2025.09.08
RAGとLLMの違いとは?
メリット・デメリットや併用する活用事例まで紹介
膨大な社内資料や最新情報のなかから、必要な情報を瞬時に引き出す。そのうえで、正確かつ根拠のある回答を自動生成する仕組みとして注目されているのが、RAG(検索拡張生成)とLLM(大規模言語モデル)の組み合わせです。
マニュアル作成やFAQ対応、データ分析レポートの自動化にも活用でき、人手と時間がかかっていた業務を効率化できます。
本記事では、RAGとLLMの違いやそれぞれの役割、活用メリットから導入時の注意点まで、企業での活用に直結する実践的なポイントを解説します。
RAGとLLMの違いとは
RAGとLLM、それぞれの定義や役割について解説します。
RAGとは
RAG(検索拡張生成)は、外部データベースから検索した情報をもとに、AIが回答を生成する仕組みです。従来の言語モデルであるLLM(大規模言語モデル)は、学習時点までの知識に限定されるため、最新情報や社内ルールには対応できませんでした。
そこでRAGでは、ユーザーからの質問に対して、社内マニュアルや規定などが保存されているデータのなかから関連文書を自動で探します。そのうえで、見つけた文書をAIに渡して回答を作るため、最新かつ正確な情報にもとづいた回答が可能です。
企業内の情報やマニュアルを活用しながら、AIによる自動応答を実現できるのがRAGの特徴です。
LLMとは
LLM(大規模言語モデル)は、インターネット上の膨大なテキストを学習して、人間のように自然な文章を生成できるAIの一種です。代表的な例にはChatGPTやClaude、Geminiなどがあります。
LLMの特徴は、学習データをもとに質問に対する回答の生成をはじめ、文書の要約や翻訳、アイデア出しなど幅広い業務に対応できる柔軟さです。報告書のたたき台を作成したり会議の議事録を整理したり、マーケティング文案の草案を出したりと、さまざまな業務の効率化に活用されています。
RAGがLLMの弱点を補完する仕組み
人間の文章を自然に生成するのが得意なLLMですが、知識は学習時点で止まっており、それ以降の情報や社内固有のデータにはアクセスできません。そこで、LLMが必要とする最新情報や特定データを外部から検索し、抽出して提供するのがRAGの役割です。
社内FAQで「最新の出張申請ルールを教えて」と質問された場合、RAGが最新の社内マニュアルから該当箇所を探し、LLMが要約して自然な文章に整えます。
2つの技術を組み合わせることにより、LLM単体では難しかった最新かつ正確な回答を効率的に提供でき、利用者は必要な情報をスピーディーに得られるようになります。
RAGのメリット・デメリット
RAGを活用するメリット・デメリットを解説します。
メリット・デメリットを正しく理解することで、自社の課題に合った効果的な活用方法や導入判断がしやすくなります。
メリット
RAGの強みは、LLMの弱点である古い知識しか使えないことや、もっともらしい誤情報(ハルシネーション)を生成してしまうリスクを軽減できる点です。
RAGでは、似ている情報を見つけ出す検索技術(ベクトルデータベース)を使い、ユーザーの質問に関連する最新の文書を探し出してLLMに渡します。これにより、新しい情報にもとづいた正確な回答ができるようになります。
さらに、どの文書をもとに答えたのかが明示できるため「なぜこの答えになったのか」が明らかになり、根拠のある回答が可能です。
デメリット
RAGは構築や運用が、やや難しい点がデメリットです。LLMだけを使う場合と比べて、検索エンジンやベクトルデータベース、埋め込みモデル(文章を検索しやすく変換する仕組み)など、複数の仕組みを組み合わせる必要があります。
また、回答生成の前に検索ステップが挟まるため、処理時間が長くなる傾向があります。
さらに、参照する文書の品質が応答の正確性に直結するため、信頼性の高い情報ソースを整備し、定期的に更新・メンテナンスを行う体制が不可欠です。
LLMのメリット・デメリット
続いて、LLMを活用するメリット・デメリットを解説します。
メリット・デメリットを把握しておくことで、活用の可能性を広げながらリスクを最小限に抑えた運用が可能になります。
メリット
LLMのメリットは柔軟な文章生成能力と、追加の情報がなくても回答できる汎用性の高さです。メール文の下書きや企画書のたたき台作成、要約や言い換えなど幅広いタスクに活用できます。
学習済みの知識だけで対応できる質問であれば、素早く自然な文章での回答が可能です。
また、RAGのように複雑な仕組みの導入不要ですぐに活用できる手軽さも、導入のハードルを下げるポイントになっています。
デメリット
LLMの主な課題は、学習時点以降の最新情報に対応できないことです。たとえば、2023年までのデータで学習されたモデルは、2024年以降に登場した新製品や法改正などの情報を知りません。そのため、時事性の高いトピックに関しては誤った情報を出力する可能性があります。
さらに、手元に正確な情報がない場合でも、それらしく見える誤情報を生成してしまう「ハルシネーション」と呼ばれる現象も課題のひとつです。この現象は、回答の一貫性や流暢さを保ちながらも、事実と異なる内容を提示してしまうことがあるため、特に注意が必要です。
