AIガバナンスとは?必要な背景と企業が実施できる方法などを解説

2025.09.08

AIガバナンスとは?必要な背景と企業が実施できる方法などを解説

AIガバナンスとは?必要な背景と企業が実施できる方法などを解説

AIガバナンスとは、一体どのようなものなのかご存知でしょうか?耳にしたことはあるけれど、実際に導入している企業は、まだ少ないかもしれません。

本記事では、AIガバナンスとは何か、概要や必要とされる背景などを詳しく解説します。AIガバナンス体制がどれくらい整えられているかのチェックや、企業での実践方法などについてもまとめました。

AIガバナンスとは?

AIガバナンスとは、人工知能(AI)の活用にともなうトラブルや、リスク対策・透明性・公平性・説明責任を確保する仕組みなどができる体制を整えることです。

企業でAIを導入する際に、倫理的かつ安全に運用できるような仕組みづくりが求められます。

AIは便利である一方、学習データの偏りにより過激な回答を生成したり、開発者の意図しない挙動をする場合があります。

AI利用の責任はどこにあるのか、セキュリティー対策はどのようになっているかなどの問題と向き合うためにも、AIガバナンスの整備は重要です。

一般的なガバナンスとの違い

一般的なガバナンスは、企業全体の経営を管理する仕組みで、法令遵守や財務の健全性、リスク管理を通じて利害関係者の利益を守ります。

一方でAIガバナンスは、AIの利用にともなう特有のリスクに焦点を当てた仕組みです。たとえば、偏見や差別、プライバシー侵害、説明責任の不足といった課題に対応します。

一般的なガバナンスが経営全体の透明性や内部統制を重視するのに対し、AIガバナンスは公平性や安全性を確保し、社会への影響に配慮した責任あるAI活用を目指す点が違いです。


AIガバナンスが必要な理由は?

AIガバナンスが必要な理由について、下記の4つを紹介します。

  • 生成AIの普及によるリスクの増加
  • 著作権侵害や機密漏えい対策
  • 情報の正確性を担保するため
  • 企業の信頼を守るため

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

生成AIの普及によるリスクの増加

生成AIの普及により、従来のガバナンス体制では対応が難しい場面が増えています。

生成AIは学習データに依存するため、事実と異なる情報をもっともらしく提示してしまうハルシネーション(幻覚現象)が課題です。たとえば、医療や法律の分野で誤った情報を生成すれば、利用者に大きな不利益を与える可能性があります。

こうしたリスクを見据え、AIの利用目的や精度を定期的に検証し、責任ある運用を行うためのAIガバナンスを整えることが不可欠です。

著作権侵害や機密漏えい対策

生成AIの学習データに著作物が含まれていたり、生成AIのプロンプト(AIへの指示文)に、企業の機密情報を入力してしまったりする問題もあります。プロンプトに入力した内容は、AI学習に利用される場合があり、結果的に出力結果を通じて第三者に流出するリスクもあります。そのため、AI導入では法律の側面にも注意が必要です。AI学習に利用されているかどうかは、AIサービスによって異なるため、あらかじめ利用規約を確認してください。

たとえば、生成AIは大量の著作物を学習データとして使用するため、出力が既存の著作物に類似する可能性があります。

万が一、著作権侵害や機密情報の漏えいがあった場合、企業は法的責任を問われる可能性があります。たとえば、著作権で保護されているイラストや顧客データ、契約内容などの情報はプロンプトに入力してはいけません。

AIガバナンス体制を整えることで、こうしたプロンプトに入力可能な内容を制限できます。

【ご注意】 本記事に掲載されている情報は、2025年8月時点のものです。生成AIと著作権に関する法規制や解釈は、今後変更される可能性があります。本記事は法的な助言を提供するものではありません。具体的な事案については、弁護士等の専門家にご相談ください。

