「Web接客」とは、Webサイトを訪れたユーザーに対して接客することを指し、サイト上でおすすめ商品を表示するポップアップバナーや問い合わせチャットなどを総称して「Web接客ツール」と呼びます。WebサイトにWeb接客ツールを実装しても、他の広告と同様に商品やサービスの情報を表示するだけでは、Web接客の効果を引き出すことはできません。Web接客施策を成功させるためには、ユーザー心理に寄り添ったサービスをツールの機能で実装することが重要になります。
今回は、効果的な5つのWeb接客施策とWeb接客を実装するために必要な7つの手順を解説します。

立正大学経営学部卒業後、数社を経てベルリッツ・ジャパン株式会社、株式会社インターファクトリーにてWebマーケティングを担当。2019年12月、Webマーケティングを支援するforUSERS株式会社を設立。300人以上のユーザー行動調査を実施してきた経験から、コンサルティングやセミナーに従事。著作には「図解 EC担当者の基礎と実務がまるごとわかる本」などあり、執筆活動にも力を入れている。
視点 : 「Web接客ツール」は購入決定を後押しし、必要なサポート対応をオンラインで提供できる
店頭のように販売員が直接接客することができないオンラインでは、バナーやチャットボットなどのサービス機能を利用した接客が必要になります。ECサイトで、バナーをポップアップ表示したり、チャットでサポートサービスを提供したりするためには、「Web接客ツール」を利用します。
下図は、国内アパレル業界最大手のECモールが提供している2つのWeb接客機能です。
一定時間、会員ログインをせずに商品ページを閲覧しているユーザーの画面に、新規会員登録の特典サービス(割引クーポンやポイント付与)の情報をポップアップ表示し、会員登録の特典を伝えることで購入決定を後押ししています。
ヘルプページや購入手続き画面などで「チャット」画面を表示し、サポートが必要なユーザーが気軽に問い合わせできるようにしています。「Web接客」はコンバージョン率(CVR)の向上を目指してユーザー満足度を高めるための施策の一つで、「Web接客ツール」でユーザーの関心を引きつけるきっかけや困ったときの相談窓口を実現します。
現時点のWeb接客の代表的な機能は「バナー」と「チャット」です。
| バナー | チャット | |
|---|---|---|
| 主な用途 | 宣伝・訴求 | 問い合わせ・FAQ |
| コミュニケーション | 通知による単方向 | 会話による双方向 |
Web接客の代表的な機能「バナー」と「チャット」の比較
バナーは一方的な通知のため、宣伝色やメッセージの押し付けが強くなりすぎると、うっとうしく感じてしまう場合があります。利用にあたっては、ユーザー心理を十分に考慮してメッセージとタイミングを設定することが大切になります。チャットは会話による双方向のコミュニケーションが可能なため、困っているユーザーの問い合わせ窓口に最適です。人間のオペレーターが応対する有人チャットと、チャットボットによる自動応答の手法があります。
- * バナー画像は実際に使用したものではなく、この記事のためのサンプルです。
筆者がコンサルティングを担当した、あるサプリメントメーカーのWeb接客事例では、バナーのデザインと設定を改善した結果、当初は4.86%だったバナーのクリック率が7.43%まで上昇しました。 同社が運営していたブログ記事は、すでにSEOキーワードの検索結果の上位表示を実現していたため、ECの特設ページにユーザーを誘導するために、流入の多いブログ記事にバナーを表示することにしました。しかし、記事ページのアクセス数に対し、バナーのクリック率は伸び悩んでいました。
下図は、同社が最初に設定していたバナーの特徴を再現したサンプルコンテンツです。シンプルできれいなバナーなのですが、Web接客用のバナーとしては3つの問題がありました。
問題1 テキストの視認性が低いため、ユーザーが気付きにくい
問題2 SEOキーワードをバナー内に明記していない(サンプルでは「コレステロール」)
問題3 ページを開いてから150秒後にバナーを表示する設定にしていたため、バナーが表示される前にページを離れる人が多い
そこで、3つの問題を次のように改善したところ、クリック率は大幅に上昇しました。
改善1 スマホユーザーでも見やすいようにテキストの視認性を高めた
改善2 SEOキーワード(サンプルでは「コレステロール」)をバナー内に明記した
改善3 ページを開いてから60秒後に表示されるように設定を変更した
改善前:4.86%
改善後:7.43%
同社がバナーで実現したいことは、商品の「宣伝」ではなく、ユーザーを特設ページに案内する「接客」ですから、「コレステロール」というキーワードでブログを訪れたユーザーの心理を理解する必要がありました。
何らかの目的を持って訪問したユーザーに対し、唐突に関連性のない声掛けをしてもユーザーは自分に向けたメッセージであるとは思わない、あるいは、気付いた途端に不快な気持ちになってしまうかもしれません。
