犬の「がん検診」を検討しているご家族さまへ
犬のがんは、平均寿命の延長に合わせて増加傾向にあり、10歳以上の犬の死因の45%を占めると報告されています。日本獣医がん学会副会長を務めるファミリー動物病院の杉山大樹院長に、動物のがん検診の重要性やその内容、ご家族さまが自宅でできる観察のポイントなどをうかがいました。
そもそも犬もがんになるのですか？ 人間との違いはありますか？
犬もがんになるだけでなく、人間よりもがんの発生率が高いとされています。また、レトリーバー系の犬は血管肉腫や骨肉腫等になりやすかったり、テリア系は膀胱の腫瘍が多かったりと犬種によってなりやすいがんがあって、これを「犬種特性」と言います。このように、遺伝性・家族性のがんが多いです。また、人間の場合、高齢でがんになると進行が遅いと言われていますが、犬の場合は進行が遅くなることはないようです。
がん検診はどのくらいの頻度で受けるべきですか？
7～8歳を超えてきたら、総合的な健康診断を年2回は受けた方が良いと思います。がん検診は、そうした健康診断の中の1つと考えていただいて、健康診断で問診、視触診・聴診、血液検査、尿検査、糞便検査、レントゲン・超音波検査等をしっかりと行った上で、かかりつけの獣医師と相談しながら、動物の年齢等に応じてがんの早期発見に重きを置いていくことが大切です。
がん検診では、どんな検査をするのですか？
動物のがん検診では「これをしなければいけない」という決まりはありません。その中で、体表部のがんについては目で見ること（視診）、手で触れること（触診）が有効ですし、体内はレントゲンや超音波が有効です。加えて、最近ではNu.Q® Vet Cancer Testのように血液でがんを検出する検査も出てきています。これらの検査について、獣医師に相談しながら動物に与えるダメージや検査の精度、費用等をご判断いただいた上で、選択していくことが大切になります。
がん検診を受ける際、飼い主が知っておくべきことはありますか？
まずは、ご自身が飼っている犬には、どんな病気が多いのかを知っていただきたいですね。また、がん検診は、がんを100%の確率で見つけられる検査ではないので、「検診が大丈夫だから100%大丈夫」と思って安心せずに、日常のスキンシップの中で変化を見逃さないようにすることも大切です。
がんの早期発見のために、自宅でできる観察のポイントはありますか？
「天然孔周囲」といって、口、耳、鼻、肛門、陰部の周りは特に病気が発生しやすい場所なので注意が必要です。がんは、血液がんを除いて、基本的には「しこり」ができます。そのため、普段から触っていれば変化に気づける可能性が高くなるので、日頃のスキンシップを大切にしてください。
がんは予防できますか？
残念ながら、基本的には予防できません。多くのがんは「出る子には出る」としか言えないので、だからこそしっかりと検診を受けて、できるだけ早期に発見してあげてください。
ただ、乳腺腫瘍については、若齢時に避妊手術をすることでほぼ予防できます。
がんが見つかるのが怖くて検診に前向きになれません。
そのお気持ちは、もちろん分かります。「現実を知ってしまうのが怖い」という部分もあると思いますが、やはり多くのがんは発見が遅くなると、治療後の経過やその見通しが悪くなってしまいます。逆に言うと、早期発見・早期治療が健康で長生きするための最善策なので、大切な犬のためにも、獣医師と相談の上でがん検診の受診を検討してみてください。
万が一、犬ががんと診断された場合、その後の流れは？
がんと診断された場合、まずはそのがんの全体像を把握することが大事になるので、各種の検査を受けていただいて、がんの広がりや転移の有無などの「進行度」を確認します。次に、その子にどんな症状が出ているか、他に治療の妨げになるような異常がないか、などの「全身状態」を確認します。その上で、治療の相談に入っていきます。
犬のがんの治療は、人間と同じく「手術」、「放射線治療」、「薬物療法」がメインで、最近は「免疫療法」も一般的になりつつあります。これらの治療を1つだけ行うのではなく、「集学的治療」と言って複数の方法を組み合わせて治療していくのが基本で、その方針を早期に決めていくことが重要になります。
がん検診を検討しているご家族さまへのメッセージ
がんと診断されるのは怖いことだと思いますが、どのようながんであっても早期発見・早期治療は必ずその子にとってプラスに働くので、ぜひ検診の受診を検討してみてください。
ファミリー動物病院
〒263-0051
千葉市稲毛区園生町955-16
ファミリー動物病院 院長
日本獣医がん学会副会長・同認定委員会副委員長
獣医腫瘍科認定医Ⅰ種
杉山 大樹 先生