情報の正確性を担保するため

生成AIが嘘の情報を含めて回答する、ハルシネーション問題も、AIガバナンスが求められる理由のひとつです。ハルシネーションが発生すると、誤った情報を顧客に伝えてしまったり、正確ではない情報をもとに経営判断をしてしまったりします。

企業の信頼性を守りつつ、情報の正確性を担保するためにはAIガバナンスが欠かせません。とくに医療や金融、法律など、高精度が要求される分野では、大きなリスクとなります。

出力結果に対し、必ず人間がファクトチェックを実施するなど、AIガバナンス体制を整えることで、企業の信頼を維持することにつながります。

企業の信頼を守るため

AIガバナンスは、企業の社会的信頼とブランド価値を守るためにも重要です。

AIはどのような経緯で判断したのかがブラックボックスになりやすいため、必ず人間が責任をもつ必要があります。説明責任が果たせない場合、訴訟や行政処分のリスクに直結することもあるでしょう。

AIガバナンスが不十分だと、ブランドイメージが損なわれるリスクもあります。たとえば、意図せず差別的・攻撃的な内容を発信してしまったり、誤った商品情報を説明してしまったりします。

適切なAIガバナンスの体制を整備することが大切です。たとえば、誤情報の検証フローを設けたり、機密情報の入力ルールを決めたりするのが有効です。これにより、顧客に正しい情報を届けつつ、重要な情報の漏えいを防止できます。

結果的に、ブランドの価値を高められるでしょう。


AIガバナンスに関する法規制

ここでは、AIガバナンスに関する世界各国の法規制について紹介します。

  • 日本のAI技術の研究開発・活用推進法案
  • EUのAI規制法
  • アメリカのSR-11-7
  • カナダの意思決定の自動化に関する指令

法律を理解したうえで、正しくAIを使えるようにしましょう。

日本のAI技術の研究開発・活用推進法案

日本でも、2025年6月4日に「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」が公布されています。AI推進法では、主にAI産業における競争力の強化や研究支援、AIの誤った使い方による倫理的な問題のリスクを軽減することなどが目的とされています。

日本では当初、経済産業省が「AI事業者ガイドライン」を策定していました。しかし、AI技術が急速に発展したことにより、ガイドラインでカバーできない部分が増えてしまいました。たとえば、生成AIの登場による技術的な発展や倫理的な問題、責任の所在などです。

これに対し、日本でもAIに関する法制度の整備をする流れが来ています。

EUのAI規制法

ヨーロッパ圏(EU)では、2024年5月に世界初のAI開発・運用に関する規制をまとめた、「AI法(Artificial Intelligence Act)」が策定されました。

AI法では、EU基本権憲章にもとづき人間の基本的な人権を守ることを掲げています。AI活用によるリスクを以下の4つに区分して、禁止事項や義務が設けられています。

  • 許容できないリスク
  • ハイリスク
  • 限定リスク
  • 最小リスク

たとえば、市民の生命や健康を危険にさらす可能性のある重要なインフラなどは、AI活用のなかでもリスクが高いとされています。

万が一、AI法を違反した場合は、巨額の制裁金が科される可能性があります。対策として、企業はAI利用によるリスクの評価や透明性の確保、文書化など、ガバナンス体制を整えることが重要です。

アメリカのSR-11-7

アメリカでは、AI活用について「SR-11-7」が策定されています。SR-11-7は、米国連邦準備制度理事会 (FRB) と通貨監督庁 (OCC) が発行した、モデルリスク管理に対するガイドラインです。

AI専用の規制ではありませんが、米国ではSR-11-7がAIモデルのリスク管理にも広く適用されています。

カナダの意思決定の自動化に関する指令

カナダの「意思決定自動化指令」は、カナダの政府機関による、AI利用のリスクを最小限に抑える指令です。主に、透明性と市民の権利保護を目的としたアプローチを採用しています。

