2025.09.08
生成AIの著作権侵害リスク、どう判断する?国内外の事例から解説
生成AIは企業の業務効率をアップさせるために便利なツールですが、同時に著作権侵害のリスクもあります。
どのような場面で著作権侵害になるのか、不安に思っている方もいるでしょう。
本記事では、事例を交えつつ、生成AIの著作権侵害リスクについて解説します。
著作権侵害に注意するために、企業がとるべき具体的な対策もまとめました。
生成AIによる著作権侵害とは
生成AIの利用で企業が直面する著作権侵害のリスクについて、フェーズごとに解説します。
- AI学習段階で発生する権利侵害
- AIでの生成物による権利侵害
生成AIと著作権の問題は、AIがデータを学習する「学習段階」と、ユーザーの指示でコンテンツを生成する「生成物」の2つのパターンがあります。
AI学習段階で発生する権利侵害
生成AIの学習段階において、著作権侵害が発生するリスクがあります。これは生成AIモデルを訓練する際に、インターネット上などから収集した膨大な著作物(画像、文章、プログラムコード等)を使用することが原因です。
著作権者の許可なく使用されることにより、著作権侵害にあたる可能性があります。
企業は、生成AIの利用についてルールを設けるなどの対策が必要になります。たとえば、著作権が不明確な生成物をそのまま利用しない、二次利用の際は必ず人がチェックするなどのルールが効果的です。
また著作権侵害のない学習データが使われていることがわかる、生成AIツールを選択するのも大切です。
AIでの生成物による権利侵害
AIが生成したコンテンツ(生成物)が、既存の特定の著作物と酷似している場合、著作権侵害のリスクが発生します。
裁判所が著作権侵害と判断する基準は、主に「類似性」と「依拠性」です。
類似性は、生成物と既存の作品がどれくらい似ているかという指標です。一方、依拠性は、既存の作品にもとづいてコンテンツを生成したかどうかという点が問われます。
生成AIを利用する人がもとの作品を知らなくても、AIがその作品を学習データとしていれば、法的に依拠関係が認められると解釈される可能性があります。この点については専門家の間でも議論が続いており、今後の国内外の判例動向を注視する必要があります。
生成AIの著作権侵害事例
生成AIをめぐる著作権侵害にはどのようなものがあるのか、具体的な事例を解説します。
- ニュース記事の無断利用
- 画像素材の無断学習
- 書籍や文章の無断利用
- キャラクターや作品の模倣
- 作風に酷似したイラストの販売
著作権侵害は「知らなかった」では済まされないため、事例を理解する必要があります。
ニュース記事の無断利用
報道機関が制作した記事を、許可を得ずにAIの学習データとして利用し、類似した記事を生成するケースがあります。記事提供者の著作権を侵害するだけでなく、広告収入や購読料の減少といった事業面への影響も懸念されます。
さらに、AI開発側は公正利用(フェアユース)を主張する一方で、著作権者は権利侵害を指摘するなど、法的な立場の対立が生じやすい点も特徴です。
生成AIが扱う分野のなかでも、とくに議論が活発な領域のひとつといえるでしょう。
画像素材の無断学習
写真やイラストといった画像素材が、権利者の同意なくAIの学習データに利用されるケースもあります。学習段階での利用と生成物の提供の両面で著作権侵害が問題となる可能性があります。
とくに商業利用を前提としたサービスでは、AIがどのようなデータをもとにして生成しているかを確認することが重要です。利用規約や契約内容をしっかりと精査し、権利侵害のリスクを未然に防ぐことが求められます。
書籍や文章の無断利用
小説や論文などの書籍・文章が、著作者の許諾なしにAIの学習用データとして利用されることもあります。正規に購入した書籍のデータを使う場合と、違法に複製された海賊版データを使う場合とで、法的な判断は異なります。
とくに海賊版を学習に用いた場合は、著作権侵害となる可能性が高いといえるでしょう。AIを開発・利用する側にとっては、データの出所を確認し、適法性を担保することが重要な課題です。
キャラクターや作品の模倣
既存のキャラクターや作品に酷似した画像や映像をAIで生成する行為も、著作権侵害として問題となることがあります。とくに、特定のキャラクターの外見や特徴を再現した場合、単なる作風の模倣ではなく、具体的な著作物の複製とみなされる可能性があります。
