フィジカルAIとは現実世界の法則やルールを理解したうえで、特定の物理的な動作を自動で進めるAIです。センサーやマルチモーダルAIなど、フィジカルAIを構成する要素の働きで、複雑なタスクにも正確な対応が望めます。
本記事では、フィジカルAIの仕組みや活用シーン、実用化に向けての課題などを紹介します。生産性向上や人手不足解消に取り組んでいる方は、最後までご覧ください。
フィジカルAIとは
フィジカルAIとは現実世界(物理空間)の法則やルールを理解したうえで、動作内容に反映できるAIです。フィジカルAIはロボットや自動運転システム、ドローンなどに搭載され、さまざまな作業を自動で進めます。
フィジカルAIは優れた判断力と対応力を兼ね備えており、状況に応じた対応をAI自ら取れる点が特徴です。カメラやマイク、GPSなどから情報を収集し、状況把握と意思決定を行うことで、複雑で難易度の高いタスクにも対応できる可能性があります。
フィジカルAIと生成AIは、活躍する場所や自動化できる作業などが異なります。双方の概要は以下のとおりです。
| 生成AI | フィジカルAI |
主な役割 | 知的作業の効率化 | 身体的作業(現場作業)の自動化・効率化
|
活躍する場所 | デジタル空間 | 物理的空間(現実世界) |
主な出力(判断結果) | デジタル空間で表示可能な情報(文章や画像など) | 動作内容 |
自動化できる主な作業 |
生成AIはユーザーからの質問文と過去のデータを照らし合わせたうえで、文章や画像、動画などを生成する点が特徴です。
ユーザーに専門的な知識やスキルがなくても、質問文を入力するだけで一定水準の成果物を制作できます。生成AIはデータ分析や書類作成など、デジタル空間でのタスク処理で活用されています。
一方、フィジカルAIはセンサーから取得したデータをマルチモーダルAIが分析し、分析結果を行動・動作内容に反映する点が特徴です。取得したデータから現実世界を認識したうえで、ロボットやドローンなどが自ら「見て・考えて・動く」ことで、課題を解決します。
生成AIとフィジカルAIは用途や役割などが異なるため、双方の活用で人手不足解消や生産性向上などにつなげられます。
フィジカルAIとロボティクスAIの違いは、判断の自律性と対応できるタスクの範囲にあります。
ロボティクスAIとは、あらかじめ設定したプログラムに基づいて動作を行うロボットで、決められた工程を正確に再現できる点が特徴です。
業務の再現性に優れており、部品の組み立てやピッキング作業など、同じ作業を繰り返す工程が多い製造現場や物流ラインで広く活用されています。ロボティクスAIの導入によって、作業の効率性や正確性を安定して高めることが可能です。
一方で、ロボティクスAIは事前に定義された動作を正確に実行することを得意としており、状況に応じて判断を変えるような高度な対応は想定されていません。そのため、環境の変化に応じた判断や複雑なタスク処理が求められる場面では、フィジカルAIのような自律的な制御技術が活用されます。
フィジカルAIに注目が集まる理由
フィジカルAIに注目が集まる理由は以下の3つです。
- AIが身近な存在になりつつあるため
- 社会課題を解決する手段として期待されているため
- 最先端技術の活用が望めるため
それぞれの理由を順に見ていきます。
ChatGPTやGeminiなど、多くの方が生成AIを利用するようになり、ビジネスや日常生活でAIの存在が身近になりつつあります。生成AIの普及で、AIを活用した際にどのようなことができるのか、以前よりもイメージを描きやすくなりました。
生成AIによるデスクワークの自動化を実現した企業が、次の段階として物理的なタスクを効率化する手段に、フィジカルAIの導入を検討しています。
フィジカルAIは身体を動かす業務がメインとなる業種で、人間の代わりに肉体労働を担い、人手不足を解消する手段として期待されています。
フィジカルAIは取得した情報をもとに、障害物の有無や周囲の状況などを認識し、自ら判断や行動を下せる点が特徴です。自律的な行動や状況に応じた対応が望めるため、従来よりも高度で複雑な作業を任せられます。
国内の労働人口は少子高齢化の影響で、減少傾向が続いている状態です。特に、介護や建設、製造業などは慢性的な人手不足が続いており、労働力不足を補う手段としてフィジカルAIへの注目度が高まっています。
生成AIの発展により、従来は難しかった「状況を理解して判断するロボット」の実現が現実的になってきました。これまでのロボットは、あらかじめ決められた動作を正確に繰り返すことは得意でしたが、環境の変化や想定外の状況に対応することは困難でした。