主な対象は、政府機関のみで民間は対象外とされています。行政サービスにAIを導入する場合、とくに透明性を重視し「説明責任」を果たせる体制を整えることが重要です。

カナダ政府は福祉給付、移民審査、税務調査などの分野で使用される自動化システムについて、影響レベルに応じた段階的な評価と監視を実施しています。


企業がAIガバナンスを実践する方法

企業がAIガバナンスを実践する方法について紹介します。

  • 環境・リスク分析
  • AIガバナンス委員会を設置する
  • 目標達成に向けたシステムデザインを設計する
  • システムを運用する
  • 運用後に評価する

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

環境・リスク分析

AIガバナンスでは、まず自社のAI利用状況をチェックしつつ、リスクを分析することが大切です。

リスク分析の段階では、AIがもたらすよい影響や悪い影響などを調べる必要があります。また、AIの活用が社会からどれだけ受け入れられているかや、自社でAIを使いこなせているかどうかについても確認します。

たとえば、採用支援にAIを導入する場合、性別や国籍による差別リスクが発生する可能性が考えられるでしょう。

ほかにも、画像生成AIを使う場合、著作権侵害リスク対策が必要です。

AIガバナンス委員会を設置する

AIの倫理的な側面をカバーするためには、自社でAI利用の委員会を設置することが大切です。

ビジネスにおけるAIの活用では、責任の所在が不明瞭になりやすいといえます。そのため委員会を設置し、最終的には人間が責任を負う体制を整えましょう。

部門横断的なAIガバナンス委員会の設置により、統一された方針のもとで、一貫したガバナンス活動を推進できます。

委員会では、高リスクプロジェクトの評価や承認、インシデント対応方針の決定などを担います。

目標達成に向けたシステムデザインを設計する

企業がAIガバナンスを実施する際には、明確な目標設定が欠かせません。AIガバナンスを日常業務に組み込んだ、実効性のある仕組みを構築します。

具体的には、企画段階でのAI影響評価、データ取得時のプライバシー影響評価、運用時の継続的なモニタリングなどが必要です。

目的を達成するまでの各段階で、必要な項目をチェックリストでまとめておくと、スムースに実現できます。

システムを運用する

AIを安全に運用するためには、人間による継続的な監視が欠かせません。主に、KRI(重要リスク指標)とKPI(重要業績指標)による継続的モニタリングが必要になります。

たとえば、AIモデルの性能が高いかどうか、古いバージョンのものを使用していないかどうかをチェックすることは重要です。

ほかにも、自社の機密情報が漏えいしていないかどうか、セキュリティーの面から監視することも求められます。

運用後に評価する

AIを実際に運用してみて、課題や改善点はあるか、作業効率を上げられる部分はあるかなどを評価します。定期的に改善を繰り返すことで、時代の変化に適応し続ける動的なAIガバナンス体制を維持できます。

主な評価項目は、KRIやKPIの達成状況、インシデントの分析、法律を守れているかどうかなどです。多角的な視点から、AIガバナンス体制の効果を検証します。


AIガバナンスを導入する際の課題と対策

AIガバナンスを導入する際の課題と対策について紹介します。

  • 社内にAIガバナンスの重要性を周知する
  • AI人材が不足しないようにする
  • AIの導入コストを軽減する
  • AIでの現場利用を通じて継続的に改善する

AIガバナンスについて、さらに理解を深めましょう。

社内にAIガバナンスの重要性を周知する

AIガバナンスの体制を整えるためには、社内でAIガバナンスの重要性について周知します。

従業員が「ガバナンス=制約」と捉えてしまうリスクがあるため、「信頼性の高い活用のための基盤である」と説明する必要があります。経営層から現場まで、全社的な理解と協力が社内文化として定着するポイントです。

たとえば、CEO主導でAIの利用方針の説明会を開いたり、部門別にAI活用のワークショップを開催したりするとよいでしょう。ほかにも、AI活用の成功・失敗事例を共有したり、AIガバナンス貢献者への表彰制度を導入したりするのが効果的です。

AI人材が不足しないようにする

AIを効果的に活用していくためには、専門的な知識をもった人材を自社で確保することが重要です。市場全体でAI人材は不足しており、採用コストや教育コストの高さも課題とされています。

