲載用の素材制作 | 画像生成 |
異常検知 | 画像認識 |
設備の自動制御 | 自動制御 |
自動翻訳 | 音声認識 |
既製品のAIモデルを活用して開発を進める場合、AIモデルによって得意分野が異なるため、事前に特徴を理解しておくことが必要です。たとえば、問い合わせ対応には、文章生成や自然言語処理に強みをもつChatGPTなどを選択するケースがあります。
一方、製造ラインや物流ラインの異常検知には、画像認識や時系列データ分析に適した機械学習モデルを選ぶといった、用途に応じた使い分けが必要です。
AIモデルの選定が終わったら、開発環境で試作品の開発に移ります。試作品開発では、最初から完璧を目指さないことが重要です。
試作品には動作検証で必要な最低限の機能だけを搭載し、出力結果の精度は問題ないか、データ量は足りているかなど、課題の可視化を優先させます。
試作品が事前に設定した評価基準をどの程度満たしているか、確認する作業です。精度は実用化できるレベルか、業務効率改善の効果はどの程度あったかなど、試作品の完成度を客観的な視点で評価することが必要です。
検証結果の分析が甘いと、完成したAIモデルの出力精度が低くなり、高い投資に見合う効果が得られない可能性が高まります。主観的な評価を下さないよう、検証結果の数値にもとづき課題抽出や改善策の策定などに努めることが必要です。
また、試作品を実際に活用した担当者からのフィードバックもチーム内で共有しておくと、より現場の実情に見合ったAIを開発できる確率が高まります。
試作品の検証結果で問題がない場合のみ、本格的な開発に移ります。ただし、試作品の検証結果が望んでいた内容でなかったとしても、ネガティブな印象を抱く必要はありません。
「現状の精度では実用化は難しい」「より多くのデータを確保する必要がある」など、今後の開発を進めるうえでの方向性が明確になるためです。
AI開発の目的はPoCの成功ではありません。現場でAIを活用し、業務効率改善やコスト削減、人手不足解消など、特定の成果獲得につなげることが目的です。
また、試作品の検証結果をもとに改善を進めると、AIの完成度が高まるだけでなく、不要な費用の投資や時間の発生を抑えられる確率が高まります。
AI PoCの実施期間
AI PoCにかかる期間は、数週間〜数か月程度となるケースが一般的です。ただし、解決したい課題の内容やAIの仕様、準備すべきデータ量など、複数の要因によって変動するため、上記の期間はあくまで目安です。
また、AI PoCの期間があまりに長引くと、費用増大や従業員のモチベーション低下など、さまざまなデメリットが生じます。1回のPoCにかかる期間は短縮し、何度も検証結果の分析と試作品の改良を繰り返すことが、実用化に向けては重要です。
AI PoCを行う際の注意点
AI PoCを実施する前に、以下3点を把握しておく必要があります。
- 費用が高騰しやすい
- 専門知識をもつ人材がいないと自社での対応は難しい
- AIへの期待が大きくなりすぎる
PoCではAIモデルの選定や試作品の作成、検証結果の分析など、さまざまな作業を行うため、自社でAIを開発する際は専門知識をもつ人材が不可欠です。
検証結果での出力精度が低く、結果が出るまでPoCを続けた結果、想定より多くの費用を投じる可能性が高まります。PoCの回数が増える原因は、導入目的や評価基準が曖昧、専門知識をもつ人材の不在など、原因はさまざまです。
PoCの回数増大で無駄な費用が発生しないよう、PoCを実施するたびに評価基準や目標を具体的に掲げておくことが必要です。
また、何度もPoCを重ねても想定した結果にならない場合、自社がやりたい内容とAIが対応可能な内容に、ギャップが生じている可能性があります。
システム開発会社に相談すると、AIで対応できるかどうか、ほかのITツールで代用できないか、今後の方向性が定まりやすくなります。
データ分析や機械学習、AIモデルなど、AI開発に関する分野に精通した人材がいない限り、自社での対応は難しいといえます。AIが業務で活用できるレベルに至るまでには、試作品の作成や検証結果の分析など、何度も改良を重ねなければなりません。
ただし、専門知識をもつ人材がいないと、課題抽出や改善策の策定が思うようにできず、開発が長引きます。自社対応に不安を抱える場合は、AI開発が得意なシステム開発会社に依頼するのが無難な選択といえます。
PoCを何度も重ねたとしても、AIは企業が抱えるすべての課題を解決できるわけではありません。AIは請求書の作成やデータ分析、需要予測など、決められたルールや手順に沿った作業を再現するのが得意です。
ただし、相手の感情理解や状況に応じた対応など、主に営業担当者に求められる対応は向いていません。また、AIが示す回答内容や分析結果は、あくまで過去の情報を分析したうえで、導き出しているものです。
学習に必要なデータが不足している場合、期待した精度で文章や画像、動画などを生成できない可能性があります。そのため、AIに過度な期待を抱かないよう、注意が必要です。
AI PoCを成功させるポイント
AI PoCを成功させるには、以下5つの点を意識することが重要です。
- AI開発・導入の目的と評価基準を明確化する
