2025.11.04
RAG(検索拡張生成)とは?
仕組みや生成AIにおける活用メリット・活用事例を紹介
生成AIの精度や、信頼性を高める技術として注目されているのが「RAG(検索拡張生成)」です。
従来のLLMだけでは対応が難しかった最新情報や社内データを取り入れ、より正確で根拠のある回答を実現します。
本記事では、RAGの仕組みやLLM・ファインチューニングとの違い、具体的な活用事例や実装手順までわかりやすく解説します。
RAG(検索拡張生成)とは
RAG(検索拡張生成)とは、「検索」と「生成」を組み合わせることで、生成AIの精度と柔軟性を高める技術です。従来の生成AIは、過去に学習したデータのみをもとに回答を生成していましたが、最新情報や社内データの反映には限界がありました。
RAGでは、外部のナレッジベースや独自データをリアルタイムで検索し、その情報をもとにAIが応答を生成するため、より正確で有用なアウトプットが期待できます。
以下でRAG(検索拡張生成)の仕組みやLLM、ファインチューニングとの違いを解説します。
RAGの仕組み
RAG(検索拡張生成)は、大規模言語モデル(LLM)が外部データを活用して回答を生成する仕組みです。具体的には、検索と生成の2ステップで回答を生成します。各ステップの役割や流れは、以下のとおりです。
| 段階 | 主な役割 | 流れ |
|---|---|---|
| 検索 | 質問に関連する情報を、データベースや外部情報源から探し出す | 1. 質問を理解 2. キーワードを抽出 3. 関連情報を検索 |
| 生成 | 検索した情報をもとに、AIが文章を生成 | 1. 検索結果を整理 2. 質問に沿った回答文を作成 |
検索で情報を取得し、拡張で文脈を補い、生成で自然な文章にまとめる一連の流れにより、最新かつ正確な情報にもとづく回答が可能になります。
RAGとLLMとの違い
LLM(大規模言語モデル)は、大量のテキストデータを学習し、人間のように自然な文章を生成できるAIです。質問応答や文章作成など、幅広い分野で活用されています。
LLM単体は学習データの知識に依存するため、更新日以降の情報には対応できず、誤った回答をする「ハルシネーション」が起きやすいことが問題でした。
一方で、RAGは外部の信頼できるデータを検索して利用するため、情報の鮮度と正確性が向上します。たとえば、最新の税制改正や社内規定を反映した正確な回答が可能になり、企業利用において信頼性の高い活用が可能です。
RAGとファインチューニングの違い
RAG(検索拡張生成)とファインチューニングは、生成AIの性能を高めるための異なるアプローチです。
RAGは外部データをリアルタイムで検索・参照し、最新情報を回答に反映させるのが特徴。一方、ファインチューニングは特定のデータを使ってモデル自体を再学習させ、専門知識や表現を定着させます。
そのため、最新情報が必要な場合はRAG、特定業務の標準化や専門文書生成にはファインチューニングが適しています。
RAGが注目される背景
本章では、RAG(検索拡張生成)が注目される背景について紹介します。
- 企業のナレッジマネジメント需要の高まり
- AI活用における信頼性とコスト効率の要求
順番に解説します。
企業のナレッジマネジメント需要の高まり
企業には社内Wikiやマニュアル、報告書などの膨大な情報が蓄積されています。しかし、これらを十分に活用できていないケースは少なくありません。従来の検索システムはキーワード一致が中心であり、言葉の意味や文脈を考慮した検索が難しいため、必要な情報にたどり着くまでに時間がかかるという課題がありました。
RAGは自然な文章による質問に対し、意味的に関連する情報を抽出し、その出典(引用元)を明示しながら提示できるのが特徴です。これにより、情報の信頼性や根拠を確認しながら活用できるようになるため、「どの資料を参考にすべきか」と迷う場面が減少しました。
結果、属人化の解消や情報共有の効率化が進み、ナレッジマネジメントの質も向上。DX推進の一環として、RAGの導入はさらに加速しています。
AI活用における信頼性とコスト効率の要求
AI導入では、性能だけでなく透明性や運用コストも重要な判断基準です。RAGは回答に使用した情報源を明示できるため、検証や監査がしやすく信頼性が高いのが特徴です。
さらに、ファインチューニングが高額な再訓練をともなうのに対し、RAGはデータベースの更新のみで運用できるためコスト効率にも優れています。とくに法務や金融など、説明責任が重視される分野で評価されています。