そのため、外部から人材を採用するだけでなく、既存社員を育成してAI人材へと育てる「両面からのアプローチ」が必要です。AI人材には、技術的な知識だけでなく、法務やコンプライアンスの理解、リスク管理のスキルなど幅広い能力が求められます。

具体的には、全社員を対象としたAIリテラシーの基礎研修や、管理職向けにリスク評価や監督の方法を学ぶ研修を実施するなど、階層ごとに適した教育を組み合わせることが効果的です。

AIの導入コストを軽減する

AIの導入には、ツール利用の費用や人的リソースの確保など、多くのコストがかかります。そのため、なるべくコストを抑えながら、段階的に導入するのがおすすめです。

いきなり全社にAIを導入しようとすると、初期費用が高くなったり、誤作動による業務停止が発生したりするため、リスクがあります。

そのため、一度に完璧なAIガバナンスの体制を整えるのではなく、優先度の高い領域から段階的にAI活用を進めます。

AIでの現場利用を通じて継続的に改善する

AIを導入した後は、実際に利用した現場の従業員から、使いやすさや業務の効率化ができているかどうかなど、フィードバックを得ることが大切です。得られたフィードバックをもとに、理論と実現性のギャップを埋めます。

継続的に改善を繰り返すことで、実効性の高いAIガバナンス体制を構築できます。

現場の従業員から定期的なフィードバックを収集できる体制づくりが、AI活用の鍵です。


AIガバナンス体制を構築するための支援サービス

ここでは、AIガバナンス体制を構築するための支援サービスについて紹介します。

  • 診断ツール・プラットフォームを活用する
  • 研修・セミナーでAI人材を育成する
  • AIの資格制度や認証を活用する

ぜひ参考にしてください。

診断ツール・プラットフォームを活用する

企業のAIガバナンスの習熟度を調べられる、診断ツールやプラットフォームを活用するのもおすすめです。とくに、自社のAIガバナンスの状況を客観的に把握したい方に適しています。

AIガバナンス診断ツールとプラットフォームの活用により、データの管理や品質、監視体制などを、客観的に評価できます。また、診断ツールを活用することで、現状の成熟度を客観的に評価し、体系的な改善計画を策定可能です。

研修・セミナーでAI人材を育成する

既存の従業員に対するAI教育体制を整えるために、自社で研修を実施したり、外部の学習セミナーなどを活用したりするとよいでしょう。

たとえば、AI利用に関する倫理観や診断ツールの利用方法、AIの監視体制を整える方法など、内容はさまざまです。

経営層向けに、AIガバナンス戦略のセミナーが開催されているところもあります。積極的に学習の機会を得ることで、AIをより効果的に活用できるようになります。

AIの資格制度や認証を活用する

AIガバナンス体制が整っていることを示すために、資格制度や認証などを活用するのもおすすめです。

AIに関する主な資格は、JDLAのG検定E資格などがあります。G検定とは、AI・ディープラーニングの活⽤リテラシーを習得できる資格です。また、E資格とはディープラーニングの理論を理解し、適切に実装できる能力を問われる資格となっています。

必要に応じて、従業員に資格の取得を促しつつ、勉強できる体制を整えることが大切です。

また、第三者認証制度などの、企業のAIガバナンスを客観的に可視化・立証する仕組みを活用してもよいでしょう。


まとめ

AIガバナンスは、生成AIが普及している背景もあり、企業にとって必須の取り組みといえます。

AIによる著作権侵害や情報漏えいのリスクに注意するため、AIガバナンスの体制を整えることが大切です。AIは導入して終わりではなく、継続的な監視や時代に合わせた改善が求められます。

従業員のAIリテラシーを高めることで、効果的にAIを活用できるようになるでしょう。企業でAIの導入を推進したい方は、富士フイルムビジネスイノベーションのお問い合わせフォームをご活用ください。技術的な側面から、DXの推進をサポートいたします。