Webでも、店頭でも、「接客」の本質は変わりません。なぜ来店してくれたのか、いつ声掛け(Web接客では「バナー表示」)をすると伝わりやすいのかなど、ユーザーにとって分かりやすいメッセージと最適なタイミングを計る必要があるのです。
同社ではWeb接客用のバナーを改善したことで、バナーのクリック率が上昇しただけでなく、これまでゼロだったブログ経由のコンバージョンの獲得という成果も収めることができました。
今回は、筆者がおすすめするWeb接客の効果を最大化するための5つの施策を紹介します。具体的な解説を加えていますので、ぜひ挑戦してみてください。
SEOキーワードで検索上位を獲得しているブログ記事などに、商品広告用のバナーを表示することで売上アップを目指す施策です。何も考えずにバナーを設置するだけでは、売上を伸ばすことはできません。以下のポイントを満たしたバナーを設置しましょう。
SEOキーワード:「低糖質 プロテイン」
- 記事ページのSEOキーワードを、バナーコンテンツ内にも明記する
- 記事ページの平均滞在時間より少しだけ短いタイミングでバナーを表示する
- ランディングページのファーストビジュアルとバナーのデザインを統一する
まず、記事ページに表示するバナー内には、必ず記事ページのSEOキーワードを明記します。SEOキーワードで記事にたどり着いたユーザーが、ブランドやECサイトにも関心があるかどうかは分かりません。しかし、直前にユーザー自身が検索ボックスに入力したキーワードに対する意識は最も高い状態にあるはずです。
例えば下図の場合、ユーザーは「低糖質 プロテイン」というキーワードの検索結果から記事ページを訪れているため、右側のバナーの方が目に留まる可能性が高く、クリックする確率も高くなります。
SEOキーワードで検索上位を獲得しているブログ記事などに、商品広告用のバナーを表示することで売上アップを目指す施策です。何も考えずにバナーを設置するだけでは、売上を伸ばすことはできません。以下のポイントを満たしたバナーを設置しましょう。
また、バナーを最初から表示してしまうと、記事への関心が高いユーザーの興味を引きづらくなります。逆に、表示が遅すぎると、バナーが表示される前にユーザーが離脱する可能性が高まります。そのため、バナーを表示する最適なタイミングは、例えば、ページの平均滞在時間が60秒であれば、ユーザーがアクセスしてから40~50秒後に表示するなど、平均滞在時間より少し前に設定するのがよいでしょう。
また、アクセス数が5,000セッションを超える規模の記事ページの場合は、バナーとランディングページのクリエイティブ(広告用コンテンツ)のデザインを統一しておくことをおすすめします。
このWeb接客施策は、すでにコンテンツマーケティングが成功している場合には、成功する確率が極めて高い施策です。
特定の商品ページに長く滞在しているユーザーは、購入意欲は高いものの、決定にためらう悩みを抱えている可能性があります。このようなユーザーにはチャット画面を表示して、いつでも気軽に相談できる環境を提供しましょう。コールセンターを持っていたり、対応スタッフを揃えたりできるのであれば有人チャットが理想ではありますが、チャットボットによる自動応対でも有効です。
チャットを開設することで、新たな顧客接点の問い合わせログを分析に利用できるようになるため、商品やサービスに対する顧客のニーズやトレンドをより詳しく把握できるようになり、分析結果を商品ページの定期改善などに活用することで、CVRの向上を目指せるようになるなど、さらなる施策を打つことも可能になります。
「訪問回数」や「閲覧履歴」などの条件によって、異なるバナーを表示できるWeb接客ツールを導入することで、例えば、前回訪問時に閲覧していた商品に関するバナーを、今回訪問時に表示するといったことが可能になります。
再訪ユーザーの多くは、前回訪問時に見つけた商品を購入するかどうか迷っている、あるいは、他の競合サイトと比較検討している可能性が高いため、再訪時に閲覧履歴に基づいた商品のバナーを表示するなど、パーソナライゼーションによる効果が期待できます。
この施策では、同じバナーが永遠に表示され続けることのないよう、同じバナーを一定回数表示してもクリックされなかった場合には、別のバナーを表示するなど、ユーザーに煩わしさを感じさせないよう、表示ルールを策定しておく必要があります。
キャンペーンなどの告知では、ユーザーにとってのメリットが一目で分かるバナーを用意して、キャンペーンページに案内するようにしましょう。
- キャンペーン期間中に使える500円クーポンをプレゼント
- キャンペーン商品に限り送料無料
- キャンペーン限定商品をプレゼント
決済画面で一定時間以上滞在しているユーザーは、何か困っている状況にある可能性があります。あと一歩でコンバージョン(CV)に至るユーザーなので、決済画面での最適なサポートの有無は、売上に直接影響します。
- クレジットカード決済の認証がエラーになる
- 希望する決済手段が表示されていない
- 複数ある決済方法が理解できておらず選べない