近年は大規模言語モデルや画像認識AI、強化学習などの技術が進歩し、周囲の状況を認識して行動を選択できるようになっています。
こうした技術の進展により、現実世界で自律的に動作できるフィジカルAIの実用化が進み、注目が集まっています。
フィジカルAIの仕組み
フィジカルAIは主に以下5つの技術で構成されています。
- センサー
- マルチモーダルAI
- 学習データ
- エッジAI
- 物理シミュレーション環境
一つひとつの役割や必要性を紹介します。
センサーは人間の目や耳のような役割を果たし、障害物の有無や物体の位置特定、音の判別などを実施します。
カメラやマイク、LiDARなどから情報を集め、リアルタイムの状況や周辺環境の変化を理解する仕組みです。
LiDARとはレーザー光を照射し、反射までの時間から距離や位置関係を測定する技術です。
LiDARは周辺環境を高精度で把握できるため、自動運転や商品の搬送などで欠かせない技術といえます。
マルチモーダルAIとは文章や画像、音声など、2種類以上の異なるデータを分析・統合し、意思決定に反映するAIです。たとえば、画像データから物体の識別や位置検知を行い、音声データから異常や不具合を検知するといった仕組みです。
マルチモーダルAIは少なくとも2種類以上のデータを組み合わせて処理するため、従来のAIよりも高度な判断や多角的な解析が可能になります。すでに製造業や医療、小売業など、さまざまな業種で導入されています。
学習データはフィジカルAIが状況に応じた判断と動作を実現するよう、必要となる情報のことです。フィジカルAIに任せる作業内容や想定されるリスクへの対応策など、さまざまな内容の学習データが必要です。
フィジカルAIに限らず、AIの回答・分析精度にはデータの量と質が大きく影響します。フィジカルAIの動作精度を高めるには、高品質なデータを可能な限り、多く用意しておくことが重要です。
エッジAIとは、クラウドではなく端末(デバイス)側でAI処理を行う仕組みです。カメラやセンサーを搭載したデバイス上で推論・分析を行い、データ収集から判断までを端末側で完結できる点が特徴です。
AIとデバイスでデータ処理を完結するため、リアルタイムで判断を下せます。
また、必要なデータだけをクラウドに送信する運用にすれば、通信量やクラウド利用料を抑えつつ、必要なログや記録を保存できます。
物理シミュレーション環境とは、現実世界の法則やルールをフィジカルAIに学習させるための仮想空間です。NVIDIA社が提供するNVIDIA Omniverseなどの物理シミュレーション環境が代表的な例となります。
フィジカルAIは実用化する前に、現実世界で想定されるさまざまなリスクを想定し、リスクごとの対応策を学習しておかなければなりません。安全性や対応力を強化するうえで、物理シミュレーション環境での訓練は不可欠といえます。
フィジカルAIの活用シーン
フィジカルAIがすでに活用されている、または今後導入が期待されている分野は以下の6つです。
- 製造ライン
- 自動運転
- 倉庫や物流センター
- 外科手術
- 介護支援
- 設備の保守・点検
個々の分野での使われ方や導入効果などを紹介します。
製造ラインでフィジカルAIを活用した場合、業務の効率性と正確性を高いレベルで実現できます。たとえば、部品の組み立てを任せた場合、仮に部品の位置がズレていても、カメラで物体の位置や傾きなどを把握できます。
部品の状態に合わせてアームの動きや角度を修正して作業を進められるため、仕上がりの質を落とさずに業務効率を改善できる点がメリットです。
また、企業によっては溶接や部品の搬送などもフィジカルAIが担っており、業務の自動化で人手不足解消を図れます。
フィジカルAIは自動運転のさらなる普及を推進するうえで欠かせない技術です。自動運転はほかの車との距離や歩行者の有無、天候など、さまざまな情報を収集したうえで、正確な判断を下さなければなりません。
道路によっては頻繁に渋滞や工事が発生するなど、状況に応じた対応も求められます。フィジカルAIはリアルタイムの状況を把握したうえで、正確かつ柔軟な対応が可能です。
フィジカルAIを構成するセンサーが、ほかの車の位置や距離、歩行者の有無など、交通状況を正確に認識します。センサーで認識した情報をもとに、マルチモーダルAIが事前学習のデータと照らし合わせ、スピードの調整や車線変更などを判断する仕組みです。