RAGを活用するメリット
RAG(検索拡張生成)を活用するメリットは、以下の4つです。
- 回答精度の向上が期待できる
- ハルシネーションの抑制に寄与できる
- 最新の情報を得られる
- コスト効率が改善する
メリットを理解したうえで、RAGの導入を検討してください。
回答精度の向上が期待できる
RAGは外部の信頼できる情報を検索し、その結果をコンテキスト(回答に必要な情報)としてLLMに渡すことで、正確で文脈に沿った回答が生成可能です。
従来のLLM単体では、過去の学習データにもとづいて応答するため、情報の鮮度や専門性に限界がありました。しかしRAGを活用すれば、最新情報や専門的な文書を参照できるため、回答の精度が向上します。
たとえばカストマーサポートでは、製品マニュアルやFAQをもとに一貫性のある対応が可能です。社内業務では社内規定や手順書にもとづいた正確な案内が行えるなど、さまざまな業務で品質向上に貢献しています。
ハルシネーションを抑制できる
RAGは、信頼性の高い情報源をもとに回答を生成するため、事実と異なる内容(ハルシネーション)の発生を抑えられます。
従来のLLMは、過去の学習データをもとに統計的な推測で文章を構築するため、誤った情報が含まれる可能性がありました。一方、RAGでは検索によって得た情報を根拠として提示しながら回答を行うため、正確性と一貫性が向上します。
結果、誤情報のリスクを軽減でき、業務におけるAI活用の信頼性向上にもつながっています。ただし、検索対象データが不正確な場合は、誤った回答が生成される可能性がある点には注意が必要です。
最新の情報を得られる
RAGはモデルを再学習させる必要がなく、外部データベースを更新するだけで最新情報を反映できるのが特徴です。ニュース・製品仕様・社内規定の改定など、更新が必要な情報も日次やリアルタイムで反映できます。
たとえば、企業では新製品のマニュアルや最新の社内ルールを追加することで、その情報にもとづいた回答を即座に提供可能です。これにより、ユーザーや社員は常に最新かつ正確な情報にアクセスでき、誤情報による混乱や業務の遅延を防ぐだけでなく、情報の信頼性向上にもつながります。
RAGは、法改正や規定変更の多い金融・保険業界、トレンドの移り変わりが激しいメディア・IT業界などでとくに効果を発揮します。
コスト効率が改善する
ファインチューニングではモデル全体を再訓練するため、高額なGPUリソースや長期間の作業が必要です。一方、RAGは既存モデルをそのまま利用し、データベースの更新だけで対応できるため、初期費用・運用費用の双方を抑えられます。
さらにキャッシュや検索最適化を組み合わせれば、応答速度も確保しつつ運用コストを最小限に抑えられ、企業の持続的なAI活用を支援します。
RAGの活用事例
RAG(検索拡張生成)の活用事例について紹介します。
- 社内問い合わせ対応システム
- カストマーサポート業務
- コンテンツ作成支援
- データ分析と市場調査
以下で紹介する事例を、自社に取り入れる際の参考にしてください。
社内問い合わせ対応システム
RAGは社内規定やマニュアル、FAQを統合したデータベースを活用し、従業員からの問い合わせに対して引用元を明示した正確な回答を自動で提供できます。
企業内の問い合わせは、人事や総務など特定の部門に集中する傾向があります。とくに休暇申請や経費精算など、定型的で繰り返し発生する質問が多く、担当者の負担増や業務効率の低下が課題となっていました。
RAGを導入することで、こうした問い合わせにも即時対応が可能となり、担当者の対応工数を削減できます。また、従業員が目的のマニュアルやドキュメントを自分で探す時間も削減でき、社内全体の業務効率化につながります。
カストマーサポート業務
カストマーサポートでは、製品マニュアルや過去の対応履歴を検索し、高品質な回答を安定して提供できます。従来は担当者の経験やスキルによって回答の質にバラツキがありましたが、RAGを活用することで、誰が対応しても一定の水準を保った応答が可能です。
AIチャットボットと組み合わせれば、よくある質問への自動応答が可能となり、オペレーターへの問い合わせ件数を削減できます。人手不足の解消や24時間対応が実現し、対応時間の短縮や顧客満足度の向上だけでなく、サポート品質の安定とコスト削減にもつながります。
コンテンツ作成支援
RAGは社内資料や過去のレポートを活用し、提案書や研修資料、業務マニュアルなどの作成を支援します。必要な情報を自動で収集・整理できるため、資料作成にかかる時間を削減可能です。
