実際に使われる省エネを目指して。「AIおまかせ節電」開発の舞台裏

AIが複合機の利用状況および利便性を学習し、スリープへ移行する時間を自動調整する「AIおまかせ節電」。2026年10月に発売された「Apeos C7072シリーズ」で初めて搭載する、業界初※1の省エネ技術です。お客様自身が細かく設定しなくても、利便性への影響を抑えながら、省エネにつなげることを目指しています。
その原点にあったのは、カタログ上の性能だけではなく、「お客様が実際に使う環境で省エネにつなげたい」という思いでした。電力、電源、コントローラー、ソフトウェア、AIなど、異なる領域の技術者が部門を越えて集まり、数年にわたって進めてきた開発。
今回は、技術開発タスク活動をリードした成島さん、商品開発と技術の商品導入を推進した井田さん、ソフトウェア開発を推進した三樹さんに、開発のきっかけから技術の工夫、実用化までの道のりを聞きました。
※1 AIが複合機の利用状況および利便性を学習し、スリープ移行時間を自動調整する技術として。2026年10月現在、当社調べ。

成島 和彦
Kazuhiko Narushima
富士フイルムビジネスイノベーション デバイステクノロジー事業本部 オフィス商品開発部 第一商品開発統括グループ

三樹 正義
Masayoshi Miki
富士フイルムビジネスイノベーション デバイステクノロジー事業本部 エレクトロニクス開発部 コントローラHW開発統括グループ
コントローラソフトウェアおよび省エネ技術の開発に従事。複合機の利用データを活用した省エネ制御技術の開発を複数担当。「AIおまかせ節電」では「Smart WelcomEyes」含めた制御ソフトウェア開発を推進。

井田 舜
Shun Ida
富士フイルムビジネスイノベーション デバイステクノロジー事業本部 オフィス商品開発部 第一商品開発統括グループ
複合機の電力システムの商品開発に従事。省エネ技術とユーザー利便性を両立するシステム設計・商品化を担当。「AIおまかせ節電」では「Smart WelcomEyes」含めたシステム全体設計、および商品開発と技術の商品導入を推進。
目次
利用状況を学び、節電を「おまかせ」に
── 「AIおまかせ節電」とはどのような機能なのでしょうか。

成島 複合機には、一定時間使われていないとスリープモードに移行し、消費電力を抑える仕組みがあります。ただ、スリープへ移行するまでの時間を短くすれば省エネ効果は高まる一方、使いたいときに復帰を待つ場面が増えてしまいます。逆に、待ち時間を減らそうとスリープまでの時間を長くすると、その分、消費電力が増えてしまいます。
AIおまかせ節電では、このバランスをお客様自身が細かく調整するのではなく、AIが複合機の利用状況および利便性を学習し、その結果をもとにスリープ移行時間を自動で調整します。省エネと利便性の両立を目指した機能です。
── 開発に至った経緯を教えてください。
成島 きっかけの一つが、2019年度の省エネ大賞受賞事例が紹介されていたENEX展です。そこでエアコンなど他業界の取り組みを調べる中で、印象に残ったのが「実際に使われる環境で、どれだけ省エネにつながるか」という視点でした。
複合機業界では、TEC値などカタログに掲載する数値を高めることに力を注いできました。もちろん、それ自体は重要です。一方で、カタログ上の数字だけではなく、お客様が実際に使っているときの省エネまで考えられているだろうか、という思いがありました。他業界の取り組みを見て、複合機でも実際の使われ方に合わせた省エネができないか。そこから検討が始まりました。

三樹 省エネと利便性を両立するという考え方自体は、以前から当社にありました。「Smart WelcomEye」なども、その考え方から生まれた技術です。今回さらに踏み込んだのは、商品そのものの省エネ性能だけではなく、実際にお客様の環境でどう使われているかまで見て、省エネを考えようとしたところだと思います。
カタログ値の先へ。「実使用」の省エネを追いかける
── 実際の使われ方に目を向けると、どんな課題が見えてきたのでしょうか。

井田 スリープ移行時間の初期設定が短くても、「復帰を待ちたくない」という理由などから、より長い時間に変更されるケースがあります。一度変更された設定は見直されにくく、機種を買い替えた際にも引き継がれることがあります。つまり、商品として省エネ性能を高めても、実際の使われ方によっては、その性能が十分に活かされないことがある、そこが大きな課題でした。
| スリープモードへ移行するまでの時間(設定値) | 1分 | 60分 |
|---|---|---|
| 待機電力 | 少ない | 多い |
| 複合機のご利用時にスリープモードになっている機会 | 多い | 少ない |
スリープモードへ移行するまでの時間と、待機電力、利用時にスリープモードになっている機会
成島 お客様自身が日々の利用状況を見ながらスリープ移行時間を調整し続けるのは現実的ではありません。そこで、利用状況に応じた調整をAIに任せられないかと考えました。オフィスによって使われ方は異なり、同じオフィスでも時期によって変化します。AIおまかせ節電では、そうした利用状況を学習し、その変化に対応しながらスリープ移行時間を更新していきます。
── 実際には、どのくらいの省エネ効果があるのでしょうか。
成島 当社の評価条件では、スリープ移行時間を60分に設定した従来ケースと比較して、AIおまかせ節電によって待機電力を67%削減※2できることを確認しています。
カタログ上の性能だけでなく、実際の使われ方に目を向けることで、さらに省エネにつなげられる余地があることを示せたと思っています。