フィジカルAIの開発がさらに進めば、人間よりも正確かつ安全な自動運転を実現できる可能性も生じます。
倉庫や物流センターではフィジカルAIを搭載したロボットを開発し、敷地内の商品搬送や重量物の運搬、ピッキング作業など、各種作業の自動化が進められています。
たとえば、商品配送を自動化した場合、スタッフが長時間敷地内を移動する必要がありません。その結果、無駄な移動時間を削減し、梱包や在庫管理など、別の業務に時間を割けます。
また、フィジカルAIの導入で重量物の運搬も自動化できれば、商品の破損やスタッフがケガをするリスクも軽減できます。
外科手術は血管の切開や止血、糸での縫合など、複雑で繊細な動きが求められます。血管や臓器などを傷つけないよう、緊張感がある状況で集中力を長時間保たなければなりません。
フィジカルAIの活用が進めば、医師の手技を支援して負担軽減につながる可能性があります。将来的には、医療提供体制の改善に寄与することも期待されます。
ただし、患者ごとに臓器の大きさや位置、血管の太さなどが異なるため、身体の状態を素早く正確に把握したうえで、執刀を進めなければなりません。一つのミスが人命や後遺症に影響する可能性もあることから、学習と訓練を繰り返す必要があります。
フィジカルAIは、介護サービス利用者の動作支援やコミュニケーション支援の領域で、活用が進みつつあります。
フィジカルAIが利用者の体格や体重、動作を瞬時に識別し、歩行や立ち上がりをサポートすることで、介護職員の負担やケガのリスクを削減できます。
また、フィジカルAIが利用者の話し相手も務めることで、不安や孤独感を軽減する効果を期待できる点も魅力です。フィジカルAIの技術開発がさらに進んだ場合、高齢者の見守りや家事の手伝いなど、在宅介護での活用も期待できます。
設備の設置場所によっては急こう配や高所など、危険な場所での作業も珍しくありません。フィジカルAIを搭載したロボットやドローンの開発で、危険な場所での設備保守・点検を任せられ、従業員が負傷するリスクを避けられます。
センサーの働きで、障害物や段差などの周辺状況を確認しながら対象の設備に近づき、保守・点検作業を進められるためです。
また、フィジカルAIの活用で、設備の劣化具合や破損の有無などを映像で確認できるため、どの設備を優先してメンテナンスすべきか、正確な判断を下せます。点検結果を保存してデータ分析を行えば、メンテナンス計画の策定・見直しも進めやすくなります。
フィジカルAIの実用化に向けての主な課題
フィジカルAIの実用化に向けた課題は以下の5つです。
- 安全性の確保が求められる
- セキュリティー対策の強化が求められる
- 多大な費用と専門知識をもつ人材が必要になる
- 多くのデータと電力が必要になる
- AIに関する法整備が追い付いていない
クリアしなければならない点が多く、開発・導入は慎重な判断が求められます。
フィジカルAIの実用化には、誤検知や誤作動のリスクを最小限に抑え、安全性をどのように高めるかが重要です。事前に高品質なデータを多く学習していても、ユーザーが求める動作を常に実現できるわけではありません。
フィジカルAIに限らず、AIは事前に学習したデータをもとに回答・分析・動作を行う仕組みです。新しい情報や事前に学習していなかった内容に直面した場合、正確な対応ができない可能性が高まります。
仮に自動運転や製造ラインなどにフィジカルAIを活用していた場合、不具合が発生したタイミングによっては、大規模な事故につながっても不思議ではありません。
事故のリスクを減らすには、異常検知の仕組み整備や速度制限、緊急停止の基準設定など、さまざまな事態を想定し、安全対策を講じることが必要です。
フィジカルAIを活用する際は、機密情報を第三者に盗まれないよう、十分なセキュリティー対策を講じることが重要です。フィジカルAIはセンサー情報や学習データをもとに動作するため、不正アクセスを受けると大量のデータが外部に流出するリスクがあります。
たとえば、自動運転にフィジカルAIを活用する場合、歩行者の検知や天候の変化への対応など、状況に応じた判断を行うために膨大な学習データを蓄積します。こうしたデータには制御ロジックや動作アルゴリズムなど重要な情報が含まれるため、第三者に取得されると重大な損失につながるおそれもあるでしょう。
また、不正アクセスによって学習データだけでなく、開発したAIの仕組みや制御方法が漏えいする可能性もあります。安全に運用するためには、通信の暗号化や多要素認証の導入、定期的な脆弱性診断の実施など、強固なセキュリティー対策を継続的に行うことが重要です。