- スモールスタートから始める
- PoCの結果は厳しく評価する
- 外注する際はRFPを作成する
- 外注する企業は複数の候補から絞り込む
ポイントの内容を一つ一つ見ていきます。
「ルーティンワークの自動化で残業時間を減らす」「コア業務に従業員を集中させる」など、AI導入の目的を明確にしておくことが必要です。解決したい課題が曖昧だと、AI PoCの成功自体がゴールになるリスクが高まります。
PoCで思うような結果が得られないと、このままAI開発を進めるべきか、チームメンバーにも迷いが生じます。
また、担当者が試作品の検証結果に対して、成功・失敗の評価を下しやすいよう、評価基準を明確化しておくことも必要です。「質問への誤回答が100件中5件以内」「異常検知率が95%以上」など、具体的な数値目標を掲げておき、AIモデルの現状を可視化します。
AI PoCを実施する際は特定の機能やデータ単位で検証を行うなど、スモールスタートから始めることが重要です。
いきなり大規模なAI PoCを実施しても、一つひとつの評価項目を客観的な視点で評価するには、多くの手間と時間が必要です。仮に検証中にエラーや不具合が生じた場合、すぐに原因を特定できません。
また、自社内に保存されていないデータが必要になった場合、毎回新たに学習を行わなければなりません。仮にAIを活用して業務プロセス全般の自動化を目指している場合は、膨大なデータが必要です。
上記のように大規模なAI PoCを実施すると検証期間が長引き、結果として1回のPoCにかかるコストが増大するリスクが高まります。コストを抑えつつAIの出力精度を高めるには、短期間で何度も検証結果を分析し、課題抽出と改善を繰り返す体制の整備が必要です。
検証結果は事前に設定した評価基準・評価項目にもとづき、客観的な視点で厳しく評価する姿勢が求められます。仮にPoCを通じて評価が甘かった場合はAIを現場に導入した際、出力精度の低さや不具合に悩まされるリスクが高まるためです。
実用化に向けての準備を進めるには、事前に設定した数値目標を満たしているか、実際のデータと目標を比較したうえで、現状把握に努める姿勢が求められます。
仮に期待した結果が得られない場合はこのまま開発を継続するか、システム開発会社に相談するか、状況に応じた判断を下します。
AI開発をシステム開発会社に依頼する際は見積を取得する際に、RFPも提出しておくのがおすすめです。
RFP(Request for Proposal)とは、システム開発やアプリ開発などの際、発注側がシステム開発会社へ提出する提案依頼書のことです。RFPに記載する主な内容は以下のとおりです。
- AI開発に至った背景
- 現状の課題
- 予算
- スケジュール
- 実装する機能と不要な機能
- セキュリティー対策
- サポート体制
RFPを提出しておくと、AI開発に関する自社の要望を外注先へ正確に伝えられます。外注先の担当者は自社の要望を書面を通じて確認できるため、提案の質や見積金額の精度が高まり、依頼先を絞りやすくなります。
AI開発を外注する際は、事前に3~5社の企業を候補にあげておき、各企業から見積を取得しておきます。仮に1社からしか見積を取らなかった場合、ほかの企業と開発金額や提案内容を比較できません。
限られた情報から発注先を選ばなければならず、場合によっては開発力に乏しい依頼先の選択や相場以上の費用を支払うおそれが生じます。ミスマッチを避けるには複数の企業と接触し、見積書と提案書の内容を比較しながら、依頼先を絞り込むことが必要です。
また、AI開発の依頼先には、伴走型支援サービスを提供する企業を優先的に選ぶのがおすすめです。伴走型支援サービスとは、AI開発に関して豊富な経験や知識をもつ人材が、AI技術やモデルの選定、試作品の開発など、PoC全般に関する作業をサポートするサービスです。
伴走型支援サービスの利用で、PoCをスムーズに進められるだけでなく、現場の実情に見合ったAIを導入できる可能性が高まります。
まとめ:AI PoCの注意点や成功に向けたポイントを把握しておこう
AI PoCとはAI導入・開発を本格化する前に、技術的に実用化できるか、課題解決が望めるか、有効性を検証する作業です。とくに自社でAI開発する場合は多額の費用と時間、人員を投じます。
事前にPoCを実施して、技術的に自社で対応できる内容か、投資費用が回収できるか、見極めることが重要です。ただし、PoCの回数が増えるほど、試作品の作成や検証結果の確認などにかかる費用が増加します。
また、AIエンジニアやデータエンジニアなど、AI関連の知識をもつ人材が社内にいない限り、AI開発やPoCの実施は困難です。自社での対応に不安を抱える場合、外部の専門家の知見を参考にしながら進めることも、一つの方法です。
豊富な知識と経験を兼ね備えた人材が在籍しており、自社の要望に見合った提案を得られる確率が高まります。
AIの導入を検討中の方は、お気軽に富士フイルムビジネスイノベーションジャパンまでご相談ください。
検索条件を変えていただき、もう一度お試しください。
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