こうしたユーザーには決済画面にチャット画面を表示し、ユーザーが手続きをスムーズに進めるためにいつでもサポートできるようにしましょう。 チャットは前掲のWeb接客施策2と同様に、有人応対が理想ですが、チャットボットによる自動応答でも基本的なサポートを提供することができます。
Web接客施策を成功させるためには、次の7つの手順に沿って進めましょう。 本記事では、バナーを用いたWeb接客施策を例に、各手順を解説していきます。
最初に、課題と施策の目的を明確にしましょう。 Web接客ツールを導入しても、商品バナーを何となく表示するだけで、売上が増えることはありません。
以下のように、施策によって達成したい目標を具体的に設定することが重要です。
- サイト全体のCVRの向上
- ECサイトの初回購入率の向上
- ECサイトのリピート率の向上
- 新規会員登録数の増加
すでに以下のような課題を抱えている場合は、Web接客ツールを利用した施策は極めて有効です。
- SEOで上位に表示されているWebページがあるのにCVが少ない
- キャンペーンページやランディングページのCVRが低い
- 公式サイトのCVが少ない
見えている課題に対しては、仮説を立てるところから始めることができますが、課題が何か分からないけれど成果が上がらないという場合は、課題を特定するための現状分析から始める必要があります。
課題と目的を明確にしたら、実績データを確認しましょう。 例えば、SEOで上位に表示され、セッション数も多いWebページで、離脱するユーザー数が多い場合には、ユーザーが求めるコンテンツを提供できていない、あるいは、情報収集のためにアクセスしているだけのユーザーが多いのではないかと考えることができます。さらに、該当記事からの遷移を確認するなどして、Webページにアクセスしてくるユーザーの傾向と動きをデータから探っていきます。
データで捉えたユーザー情報に基づいて、「ユーザーはなぜそのような行動をしているのか」を考え、仮説を立ててみましょう。
- 記事ページには、「低糖質 プロテイン」というSEOキーワードで、多くのユーザーが訪れるが、商品ページに移動するユーザーはおらず、CVRは極めて低い。
- ユーザーは商品購入ページの存在に気付いていないのではないか?
- 記事ページ内に商品ページへのリンクを設定したらユーザーに気付いてもらえるかもしれない。
このように仮説を立てることができるのであれば、今すぐWeb接客ツールを導入すべきです。
手順3で立てた仮説に沿って、必要な機能を備えたWeb接客ツールを選びましょう。
SEOキーワード:「低糖質 プロテイン」
Web接客施策では、既存の広告バナーを利用するのではなく専用コンテンツを作成ししましょう。その際、コンテンツの目的を明確にしないまま、クリエイティブデザイナーに依頼してしまうと、デザインに偏重したコンテンツが出来上がってしまう場合があります。
一般にWebでは統一感のあるデザインが求められますが、違和感を生まないコンテンツはユーザーの目に付きにくいため、用途によっては目的を達成できない場合があります。
上図の右側のバナーは、テキストを強調するデザインで視認性を高め、一目でメッセージが伝わります。コンテンツ制作をデザイナーに依頼する際は、コンテンツの目的と共に、届けたいメッセージと強調したいテキストなどを明確に伝えるようにしましょう。
Web接客ツールと作成したバナーを使用して、期待したルールに沿ってバナーが表示されるように設定します。 バナーを用いた施策では、複数の施策を同時に実施すべきではないと筆者は考えています。複数の施策を同時に走らせてしまうと、成功と失敗の要因が特定しづらくなるためです。
また、よほどアクセス数の多いWebページでない限り、短期間ではバナーによる効果が表れにくいため、掲載期間は1か月以上を目安にして施策を設計することをおすすめします。
バナーを用いたWeb接客施策が成功した場合には、掲載期間中にバナーのクリック率が劇的に上昇します。
クリック率がほとんど変わらない場合は、以下のような原因が考えられます。
- そもそもの仮説が間違っていた
- バナーコンテンツが悪かった
- バナーを表示するタイミングが悪かった
施策がうまくいかなくても、落ち込む必要はありません。優秀なWebマーケティング担当者も多くの失敗を経験しています。あきらめずに、正しく効果検証して挑戦し続けることで成功につなげることができます。失敗は成功するために必要な一つのプロセスなのです。
施策がうまくいった場合には、クリック先のランディングページを改善して効果の最大化を図ったり、成功パターンとして別のページに横展開したりするなど、施策の範囲を広げていくとよいでしょう。
WebサイトにWeb接客ツールを実装しただけで効果を得ることはできませんが、ツール導入を機に、ユーザーが求めるサポートサービスについて再考してみるというアプローチをとることもできます。
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