また、利用者だけでなく、生成物を提供するプラットフォームやサービス事業者も責任を問われる場合があるため、事業運営上のリスク管理が欠かせません。
作風に酷似したイラストの販売
クリエイターの画風を模したAI生成イラストが、許可なく制作・販売されるケースも見られます。著作権法は「画風」そのものを保護対象とはしていませんが、生成物が特定の作品と著しく似ている場合には、著作権侵害と判断される可能性があります。
とくに販売や商用利用においては、利用者が知らないうちに権利侵害を引き起こすリスクが高まるため、利用する側・提供する側の双方に注意が必要です。
分野別の生成AI著作権侵害について
生成AIが引き起こす著作権侵害のリスクを、AIの専門分野ごとに分類して解説します。
- 文章・テキスト生成AI
- 画像・イラスト生成AI
- 動画生成AI
- 音声生成AI
文章や画像、動画、音声などの分野ごとに、リスクの傾向が存在するため理解しておきましょう。
文章・テキスト生成AI
文章・テキスト生成AIにおける著作権侵害は、AIが学習データに含まれる既存の文章と酷似したテキストを生成してしまう点にあります。
たとえば、ニュース記事をそのまま要約して公開すると、ユーザーが記事を閲覧する際に、本来企業が得られるアクセスや購読料が失われる可能性があります。
また、書籍の要点を生成AIで包括的にまとめてしまうと、購入せずとも内容が理解できてしまい、著者や出版社の売上に直接影響を与えるかもしれません。
企業が文章生成AIを利用する際は、生成された文章を「下書き」や「アイデア出し」として位置づけることが大切です。必ず、剽窃チェックツールで独自性を検証し、ファクトチェック(事実確認)を徹底しましょう。
画像・イラスト生成AI
画像・イラスト生成AIでは、ふたつの著作権リスクが存在します。
ひとつ目は、AIが既存の写真やイラストと酷似した画像を生成してしまうリスクです。ふたつ目は、特定のアーティストの「表現上の本質的な特徴」を模倣した画像を生成することによる、権利侵害および倫理的な問題です。
AIの出力結果が、既存の作品と視覚的に類似している場合、法的な責任を問われる可能性があります。一方で作風や画風、ありふれた表現などは、著作権侵害に該当しません。
企業が広告やデザインにAI画像を利用する際は、プロンプトに特定の作品名や作家名を含めないようにしましょう。また、生成物は画像検索などを用いて、類似作品の有無を確認する必要があります。
動画生成AI
動画生成AIは、技術的に新しい分野です。そのため、文章や画像、音声の著作権侵害リスクが複合的に絡み合います。
たとえば、一本の短い動画クリップのなかに、映像のスタイル(特定の映画監督の作風)や登場するキャラクター、背景に流れる音楽、物品のデザインなど多数の著作権がかかわる可能性があります。
ほかの形式と同様に、企業で生成AIの利用マニュアルを作成したり、生成された動画を必ず人間がチェックしたりする対策が必要です。
音声生成AI
音声生成AIに関する著作権リスクは、主に「楽曲」と「声」のふたつの側面で発生します。
ひとつ目は、既存の楽曲を無断で学習させ、新たな楽曲を生成する行為です。
ふたつ目は、特定の個人の声を無断で複製することが挙げられます。
なお、個人の声を無断で複製する場合、著作権とは別に、声の持ち主がもつ「パブリシティ権」を侵害する可能性もあります。パブリシティ権とは、著名人の氏名や肖像がもつ顧客吸引力にもとづく経済的利益を、本人が排他的に利用できる権利のことです。
生成AI利用で著作権侵害しないための対策
生成AIを安全に活用するために、企業が実践できる著作権侵害対策を6つ紹介します。
- 生成物は必ず人間がチェックする
- 著作権侵害のリスクのない生成AIを選ぶ
- 従業員のAIリテラシーを高める
- 社内での生成AI利用のルール・マニュアルを作成する
- データの正確性・機密性を保持する
- 生成AIの活用方法を定期的に見直す
リスクを回避しつつ、業務効率を高めるための対策をまとめました。
生成物は必ず人間がチェックする
生成AIが作成した文章や画像は、そのまま公開・利用するのではなく、必ず人間のチェックが必要です。
企業の業務で生成AIを利用する場合は、人間によるファクトチェック(事実確認)を、業務フローに組み込みます。
たとえば、AIが生成した広告コピーに誤った情報が含まれていれば、企業の信用問題に発展するおそれもあるでしょう。製品デザインに利用したAIイラストが他者の作品と酷似していた場合は、著作権侵害として損害賠償請求につながるかもしれません。
