2025.09.08
DXとAIの違いや関係性は?DXへの活用成功事例とポイントを解説
AIは、デジタルトランスフォーメーション (DX)を推進するうえで非常に強力なツールツールのひとつです。
DXとAIは根本的に違う概念なので、しっかりと違いや関係性を把握することで、社内での活用方法がイメージしやすくなります。
本記事では、DXとAIの根本的な違い、AIを活用してDXを成功させた具体的な事例や、導入をスムースに進めるためのポイントも紹介します。
DXとAIの関係性
そもそもDXは、デジタル技術を用いてビジネスモデル・組織文化を変革する企業全体の取り組みのことです。一方、AIは、人間の知的な活動を模倣する技術であり、DXを実現するための手段(ツール)という位置づけです。
DXは目的で、AIはその目的を達成するための強力なツールの一つという関係性となっています。そのためDXとAIは密接なかかわりがありつつも、必ずしもイコールではありません。
DXとAIの関係性を把握しておかないと、自社にとって必要なツールの導入や改革すべきポイントを正しく判断できない可能性があります。
DXの定義と目指すゴール
DXとは、データとデジタル技術を活用して、製品やサービス、企業のビジネスを根本から変革させるものと定義されています。新たな顧客価値を創出して、企業の競争優位性を確立する経営戦略を指すものです。
そのため単に新しいデジタルツールを導入するIT化とは、本質が異なります。
たとえば、レンタルビデオ店が顧客管理システムを導入するだけなら単なるIT化ですが、インターネットで映像配信サービスを始めれば、ビジネスモデル自体を視聴体験の提供へと変えるDXとなります。
このようにビジネスモデル自体を変えるのが、DX推進で目指すべきゴールです。
そのためDX推進は、どのツールを使うかという手段ではなく、顧客にどのような新しい価値を提供できるのかという、ビジネスを再定義することから始まります。
とはいえ、ビジネスの根幹から一気に転換するのは至難の業です。まずはAIを活用した作業・業務の効率化などからはじめ、徐々にDXを推進していきましょう。
最終的なゴールである「新たな顧客価値の創出」を目指して、できるところから少しずつ転換していくことが大切です。
DX推進にAIはどう役立つ?
DXがビジネス変革のための戦略であるのに対し、AIは戦略を実現するための手段です。
DX推進においてAIは非常に有効であり、両者は互いを高め合う関係にあります。AI以外にもIoTや5G、クラウド、ドローンなど、DXを成功させるための技術は多岐にわたります。あくまでAIは、手段の一つにすぎません。
DXにおいてAIは、人間では対応できない膨大なデータの分析・処理を担うケースが多く、ビッグデータの高速処理や機械学習などの機能を通じて、新しいサービスや価値の提供を可能にしてくれます。
どのようなAIを導入するかは、DX戦略において何が必要かから考える必要があります。まずは自社の業務プロセス全体を可視化して、AIの導入効果が大きいボトルネックとなる工程を見極めることが大切です。
【業界別】AI導入によるDX推進の成功事例
AIとDXの関係性がわかったところで、実際にAIはどのような形でDX推進に貢献しているのかを紹介します。他社の成功事例を参考にすることで、自社での活用イメージが具体的なものになるでしょう。
- 製造業|外観検査工程のAI化
- 製造業|工場の人員配置を最適化
- 飲食業|AI配膳ロボットで従業員の歩行数を削減
- 飲食業|来客数をAIで予測し機会損失・廃棄ロスを軽減
- 物流業|在宅予測により再配達を削減
- 建設業|AIにより事務作業の負担軽減&ペーパーレス化を実現
- 金融業|AIがカードの不正利用を検知
製造業|外観検査工程のAI化
AIの画像認識技術を外観検査に導入することで、製造業における品質・生産性を向上させます。
多くの製造現場では、製品の検査を熟練検査員の目視に頼っていますが、人手不足やヒューマンエラーによる精度のバラつきなど課題を抱えています。
AIに正常品・不良品のデータを学習させれば、製造ラインに設置したカメラの情報をもとに24時間365日安定的に高精度な検査を実行可能です。人間の目では判別が難しい微細な傷や不良も高精度で識別できるため、検査精度の向上と省人化を実現できます。
ヒューマンエラー削減による不良品流出リスクの低減や、検査速度の大幅な向上など、業務効率と品質を両立できます。
製造業|工場の人員配置を最適化
工場内の稼働状況や従業員のスキルデータをAIで分析することで、生産計画に応じた人員配置を効率的に行うことが可能になります。
従来は、どのラインに誰を配置するかを熟練者が経験や勘に基づいて決定しており、判断に時間がかかるだけでなく属人化しやすい点が課題でした。AIを活用すれば、これらの判断を自動化でき、急な欠員や生産変更が発生しても速やかに再配置が可能となります。
