愛犬が「がん」と診断されたら
動物の平均寿命の延長に合わせて増加傾向にある「がん」。もし大切な愛犬が「がん」と診断されたら、どうすれば良いのでしょうか?
日本獣医がん学会副会長を務めるファミリー動物病院の杉山大樹院長に、犬のがんと向き合うための心構えや、治療中の対応方法、セカンドオピニオンを求める場合のポイントなどをうかがいました。
犬が「がん」と診断されました。不安に向き合うためのアドバイスをいただけますか?
まずは、信頼できる獣医師に出会えているかが大事だと思います。出会えているのであれば、その先生に素直な思いを伝えてください。多くの獣医師は、自分がやりたい治療を押し付けるわけではなく、ご家族さまと相談の上で、そのご家族にとって何がベストかを一緒に考えていきたいと思っています。例えば、費用面で限界があるというのは言いづらいことかもしれませんが、相談していただければ、その費用の範囲でベストの対応が提案できます。費用面だけでなく、抗がん剤の副作用や手術後の変化、通院回数などでも、何か不安に思っていることがあれば、ぜひ獣医師に相談してみてください。
治療に前向きになれたご家族さまのエピソードがあれば教えていただけますか?
一つは、脚を1本切る「断脚」が必要だったケースです。やはりご家族さまにとって、犬の脚を1本切除するという大きな決断で、当然ながら断脚した後に歩けるのかという不安もあると思います。でも、その子は、今は脚が痛くて歩くのもままならない状態で、その脚を切除さえすれば歩けるようになることが期待できます。健康な脚が4本ある状態から3本になるのはかわいそうかもしれませんが、痛みの原因になっている脚を1本切除して3本の脚で健康に暮らせるなら、その方が犬はラクだと思います。
もう一つ、下顎にがんができて、下顎の片側をすべて切除する必要があったケースでは、その後食事ができなくなるんじゃないかと不安になりますよね。でも今、実際に満足に食事ができず、患部から出血して化膿もしている状態です。その下顎を切除すれば、痛みや異臭から解放されて、食べこぼしたりはするものの、快適に暮らせます。
私は、これらのケースのようなかたちで、その子が現状でどうなっていて、治療をするとどれだけ良くなるのかをご家族さまにしっかりとわかってもらえるように説明をする努力をしています。そうすると治療に前向きになってもらえることが多いですね。
がんと診断された場合、専門医にセカンドオピニオンを求めるべきでしょうか?
まずは、かかりつけの先生にしっかり相談してください。そのかかりつけの先生が提示する内容で満足しているのであれば、その先生のもとで十分だと思いますが、満足されないのであれば、セカンドオピニオンを求めた方が良いと思います。
ただ、かかりつけの先生にセカンドオピニオンの相談をした時に、やはり気を悪くされる先生もいると思います。私は、その相談で気を悪くするような先生のところで診療を受け続けるのは、あまりお勧めしません。セカンドオピニオンを求めた際にも親身になってくれるような、ご家族さまの希望に寄り添った診療を行う獣医師にあらためて相談した方が良いと思います。
セカンドオピニオンを求める場合、どのような専門病院を選ぶべきですか?
かかりつけの先生に紹介をしてもらうのも良いですし、ご自身で探されるのであれば日本獣医がん学会が認定するI種認定医・II種認定医の中から選ぶというのも1つの方法だと思います。なお、I種認定医・II種認定医は、同学会のWebサイトでリストが公開されています。
動物にも「緩和ケア」はありますか?
がんの治療には、手術や抗がん剤などでがん細胞を減らす「根本治療」と、がんによって起こる吐き気や痛みなどを緩和する「対症的治療」があります。この2つはどちらも重要で不可欠なものです。また、年齢やがんの進行度、費用面などの理由から本質的な治療を行わない場合で、対症的治療だけを行う場合もあります。このように根本治療を断念して対症的治療を行っている状態を「緩和ケア」と言って差し支えないと思います。こうした緩和ケアもご家族さまのご希望次第でさまざまな対応ができるので、獣医師に相談してみてください。
治療中の犬に対して、家庭で治療以外でできることはありますか?
犬は体調不良を隠す性質があるので、がんになって体調が悪くなって、治療による負担がかかっている状態では、いつも以上に注意深く観察して、細かな異常に気づいてあげることが大切です。また日々の暮らしの楽しみを大事にしてあげてください。例えば、食事はバランスが大切ですが、余命が少ない場合は、その子が大好きなおいしいものを食べさせてあげて、質よりも楽しみを優先させてあげると良いでしょう。
犬が「がん」と診断されたご家族さまへのメッセージ
治療ができる、できないにかかわらず、月並みな言葉になりますが、1日1日を大事にしてください。犬にとって「1日1日大事にする」というのは、できるだけ一緒にいてあげるということになります。今だけは他の楽しみを少し控えて、その子に残された時間がどれだけあるのかを考えて、できる限り一緒に過ごしてあげてください。
ファミリー動物病院
〒263-0051
千葉市稲毛区園生町955-16

ファミリー動物病院 院長
日本獣医がん学会副会長・同認定委員会副委員長
獣医腫瘍科認定医Ⅰ種
杉山 大樹 先生