以上のリスクがあるため、情報の正確性が求められる場面では、LLM単体での活用に限界があります。そのようなケースでは、外部の信頼できる情報を参照して回答を補強できるRAGのような仕組みを組み合わせることで、精度と信頼性を高められます。
RAGとLLMを活用するメリット
RAGとLLMを組み合わせて活用するメリットを解説します。
組み合わせて活用することで、情報の正確性や信頼性を高めるだけでなく、自社独自の情報活用や最新情報への対応も可能になります。
より正確で信頼性の高い情報を出力
RAGは質問に関連する文書を検索し、その情報をもとにLLM(大規模言語モデル)が回答を生成する仕組みです。LLMが事前に検索された文書のみを根拠に回答するよう制御されるため、想像にもとづく誤った情報(ハルシネーション)が発生しにくくなります。
たとえば、「今年の介護保険料率は?」という質問に対して、RAGが厚生労働省の最新資料を自動で検索・取得し、その内容をLLMがわかりやすく要約します。出典を提示してもらえるため、社内の報告書や外部提出資料でも安心して活用可能です。
RAGを活用することで、正確かつ根拠のある情報をスピーディーに入手できるため、業務効率の向上や意思決定の迅速化が期待できます。また、誤情報の拡散による信用失墜リスクを低減し、企業としての信頼性を維持する手段としても有効です。
独自情報をもとにした回答が可能
RAGでは、就業規則・業務マニュアル・FAQなどの企業独自の社内資料を検索対象に組み込めます。そのため、LLM単体では対応が難しい企業固有の質問や専門的な内容にも、正確に回答してもらえます。結果、必要な情報を探す時間や、資料を一から作成・整備する手間の削減が可能です。
また、業務に必要な情報を誰でも即座に確認できる環境が整うことで、「特定の担当者しか知らない」といった属人的な状態を回避できます。情報の伝達や引き継ぎもスムースになり、業務の標準化やナレッジの全社共有が進むことで、担当者ごとの対応のバラツキやミスの防止にもつながります。
最新情報を反映できる
LLMは学習時点までの知識しか保持しておらず、新たな情報には自動で対応できません。モデル自体を再学習させて最新情報を取り込むことも可能ですが、膨大な時間とコストをともなう作業です。
一方、RAGを組み合わせることで、最新の外部情報を検索して回答への反映が可能になります。法改正・経済動向・最新の製品情報など、インターネット上で更新されるデータは、外部の情報提供サービスやWebスクレイピングの仕組みを通じて、自動的に取得・更新できます。
RAGの検索対象となるデータベースを最新の状態に保てるため、変化の激しい業界やグローバル市場でも、リアルタイムの情報をもとに適切な意思決定が可能です。
RAGとLLMを活用する際の注意点
RAGとLLMを組み合わせたシステムは強力なツールですが、導入・運用する際には以下の注意点があります。
- 情報の正確性とハルシネーションへの対応
- データソースの整備と更新体制の構築
- ユーザーの信頼を損なわない運用設計
- プライバシー保護・アクセス権管理も重要
以下で解説する注意点を理解して、起こり得るリスクへの対策も万全にしておくことが大切です。
情報の正確性とハルシネーションへの対応
AIが実際とは異なる内容を出力してしまう「ハルシネーション」は、ビジネスにおいて深刻なリスクになり得ます。誤った情報の提供は、企業の信用や取引先との信頼関係を損なう原因です。
ハルシネーションは、主に古い情報や不正確なデータをもとにAIが回答を生成することから発生します。RAGを活用することで、参照元となる資料を明示しながら回答を生成できるため、生成された文章の透明性が高まります。
ただし、参照する文書自体が誤っている場合や古い情報である場合、RAGを用いても正確な回答は得られません。そのため、ハルシネーションを低減するには、技術だけでなく運用面での工夫も重要です。
具体的には、信頼性が高く最新の情報を含む文書データを整備し、「この資料のなかだけを参照して回答して」とAIに指示するのが有効です。生成される回答の正確性を高め、誤情報によるリスクを最小限に抑えられます。
データソースの整備と更新体制の構築
古い社内規定や誤った手順書を参照したままでは、RAGを使っても誤回答が発生し、社内業務の混乱や作業ミスにつながります。こうした社内的リスクを低減するには、参照するデータソースの整備と更新体制が欠かせません。
まず重要なのは、文書の定期的な見直しと最新化です。規定やマニュアル、FAQなどの情報は、内容が古くならないよう継続的に更新する必要があります。また、長文の文書をそのまま取り込むのではなく、意味単位で分割して検索しやすい構造に整備するのも、RAGの検索精度を高めるポイントです。
加えて、検索結果が実際に業務で役立っているか、ユーザーにとって使いやすいシステムになっているかを定期的に検証し、改善を重ねることも重要です。これにより、より正確で実用的なナレッジ検索基盤を構築できます。
ユーザーの信頼を損なわない運用設計