さらに、柔軟なシフト調整や勤務形態への対応がしやすくなるため、人手不足への対応や従業員の働きやすさ向上にもつながります。AIによる人員配置の最適化は、生産性向上と同時に、従業員の労働環境改善にも寄与する取り組みといえます。
飲食業|AI配膳ロボットで従業員の歩行数を削減
AI配膳ロボットの導入は、ホール担当の従業員の身体的な負担を直接的に軽減し、本来注力すべき接客サービスの質を向上させるために有効な手段です。
飲食業界が抱える深刻な人手不足と高い離職率の背景には、長時間の立ち仕事や広範囲の移動といった厳しい労働環境が一因です。料理や空いた食器の運搬といった単純な業務をロボットに代替させることで、従業員は来店者へのメニュー説明や追加注文の提案といった、より付加価値の高い業務に集中できるようになります。
ロボットという従業員が増えることで、レジの待ち時間短縮にもつながるため、従業員満足度と同時に顧客満足度も向上させられます。
飲食業|来客数をAIで予測し機会損失・廃棄ロスを軽減
過去の売上データ、天候、地域イベント情報などをAIで分析することで、来客数を高精度に予測できます。これにより、食品の過剰発注による廃棄ロスと、過少発注による品切れによる機会損失の双方を抑えることが可能になります。
従来は発注担当者の経験や勘に頼っており、需要予測の精度にばらつきがありましたが、AIを活用することでデータに基づいた安定的な発注が可能です。
その結果、廃棄コストの削減や販売機会の確保につながるだけでなく、オペレーションの効率化によって従業員の労働環境改善も期待できます。
物流業|在宅予測により再配達を削減
AIを用いて荷物の受け取り人が在宅している確率を予測し、配達ルートや時間帯を最適化する取り組みも進んでいます。これにより、物流業界の長年の課題である再配達を減らすことが可能です。
再配達の問題点は、ドライバーの長時間労働や燃料費の増加、さらにはCO2排出量の増大といった点です。
AIを活用すれば、配送エリアの統計的な在宅傾向をもとに効率的な配達計画を立てられるため、勘や経験に頼らず最適な配送が実現します。これにより、無駄な労力やコストを削減できるだけでなく、サービス品質の向上にもつながります。
建設業|AIにより事務作業の負担軽減&ペーパーレス化を実現
建設業界では、いまなお帳票や図面など多くの書類が紙でやり取りされています。そのため、書類の保管や手作業でのシステム入力、拠点間での物理的な受け渡しが、バックオフィス部門にとっては負担です。
特に会計伝票や領収書、請求書などは年間で100万枚以上にのぼることもあり、その回覧・保管に膨大な手間とコストがかかっています。
こうした課題に対し、AI-OCR(光学的文字認識)技術を活用したシステムの導入が注目されています。請求書などをスキャンするだけで項目を自動的に読み取り、会計システムにデータ連携できるため、手作業による入力が不要です。
その結果、ペーパーレス化による保管スペースの削減、コスト削減、さらにデータ化された情報を活用した検索性の向上など、多方面で業務効率化を実現することが可能です。
金融業|AIがカードの不正利用を検知
クレジットカードや決済サービスでは、AIが膨大な取引データをリアルタイムに分析し、過去の不正パターンや通常と異なる利用傾向を即座に検知する仕組みが活用されています。
従来は人手によるモニタリングに依存していたため、新しい不正手口への対応が遅れるリスクがありました。
AIを用いた不正検知では、日々の取引データから自動的に学習することで、手口が変化しても素早く対応できる点が特徴です。これにより、金銭的損失を未然に防ぐと同時に、利用者に安心・安全な決済環境を提供し、企業の信頼性を高める取り組みにもつながっています。
中小企業でも始めやすいAI活用方法
「AIやDXは多額の投資が必要で、大企業だけのもの」というイメージがあるかもしれませんが、実は中小企業のようなリソースが限られた企業でも、活用できるものです。
はじめから大きく変化させようとすると、多くの資金が必要だったり従業員の反発が大きかったりと、失敗するリスクが高まってしまいます。
まずは下記のような、はじめやすく成果の実感しやすい業務からAIを活用するのがおすすめです。
| 業務 | AI活用方法 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 顧客対応 | チャットボットの導入 | 業務負担軽減 |
| 売上予測・在庫管理 | 過去データ学習による予測 | 過剰在庫・欠品防止、コスト削減 |
| 事務作業 | AI-OCRによるデータ化 | 手入力業務削減、ペーパーレス化 |
| コンテンツ作成 | 生成AIの活用 | ブログ記事・SNS投稿・製品説明文などの効率的な作成 |
| 会議録作成 | AI音声認識ツールの活用 | 非生産的業務の効率化 |