最新データや成功事例も即座に参照できるため、内容の正確性や説得力が高まり、組織全体の文書作成効率向上に役立ちます。
データ分析と市場調査
RAGは分散して存在する市場データや競合情報、社内記録を統合し、自然言語での質問に対して根拠のある分析結果を生成します。これまで専門スタッフが長時間かけて行っていた分析も、短時間で実施できるようになります。
たとえば、競合比較・顧客動向の把握・新規市場の特定などを効率化し、レポート作成の時間も短縮可能です。RAGを活用することで、データ分析や市場調査の精度とスピードを両立し、迅速かつ的確な意思決定を支援します。
RAG実装時に利用される主なフレームワーク
RAGを実装する際に利用される、主なフレームワークを3つ紹介します。
- LangChain
- LlamaIndex
- Haystack
自社に適したフレームワークで、実装を進めることが大切です。
LangChain
LangChainは、RAG構築で広く利用されるフレームワークです。大規模言語モデルとベクトルデータベース、検索エンジンなどの外部ツールを柔軟に連携できます。
また、多様なコネクタやテンプレートが用意されており、FAQボットから高度な業務支援システムまで幅広く対応可能です。PythonやJavaScriptに対応しており、開発段階から本番運用まで一貫した実装がしやすいのが特徴です。
顧客サポート用のFAQチャットボットや自社ナレッジベース検索、営業資料の自動検索システムなどに活用されています。
LlamaIndex
LlamaIndexは、文書やデータを効率よく大規模言語モデルに活用させるためのフレームワークです。Google DriveやNotion、データベースなど多様なデータソースを簡単に統合できます。
インデックス化と検索機能が強力で、少ない設定でもRAGを実装可能です。とくに、シンプルな構成や小規模〜中規模のプロジェクトでの活用に適しています。
社内マニュアルの自動検索ツール、プロジェクト管理ツールとの連携によるQ&A機能、社内研修向けAIアシスタントなどに活用されています。
Haystack
Haystackは、ドイツのDeepset社が開発したオープンソースのRAG(検索拡張生成)フレームワークです。堅牢な検索機能を備えており、ElasticsearchやFAISSなど複数の検索エンジンを柔軟に組み合わせられます。
また、検索から回答生成までの処理フローを自由に設計できるため、大規模で安定性を重視する企業にも適しており、高精度かつ安定したRAGシステムの構築が可能です。
法務部門における契約書検索システムや金融機関での規制文書検索、製造業における技術マニュアルの自動参照システムなどに活用されています。
RAGの実装手順
RAG(検索拡張生成)の実装手順について紹介します。
- ドキュメントを準備する
- ベクトル化してデータベースに登録する
- ユーザーの質問を検索
- 生成モデルに渡して回答
以下で解説する手順に沿って、実装を進めてください。
① ドキュメントを準備する
RAGの実装は、まず使用するドキュメントの収集と整理から始まります。社内Wiki・マニュアル・報告書などの情報を集め、不要な記号や余分な形式を取り除いて整形します。PDFなどの形式は構造が崩れないよう適切に変換し、機械が読み取りやすい状態にしておくことが重要です。
また、情報収集の際は古いバージョンの文書や、重複した内容が混ざらないようにしてください。これらが含まれると、検索結果として誤った情報が提示される可能性があります。常に最新かつ正確な情報を選別し、改訂履歴も整理することが重要です。
整えた文書は、意味のまとまりごとに分割(チャンク化)し、更新日や担当部署などのメタデータを付与します。以上の前処理によって検索精度が向上し、必要な情報を迅速に取得できる環境が整います。
② ベクトル化してデータベースに登録する
整理した文書は、そのままではAIによる検索に適していないため、「埋め込みモデル(エンベディングモデル)」を使って数値データに変換します。これは、文章の意味をAIが理解しやすい数値の並び(ベクトル)に置き換える処理です。
変換されたベクトルは、「ベクトルデータベース」と呼ばれる専用のデータベースに保存されます。データベースでは単なるキーワード一致ではなく、意味的に類似した文章も検索できるのが特徴です。
使用する言語や目的に応じて、埋め込みモデルを選ぶことを推奨します。日本語が中心であれば日本語特化型、多言語対応が必要であれば汎用型モデルがおすすめです。