AIはあくまで「優秀なアシスタント」であり、最終的な品質と責任は人間が負うという意識を徹底することが重要です。
著作権侵害のリスクのない生成AIを選ぶ
著作権侵害のリスクが低い、信頼性の高い生成AIサービスを選択することも有効な対策です。
AIによる著作権侵害リスクの多くは、AIの学習データに起因します。そのため、開発元が学習データの権利処理をどのように実施しているのか、透明性を確認することが大切です。
たとえば、AIサービスが生成したコンテンツによって、AIサービスの利用者が著作権侵害で訴えられた場合に、訴訟費用などを補償する制度が整っているものもあります。
AIサービスを選定する際には、価格や機能だけでなく、学習データの透明性や補償制度の有無も判断基準のひとつです。
従業員のAIリテラシーを高める
従業員のAIリテラシーを高めるために、教育・研修体制を整える対策が効果的です。たとえば、従業員が生成AIを利用する際に、リテラシーが低いと個人情報や機密情報をプロンプト(AIへの指示文)に入力するリスクがあります。
具体的には、研修動画やeラーニングで、AIの仕組みや著作権法の基本、生成物の権利関係を学習するのがおすすめです。また、実際にAIで文章・画像を生成し、「この画像は著作権侵害の可能性があるか」をグループで議論する機会を設けるのもよいでしょう。
継続的にAIリテラシー教育を実施することで、技術的なリスクと法的な責任について理解が深まります。教育体制を整えることで、従業員は生成AIを安全に活用するための判断力を養えるでしょう。
社内での生成AI利用のルール・マニュアルを作成する
社内で生成AIを安全に活用するためには、まず利用ルールやマニュアルを整備することが大切です。その際には「AI事業者ガイドライン」を参考にすると安心です。
明確なルールがないまま従業員が自己判断でAIを利用すると、情報漏えいや著作権侵害といったリスクにつながる可能性があります。
マニュアルには「入力してはいけない情報(機密情報や顧客の個人情報など)」「公開前のチェックリスト」「会社が利用を承認したAIツールの一覧」といった内容を盛り込むとよいでしょう。
作成したマニュアルは、必ず全社に周知し、従業員が共通のルールに沿って安全にAIを活用できる体制を整えることが重要です。
データの正確性・機密性を保持する
生成AIを安全に活用するためには、AIに入力するデータの機密性を守り、AIが出力する情報を鵜呑みにしないことが大切です。
多くの公開AIモデルは、ユーザーが入力した情報をサービスの改善や再学習に利用する可能性があると利用規約で定めています。
そのため、顧客情報や未公開の事業計画、ソースコードといった機密情報を安易に入力しないようにする対策が必要です。
機密情報を扱う業務では、外部と通信しないローカル環境で動作するAIや、入力データを学習に利用しないことを保証する法人向けプランを選択することが推奨されます。
生成AIの活用方法を定期的に見直す
生成AIに関する法規制や、技術は変化し続けています。そのため、一度作成した社内のAI活用方針やマニュアルを固定化せず、定期的に見直し、更新し続けることが重要です。
数か月前に策定したルールが、新しいAIサービスの登場や新たな問題により、使えなくなることも考えられます。
たとえば、法務やIT、事業部門の担当者が参加するレビュー会議を四半期に一度開催するなど、定期的に社内ルールと外部環境の変化を照らし合わせます。必要に応じて、AI利用のマニュアルを更新しましょう。
まとめ
生成AIの利用には、著作権侵害のリスクが潜んでいます。
AIによる生成物は必ず人間がチェックし、既存の著作物との類似性を確認するようにしましょう。また、著作権侵害リスクの低いAIツールを選定することも重要です。
さらに、社内でAI利用の明確なルールを策定しつつ、従業員のリテラシーを高める継続的な教育が求められます。
生成AIの著作権侵害リスクに不安のある方は、下記より富士フイルムビジネスイノベーションまでお気軽にご相談ください。おすすめのツールや導入の流れなど、中堅・中小企業のDX推進をサポートいたします。
【ご注意】 本記事に掲載されている情報は、2025年8月時点のものです。生成AIと著作権に関する法規制や解釈は、今後変更される可能性があります。本記事は法的な助言を提供するものではありません。具体的な事案については、弁護士等の専門家にご相談ください。