AIやハードウェア、セキュリティーなど、幅広い分野に精通した人材がいない限り、フィジカルAIを自社で開発するのは困難です。フィジカルAIの仕組みを実現するには、各種センサーやマルチモーダルAI、エッジAIなどの実装が必要です。
各種機器を実装したうえで、安全性を確保しつつ正確な動作を安定して実現することが求められます。実用化できるレベルまで精度を高めるには、開発環境での訓練や追加学習が定期的に必要です。
また、フィジカルAIの開発を進めるには、膨大な学習データと開発環境の構築が必要です。用途によっては訓練や学習のためにロボットや自動車などの購入費用も発生するため、多額の開発費を確保しておかなければなりません。
上記の内容からフィジカルAIを自社で開発する方法は、経営資源が豊富な企業向けの選択肢といえます。
フィジカルAIの実用化には、膨大な学習データと電力が必要です。フィジカルAIも従来のAIと同様、動作精度はデータの質と量が大きく影響します。タスクの種類を問わず正確かつ素早い処理を実現するには、多くの学習データを用意しなければなりません。
また、フィジカルAIを利用する企業が増えるほど電力使用量が増えるため、フィジカルAIの開発・運用には省電力化への対策も求められます。AIの使用頻度が高まるほど、必要なデータ量やデータセンターの稼働時間が増えるためです。
省エネ効率に優れたエッジAIの実装やAIモデルの軽量化などを実施し、消費電力削減に努めます。
AI関連の法整備が追いついておらず、事故が起きた際に誰が責任を負うのか、明確な規定はありません。仮にフィジカルAIを搭載したサービスで顧客が負傷した場合、開発側と運営側、どちらに責任が生じるのかが曖昧な状態です。
従来の法律は人間の行為を前提に設計されているため、フィジカルAIが原因で事故が起きた際は、どの規定に当てはめて責任の所在や処罰の重さを決めるべきか、判断に時間がかかります。
また、フィジカルAIの仕組みは複雑化する傾向が強く、事故の原因でないことを立証するのが困難です。法律の未整備に不安を抱える場合、別の方法で課題を解決できないか、考えるのも1つの手段です。
フィジカルAIに限らず、AIがすべての企業課題を解決できるわけではありません。事故による損失を防ぐには、自社の課題がフィジカルAIでないと解決できないか、再度考えておくことも必要です。
フィジカルAIの自社開発が困難な場合は外部の企業に相談するのも1つの選択肢
フィジカルAIを自社で開発するには、多額の開発費と専門知識をもつ人材が必要です。自社開発に不安を抱える場合、AI開発が得意なシステム開発会社に相談するのが賢明な判断です。
AI開発が得意なシステム開発会社には、AIやデータ分析、セキュリティーなど、AI関連に必要な専門知識を豊富にもつ人材が多数在籍しています。自社の用途や要望に見合ったフィジカルAIを開発できる可能性が高まります。
また、センサーやマルチモーダルAIなど、フィジカルAIの仕組みに必要な機器を自社で購入する必要がなくなり、費用と手間を削減できる点も魅力です。システム開発会社に依頼する際は、候補となる企業を3~5社前後挙げ、提案内容を比較したうえで絞り込みます。
複数の企業から見積と提案書を取得することで、開発費と提案内容を比較でき、依頼先が決めやすくなるためです。
まとめ:フィジカルAIの仕組みや課題を把握して導入を決断しよう
フィジカルAIは、製造・物流や自動運転など、物理空間で発生する作業を自動化・支援するAIです。センサーが収集したデータをもとに状況を把握し、学習結果と照らし合わせながら動作を決定します。
2種類以上の異なるデータを収集したうえで判断を下しているため、素早く高精度な動作が期待できます。ただし、フィジカルAIの開発には、膨大な学習データや専用デバイス、開発環境の構築などが必要です。
安全性の確保やセキュリティー対策の強化など、運用後の対策も講じなければなりません。専門知識をもつ人材が不在で開発費の確保も不安な場合、AI関連のノウハウが豊富な企業に相談するのがおすすめです。
豊富な知識や経験を兼ね備えた人材が多数在籍しており、自社の課題に見合ったソリューションを提案してもらえる可能性が高まります。
富士フイルムビジネスイノベーションジャパンでは、さまざまなAIソリューションをご提案しています。ぜひお気軽にお問い合わせください。
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