RAGとLLMを業務に導入するうえで、ユーザーの信頼をいかに維持できるかは、継続的な活用を左右するポイントです。
誤った情報を提示したり、不明瞭な回答を返してしまうと「このAIは信用できない」と判断され、現場での利用が進まなくなるリスクがあります。結果として、AI導入による業務効率化の効果を得られず、高額な初期投資が無駄になる可能性もあります。
ユーザーからの信頼を保つためには、回答の根拠を出典リンクや正確性の表示で明示し、確認できる仕組みが重要です。
また、システム導入初期は影響範囲の小さな業務から始め、実際の使用状況に応じて改善を重ねながら段階的に拡大していくことを推奨します。ユーザーからのフィードバックを活用した改善サイクルを設けることで、信頼と利便性の両立が可能になります。
プライバシー保護・アクセス権管理も重要
RAGやLLMを業務で活用する際は、精度や利便性だけでなく、プライバシー保護やアクセス権管理も欠かせません。
プライバシー保護やアクセス制限が不十分だと、意図せぬ情報漏えいやコンプライアンス違反につながる恐れがあります。その結果、信用失墜や取引停止、法的責任の追及など、企業活動そのものに影響を及ぼしかねません。
リスクを低減するためには、社内文書や顧客データを学習や検索対象に組み込む際に、権限のない人が閲覧できないようにアクセス権を制御する方法が有効です。特に個人情報や機密情報を扱う際は、暗号化やログ管理を組み合わせて、誰がどの情報を利用できるのかを明確にし、安全な運用体制を整えることが重要です。
RAGとLLMの活用事例
RAGとLLMを組み合わせた技術は、さまざまな業務シーンで活用されています。
ここでは、実際に導入が進んでいる代表的な4つの活用事例を紹介します。
- 社内FAQ自動応答システム
- 技術文書生成支援
- カストマーサポート強化
- データ分析レポート作成
自社でRAGとLLMを導入する際の、参考にしてください。
社内FAQ自動応答システム
従来の社内FAQシステムは、あらかじめ登録された質問と回答のペアにもとづいて、結果を表示します。そのため、表現の揺れや想定外の質問には対応しづらく、最新情報への更新も手作業でのメンテナンスが必要でした。
こうした課題を解決するのが、RAGとLLMを組み合わせた社内FAQ自動応答システムです。
従業員からの質問に対し、RAGが社内マニュアルや規定などの最新データを検索し、LLMが文脈に沿った自然な回答を生成します。膨大な社内文書・マニュアルを検索対象とするため、事前に用意されていない質問にも対応できます。
技術文書の生成支援
RAGとLLMを組み合わせたシステムは、ソフトウェア開発やシステム設計といった技術分野においても活用が急速に広がっています。
開発マニュアルや仕様書、設計ドキュメントなどの技術文書を作成する場面で有効です。過去の社内資料や業務ガイドライン、ナレッジベースをRAGが検索し、その情報をもとにLLMが新しい文書を自動で生成します。
資料作成にかかる時間や手間を削減できるだけでなく、内容のヌケモレや表現のバラツキも防げるため、文書の品質向上にもつながります。
カストマーサポート強化
顧客対応においても、RAGとLLMの組み合わせは効果を発揮します。FAQや製品マニュアル、過去の対応履歴などをデータベースにまとめておくことで、問い合わせに対して正確な情報を自動で提示できます。
たとえば「製品Xの初期設定方法は?」「エラーYの対処法は?」といった顧客からの質問に対し、関連する資料を参照したうえで的確な回答を即時に生成可能です。
24時間対応のチャットボットとしても活用でき、人手のかかる業務の一部を自動化しながら、複雑な案件には人間が対応するなど柔軟な運用が可能になります。
データ分析レポート作成
RAGとLLMを組み合わせることで、ビジネスレポートやデータ分析結果の自動作成も可能になります。売上実績・顧客の声・過去の分析結果など、社内の各種データをもとに、LLMが読みやすく整理されたレポート形式で出力します。
たとえば、「今月の売上の傾向を教えて」と指示すれば、RAGがデータベースから関連情報を検索。前年同月との比較や売上増減の要因分析、今後に向けた改善提案などを含むレポートを自動で作成します。
結果、分析担当者は手作業でのデータ集計やレポート作成にかかる負担から解放され、より戦略的な業務や意思決定に集中できるようになります。データ活用のスピードと質を両立できる点も、RAGとLLMを活用するメリットです。
まとめ
RAGとLLMを組み合わせることで、社内のデータや業務に関する知識を活かしながら、より正確で信頼性の高い回答を実現できます。
RAGは必要な情報を探し、LLMがその内容をわかりやすく伝える役割を担うため、想像で誤ったことを答えてしまうハルシネーションのリスク低減も可能です。
導入にあたっては、正確な情報を保つための仕組みや、データの更新体制を整えることが大切です。また、AIへの指示(プロンプト)や、回答の評価方法なども事前に考えておくと、より安定した運用につながります。
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