また、検索を高速化するため、データベースに「インデックス(検索の目次)」を作成しておくと、質問に関連する情報を短時間で探し出せます。
③ ユーザーの質問を検索
まず、ユーザーの質問を「数値ベクトル」と呼ばれる、AIが理解しやすい数値の形式に変換します。文章の意味を保持したまま、AIが検索に利用できるようにするための処理です。
次に、変換したベクトルをもとに、意味の近い情報を探すため、ベクトルデータベースという「意味で検索できる専用の引き出し」から情報を検索します。「ベクトル検索」と呼ばれ、キーワードが完全に一致しなくても文脈的に近い内容を見つけられるのが特徴です。
さらに、日付や部署などの条件を加えて絞り込むことで、必要な情報に素早くアクセスできます。こうして選ばれた文書は、生成AIが使いやすい形式に整えられ、最終的な回答生成に活用されます。
④ 生成モデルに渡して回答
検索によって取得した文書を生成モデルに渡し、最終的な回答を作成します。この際、プロンプト内で「与えられた情報のみを使って回答する」と明示することで、事実にもとづかない内容の生成(ハルシネーション)を防げます。
誤った情報にもとづいて意思決定が行われた場合、業務上のミスや顧客対応の失敗につながり、大きな損失や企業の信頼失墜を招く恐れがあるためです。とくにビジネスの現場では、「正確な情報にもとづいた判断」が何よりも重要です。
そのため、回答には必ず引用元を明示し、利用者が根拠を確認できる状態にしておく必要があります。
また、導入後は回答の品質評価を定期的に実施し、生成精度の安定性と信頼性を継続的に維持することも重要です。
RAG導入時の注意点
RAG導入時の注意点について紹介します。
- 検索データベースの品質が回答に影響する
- 情報漏えいのリスクがある
- 回答速度が遅くなる可能性がある
以下で解説する注意点に気をつけながら導入を進めることで、失敗のリスクを低減できます。
検索データベースの品質が回答に影響する
RAGの精度は、検索対象となるデータベースの品質に大きく左右されます。
誤った情報や古い規定が残っていると、そのまま回答に反映される恐れがあります。とくに社内規定の旧版と新版が混在している場合、矛盾した回答が生成されるリスクに注意が必要です。
定期的なデータ更新や重複削除、改訂履歴の管理を行い、常に最新かつ正確な情報が維持される状態を保つことが重要です。また、日付やカテゴリーなどの付加情報を追加したり、AIを活用して情報にタグ付けをして、検索しやすくするように対策することを推奨します。
情報漏えいのリスクがある
RAGは自然言語で質問できるため、適切なアクセス制御を行わないと、権限外の情報にアクセスされる恐れがあります。たとえば、役員報酬や顧客情報など、機密情報が誤って参照されないよう、ユーザー権限の設定や情報のマスキングを行います。
外部APIの利用時にはデータ送信先の管理や暗号化を徹底し、情報セキュリティーを確保するなどの対策が必要です。
回答速度が遅くなる可能性がある
RAGは、「検索」と「生成」の2つの処理を組み合わせて回答を導き出すため、LLM単体で直接応答する場合に比べて処理時間が長くなる傾向があります。とくに大規模なデータベースを対象としたり、高精度な検索処理を行う場合には、応答速度が遅延するケースもあります。
回答速度を改善する主な方法は、以下のとおりです。
- よく使う質問の結果をキャッシュする
- 検索パラメーター(件数、フィルター、スコア閾値など)を調整する
- 用途に合わせて軽量なモデルを併用する
RAGを導入する際には、処理速度を最適化する工夫も大切です。
まとめ
RAG(検索拡張生成)は、LLMの弱点である最新情報へのアクセスや事実誤認を補い、正確かつ信頼性の高い回答を実現する技術です。社内問い合わせ対応やカストマーサポート、コンテンツ作成など幅広い分野で活用が進み、業務効率化と品質向上に貢献しています。
実装には、文書準備からベクトル化・検索・生成の手順が必要で、データ品質とセキュリティー管理が成功のポイントです。導入後もデータ更新や精度評価を継続し、安定した運用体制を整えることで、企業のAI活用を長期的に支える仕組みとして効果を発揮します。
富士フイルムビジネスイノベーションでは、生成AIやRAGを活用したDX実現をサポートするソリューションを提供しています。DX推進にお悩みの際は、ぜひ気軽にお問い合わせください。
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