AIおまかせ節電による待機電力の削減効果(当社機比較)
※2 削減効果は社内評価から試算した平均値です。稼動電力も含めた場合は50%低減します(100V 55枚機、スリープ移行時間60分設定、週6日×8時間/日使用、ジョブ数平均11回/時間、コピー/ネットプリントジョブ比率50%)。削減効果は対象機種、評価条件および算定方法により異なります。
「Smart WelcomEyes」の進化が広げる、省エネと利便性の両立
── 省エネ性を高めながら利便性を保つために、センシング技術も進化していますね。
井田 はい。そこで活用しているのが、センシング技術「Smart WelcomEyes」です。従来から、人が複合機に近づくと自動で節電モードから復帰する技術を搭載してきましたが、今回は当社独自の自己走査型VCSELを活用した測距センサーを採用し、人の動きをより正確に捉えられるようにしました。
自己走査型VCSELは、広い範囲を走査しながら対象物までの距離を測定できます。さらに、人検知アルゴリズムによって人の動きを解析し、物や座っている人、複合機の前を通過する人と、実際に複合機を使おうとする利用者を識別します。

お客様の動きを判断して高速復帰
── 利用者を見分けることで、どのように動くのでしょうか。
三樹 複合機から離れたエリアで人を検知すると、まず低消費電力部分の復帰を始めます。その後、複合機の近くで利用者を識別すると、操作できる状態まで復帰させます。
このように段階的に復帰することで、不要な起動を抑えながら、使う人が近づいたときには素早く応答できます。体感待ち時間も、従来機の約3秒から約1秒へ短縮しました。
── AIおまかせ節電とは、どのような関係なのでしょうか。
三樹 当初は別々に検討していました。ただ「Smart WelcomEyes」が進化して復帰時の利便性が変わると、AIおまかせ節電側でもそれを踏まえる必要があります。そこで、二つを個別に考えるのではなく、システム全体で省エネと利便性を両立するよう検討していきました。

成島 AIおまかせ節電は利用状況に合わせて「いつスリープに入るか」を調整し、「Smart WelcomEyes」は人の動きを捉えて「必要なときにどう復帰するか」を支える。それぞれの技術を組み合わせることで、使っていないときはしっかり省エネしながら、使いたいときにはできるだけ待たせないことを目指しています。
井田 さらに新シリーズでは、70枚機の従来機比23%のTEC値改善を達成し、シリーズ全機種でTEC値No.1を実現しました。機器そのものの省エネ性能に、AIとセンシングを組み合わせることで、実使用での省エネと利便性を追求しています。
一つの技術ではつくれない。部門を越えた数年の開発
── 今回の開発は、さまざまな部門のメンバーが参加して進めたそうですね。

成島 はい。このテーマを専門に担当する一つの組織があったわけではありません。電力、電源、コントローラー、ソフトウェア、AI技術者など、省エネに関係するさまざまな領域のメンバーが集まって進めてきました。実際の商品に搭載するとなると、それぞれの技術が個別に成立するだけでは足りません。一つのシステムとしてきちんと動くように、各領域のメンバーが専門性を持ち寄りながら形にしていきました。
三樹 私も最初は、「少し技術的な話をしてほしい」ということで、短期間参加するつもりだったんです。それが、気づけば数年にわたって関わることになりました(笑)。
もともと複合機には、長年にわたってさまざまな省エネ機能を搭載しています。そこに新しい機能を加えると、ある条件ではうまくいっても、別の機能と組み合わせたときに想定とは違う結果になることがあります。さまざまなケースを確認しながら、この場合はどうするのかを一つずつ詰めていきました。
── 新しい考え方を商品に入れる難しさもあったのでしょうか。
三樹 ありました。従来、複合機は設定された通りに動くことが基本です。それに対して今回は、利用状況に応じて機器側で設定を調整するという新しい考え方です。開発するだけでなく、「どう評価すれば品質を担保できるのか」も含めて検討する必要がありました。そこで一つひとつ説明しながら、商品として成立する形を探していきました。
成島 最初に考えたことが、そのまますべて商品に入ったわけではありません。実現したいことは何なのかを大切にしながら、ソフトウェア側をはじめ、各領域のメンバーと何度も議論して、商品として確実に動く形にしていきました。
今後も使われ続ける省エネを目指して

── 数年にわたる開発を経て商品に搭載されました。今後についてはどう考えていますか。
成島 振り返ると、きっかけはENEXで他業界の取り組みを見て、「複合機でも、もっと実使用に踏み込んだ省エネができるのではないか」と感じたことでした。そこから、さまざまな部門のメンバーと数年かけて検討を重ね、商品としてお客様に届けられるところまで来ました。ただ、私たちが目指しているのは、商品に機能を搭載すること自体ではありません。
「カタログ上の数値だけではなく、お客様が実際に使う環境で、本当に省エネにつながるものにする。」
2019年度の省エネ大賞受賞事例が紹介されていたENEX展で感じた問題意識を、今回一つの形にすることができました。これからも、お客様の使われ方に寄り添いながら、省エネと利便性を両立する技術を追求していきたいと思っています。
※Apeosは、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社の登録商標または商標です。
「AIおまかせ節電」を支える、AI技術開発の舞台裏

「AIおまかせ節電」の実現を支えたのが、複合機の利用状況を捉え、最適な制御につなげるAI技術です。その技術はどのように生まれ、磨かれてきたのか。開発を担ったAI技術者・宇田川さんに、開発の舞台裏を聞きました。
電源・省エネ技術開発に従事。複合機の実使用環境における省エネ性能向上をテーマに部門横断タスク活動を推進。「AIおまかせ節電」では技術開発タスクリーダーとして、企画立案から技術開発までを推進。