橋梁やトンネルなど老朽化が進む社会インフラの維持管理において、ドローンやAI画像解析などの新技術導入が期待されています。しかし、国土交通省が2022年度に実施した「新技術導入状況等に関するアンケート調査」によると、導入に前向きな意識を持つ自治体が約9割にのぼる一方で、実際の導入実績は約3割にとどまっています。この大きなギャップはなぜ生まれているのでしょうか。本記事では、インフラ維持管理の実務に悩む自治体と、自治体を技術面でサポートする建設コンサルタントや測量会社に向けて、アンケート調査結果から見えてきた導入の障壁と、それを乗り越えるための「課題解決・提案のヒント」をご紹介します。
日本のインフラ施設の多くは、1960年代から70年代の高度経済成長期に集中的に建設されました。コンクリート構造物の耐用年数を50年とすると、2030年には道路橋の約5割、トンネルの約3割、港湾施設の約4割が、建設後50年を超える見込みです。大量のインフラ施設の改修が、まさに待ったなしの状況です。
一方、市町村では土木技術系職員不足と予算不足が続いています。メンテナンスの必要性は増すのに、人員や予算は減少するという厳しい状況に直面しています。こうした課題の解決策として、2019年に道路橋定期点検要領が改訂され、従来の近接目視に加えて、ドローンやAI画像解析などの新技術を活用した点検が認められるようになりました。インフラ点検の効率化を図るため、デジタル技術の活用が本格的に推進され始めています。
国土交通省が2022年9月から10月にかけて、都道府県・市区町村の計1,245団体を対象に実施した「新技術導入状況等に関するアンケート調査」によって、自治体における新技術導入の実態が明らかになりました。
調査結果によると、新技術の導入に前向きな意識を持つ自治体が約9割にのぼる一方で、実際に導入したことのある自治体は約3割。中でも小規模自治体(人口5万人以下・土木技師数5人以下・土木費10億円以下)では、2割以下にとどまっています。前向きな姿勢と実際の行動との間には、大きなギャップが存在していました。


- 出典:国土交通省「新技術導入状況等に関するアンケート調査結果のとりまとめ」より作図
新技術導入に期待する効果としては、コスト削減を挙げる自治体が約8割と最も多く、実際に工事費用が縮減されたケースも3割に達しています。それでも導入が広がらないのは、前向きな姿勢だけでは越えられない現実的なハードルがあるからでしょう。導入を検討したものの、結果として断念した自治体も見られます。
アンケート結果から見えてきたのは、主に3つの課題(壁)です 。
自治体の担当者が導入・検討にあたり障壁となっていると回答した上位の理由は、以下の通りです。
- 発注に係る知識を有する技術者不足
- 新技術に係る予算不足
- 事例・情報の不足(自治体の規模や状況に合った導入事例が見つからない等)
特に、人口5万人以下で土木技師が5人以下といった小規模な自治体ほど、これら「知識」「予算」「事例」の3つの壁に阻まれ、導入が進んでいない実態が浮き彫りになりました。
- 出典:国土交通省「新技術導入状況等に関するアンケート調査結果のとりまとめ」より作図
また、「活用できる技術の選定が困難」「自治体の規模や状況に合った導入事例が見つからない」という声も多く、第3の課題として、事例や情報の不足が挙げられます。事例集への関心も約7割と高く、小規模自治体の参考となる事例、分野別の情報、選定や積算に関する情報などが整備されれば、導入促進につながる可能性があります。
では、こうした自治体のリアルな悩みをどのように整理し、導入につなげていけばいいのでしょうか。
一つは、国土交通省が2021年3月に公表した「新技術導入の手引き」の活用です。これには市町村職員を対象として、成功事例や積算の考え方、技術選定のポイントなどが整理されており、導入を検討する際のガイドとして参考になります。
また、「官民連携」の積極的な活用も有用です。国土交通省は、2016年に産官学民が参画する「インフラメンテナンス国民会議」を設立し、「行政の悩み」と「民間の技術」を結びつけるマッチングの場を提供しています。
そして重要なのが、「他事例を参考に、効果が見えやすい分野からスモールスタートする」という考え方です。ここでは、コンクリート構造物のひびわれ検出を例に、社会インフラ画像診断サービス「ひびみっけ」を通じて、「知識」「予算」「事例」という3つの壁への対応を整理します。
まず知識の面では、1,800社以上*が利用している実績があり、多くの企業が扱える標準的な仕組みとして運用されているという特徴があります。専門的なノウハウが十分でない場合でも、既存の運用事例を参照しながら業務に取り入れることができます。提案企業にとっても、広く認知された技術であることは、自治体に対して導入後の姿を具体的に示す材料となるでしょう。
予算面では、初期費用を必要としないクラウド型の提供形態であることや、小規模な構造物から利用できることが導入のしやすさにつながっています。限られた予算内で段階的に活用できることは、自治体にとって現実的な選択肢となり、提案企業にとっても説明がしやすいポイントといえるのではないでしょうか。
さらに事例の面では、橋梁やトンネルなど多様なコンクリート構造物での導入実績が公開されており、規模や条件が近い自治体の取り組みを参照することが可能です。他自治体の事例を具体的に示せることは、「他自治体ではどうやっている?」という不安の払拭につながり、導入を判断するうえで重要な情報となるでしょう。
ドローンやAI画像解析などのデジタル技術は日々進化しており、情報収集に動き始めたインフラ管理者も増えています。効果の見えやすい分野から段階的に取り組むことは、限られた人員と予算の中でも持続的・効率的なインフラメンテナンスを実現するための現実的なアプローチになるでしょう。
- * 2025年12月時点
ひびみっけは、国土交通省の点検支援技術性能カタログに掲載されている新技術で、橋梁・トンネルなどのコンクリート構造物の社会インフラ点検を効率化するサービスです。橋梁などのコンクリート構造物のひびわれをAIで自動検出し、ひびわれ点検業務を効率化しコスト削減に貢献します。
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