また、資金面で不安がある場合は、補助金を活用するのも手です。IT導入補助金や新事業進出補助金などを活用すれば、費用を抑えつつAIツールの導入を進められます。
AIを用いたDX推進を成功させる5つのポイント
AIを活用してデジタルトランスフォーメーション(DX)を成功に導くために、DX推進担当者が必ず押さえておくべき5つの重要なポイントを解説します。
- DXの目的を明確にする
- 必要なデータを収集する
- AI人材を獲得・教育する
- 試行錯誤を前提として取り組む
- 小さく始め段階的に導入していく
DXの目的を明確にする
AIを活用したDXを成功させる上で重要なことは、技術導入の前に「なんのためにDXを推進するのか」という目的を明確に定義することです。
目的が曖昧なまま「AIで何かできないか」という発想で進めてしまうと、プロジェクトは方向性を見失い、ムダな投資となってしまうリスクが高くなります。
たとえば、「AIを導入して業務を改善する」という曖昧な目標ではなく、「AI外観検査システムを導入して、製造ラインの検品精度を98%まで向上させる」「不良品コストを年間3,000万円削減する」のように、具体的かつ測定可能な目標を設定することが大切です。
目的が明確になれば、どのようなAIツールを導入すべきかも明確になります。
まずは自社の事業課題を棚卸しして、どのような課題があるのか洗い出して、DXで達成したいゴールを定めることが大切です。
必要なデータを収集する
AIが能力を発揮するためには、学習のもととなる質の高いデータが必要です。そもそもデータが不足している場合は、データの収集・蓄積からはじめる必要があります。
たとえば、来店者の予測をAIで行うため店頭にカメラを設置する、不良品チェックのため製造ラインにセンサーを追加するなど、AI以外にも設備投資が必要な場合もあります。
また、必要なときに必要な量のデータが使えるよう管理することも大切です。
たとえデータが収拾されていても、社内の各部門にデータが分散していたり、データの形式がバラバラだったりする場合は、AI活用の障壁となります。
AI人材を獲得・教育する
持続可能なAI活用体制を築くためには、AI技術を理解してビジネスに応用できる人材が不可欠です。
中途で採用したり社内で教育を行ったりと、AI人材を獲得・教育する体制を整えましょう。場合によっては、社外のパートナー企業と協力する方法もあります。
AI人材を採用・育成するには多大な時間とコストがかかります。一方で、外部パートナーに完全に依存すると、コストが増大するだけでなく、社内にノウハウが蓄積されません。
初期のプロジェクトは外部パートナーとともに立ち上げ、その過程で社内の中心メンバーを育成する伴走型のプログラムがおすすめです。
試行錯誤を前提として取り組む
AIプロジェクトは、当初の計画通りに進むとは限らず、導入してすぐさま成功するとは限りません。
AIの精度を高めるには、学習を積み重ねる必要があることから、特に初期段階では失敗や調整を繰り返しながらデータ精度の向上・システム適合性を高める必要があります。AIの学習には試行錯誤が必要なので、失敗しても諦めずに、迅速に軌道修正することが大切です。
継続的に学習と改善を行うことで、実際の業務課題に合ったAI活用が確立されやすくなります。
また、AI活用は一度導入したら終わりではなく、継続的な性能の評価・改善やアップデートも必要です。
小さく始め段階的に導入していく
AI導入を成功させる方法は、全社一斉に導入するのではなく、特定の課題に絞った小規模なプロジェクトから着手して、段階的に展開していくスモールスタートが最適です。
大規模な一斉導入は、大きな初期投資が必要となるうえに、予期せぬ問題が発生した場合に事業全体におよぼす影響が大きく、失敗のリスクが高くなります。
特定の部署や部門など、小さく始めることでリスクを最小限にできるのと同時に、想定外の問題を早期発見できます。小規模段階で課題を見つけておくことで、全社展開時に想定されるリスクを減らすことが可能です。
また、まずは身近な業務で「使えた」という小さな成功体験を現場で積み重ねられることで、AIツールに対してポジティブな印象を与えられ、現場への定着につながるのもポイントです。
比較的シンプルで、効果が可視化しやすい議事録作成やチャット応答、資料作成などの業務から着手することを推奨します。
まとめ
AIを活用したDX推進は、製造業から金融業まで幅広い業界でさまざまな成果を生み出しています。
重要なのは、小さく始めて段階的に拡大することです。完璧を求めず、スモールスタートで実証してから全社展開するのが成功の鍵です。
また、中小企業でもポイントを押さえておけば、十分にAIを活用した効率化・DXの推進をスタートできます。
「何から手をつけていいかわからない」「自社に適したツールが不明」といった場合は、富士フイルムイノベーションジャパンにご相談ください。幅広い業界のDX推進をサポートしてきた経験を活かし、導入から定着まで丁寧に伴走いたします。