このウェブサイトはクッキーを使用しています。このサイトを使用することにより、プライバシーポリシーに同意したことになります。

日本

ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術におけるSYNAPSE VINCENTの活用
~チーム医療の観点から、また画像作成の技術面での考察~

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

大阪市立総合医療センター
泌尿器科
石井 啓一 先生

医療技術部
中央放射線部門
伊泉 哲雄 先生

1.SYNAPSE VINCENTの術前活用にあたって

SYNAPSE VINCENT®(以下、VINCENT)は富士フイルムメディカル株式会社により2008年に3次元画像解析システム ボリュームアナライザーとして開発された技術である。各科の手術においての術前診断とシミュレーションを如何に行うかは、術者としては常に大きな課題である。この技術を活用することで、飛躍的にシミュレーションがしやすくなり、有用との報告も多い(1、2)。これは言うまでもなくCT画像が日進月歩に高性能となり、空間分解能、濃度分解能、時間分解能が大きく向上したことが背景として存在する。

シミュレーション画像作成に当たって、CT画像を素材として臓器や脈管の構築をパソコンに興す作業をする段階で、従来法では手動でトレースし抽出を行うソフトフェアであった。しかし手動では、処理する操作者の違いにより、抽出結果に不一致が生じ得る、また撮影タイミングの違いや、造影条件の違いで脈管抽出の困難さがあった。症例ごと、操作者ごとで差異が出ることは、実際の臨床の現場では、週に何例も同手術を行うこともあるため正確性に影響すると考えられる。

富士フイルムは、デジタルカメラにも搭載されている画像認識技術を応用し、各科ごとにアプリケーションを提供している。

各アプリケーションでは、描出領域、非描出領域を分けて解析し、臓器の濃淡モデル、形状モデルを描出対象の臓器の画像に当てはめることで、客観性が高く操作者間でのバラツキの少ない描出ができる。

当院泌尿器科においては、2016年4月の診療報酬改定において、長径7cm以下の腎癌に対するロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術が保険適応になったことより同手術をda Vinci Si Surgical Systemにて開始し、その術前シミュレーションとして上記の自動描出による腎の解析を行っている。

我々はシミュレーション画像構築を医師のみではなく、放射線技師と共同して実施しているので、前半はこれについて述べ、後半の4章においては伊泉哲雄氏から実際のより良質な画像構築のための工夫と苦労について記していただく。

2.腎部分切除術におけるVINCENT

腎癌に対する治療法としては、近年分子標的薬の開発が進み、治療の選択肢が増えてきていると言えるが、投薬に関しては、いわゆる進展した腎癌治療としてのみしか保険適応がないのが現状であり、比較的小径の転移のない腎癌治療としては、エビデンスが重ねられ腎部分切除術を行うことがガイドラインにて推奨されるようになった(3)。

その中で上述のごとく2016年4月から、ロボット支援腹腔鏡下腎部分切除術が保険適応となっている。腎は脈管と尿路が入り組んだ臓器であるため、腎癌は大きさだけでなく、発生部位が腎のどこか、腎表面に突出しているのか、埋没型で尿路に及んでいるのかなども腎部分切除術の成否に関わってくる。

また腎血流を遮断して、その時間を温阻血時間と呼ぶが、この時間の間に腫瘍切除と縫合を完了する必要が有る手術であり、症例によって手技の難易度の違いが大きい。従来の腹腔鏡下手術では困難であった症例でも、ロボット支援手術における高感度3D視野、多自由度鉗子といった技術を使うことで比較的難易度が低下し、温阻血時間が短縮していることが示されている。

近年手術支援ロボットが急速に普及し、腎部分切除術でロボット支援下手術の比率が増加しているだけでなく、腎癌に対する手術で腎部分切除術自体が増加している(4、5)。当科に於いても2016年7月から開始し、2017年1月までの半年間で30例施行した。全例術前シミュレーションを行って手術完了した。

3.画像処理のチーム医療としての運用

すでに本邦において、VINCENTを活用して同手術を実施している施設は多いと思われる。当院は大学病院ではない地域の基幹病院であり、泌尿器科専任のレジデントも多くないが、日々臨床診療として手術をこなすべき現実がある。約1,000床の施設でマンパワーに比して手術件数は多いため、シミュレーション画像構築を医師自ら行っていくことは短期的には可能だろうが、長期的に見ると現実的ではないと感じていた。また先述のごとく、操作者間でのバラツキの少ない描出ができるようになったことから、放射線技師による腎臓解析で手術シミュレーションとして問題を感じることは現在までない。

また手術はGrade3以上の合併症は一例もなく、患側腎機能温存され全例早期退院となっている。

実際の症例の画像を提示するが、腎動脈の分岐位置・走行の観察、腎動脈選択的遮断の場合の阻血領域のシミュレーション(腫瘍は赤色で示す)、5mmのサージカルマージン(黄色で示す)で切除した場合のくりぬきでの尿路解放の有無と残存腎体積のシミュレーションが、立体で良好な画質で取得できる(図1、2)。また処理時間は通常20分程で終了している。コメディカルとは頻繁にカンファレンスを持ち、医師と放射線技師との画像の捉え方における微妙な差異の調整を繰り返しながら行うことで医師が満足するシミュレーション画像を得ることができている。

図1.
背側分枝動脈のみ阻血した際のシミュレーション画像
(阻血は黄色部分、腫瘍は赤色)

図2.
長径5cm大腫瘍症例における、腫瘍くりぬきシミュレーション、残腎体積測定

業務としての意識も大切な点と考える。今回シミュレーション構築の導入にあたっては、VINCENTでの撮影のオーダーがあれば従来法の手動トレースによる3DCT画像の作成は技師としては行わず、VINCENTのみで行うこととすることでコメディカルとしての業務の増加はないうえに、実際は従来法より短時間で完了し業務軽減にも一躍買っている。

また小径腎癌は臨床にて少ない症例ではないので、医師が全ての画像構築を作成することとすると、実際の導入のハードルが高くなる。他院に於いても広く導入が推奨されるべきシステムと思われ、特にチーム医療を念頭になされることが合理的であり、有効であると実感している(図3.)。

図3.
コメディカルとのチーム医療
(前列右 伊泉、後列右 石井)

4.当院でのVINCENTによる手術支援画像の撮影および作成

当センターでも前述のとおり手術支援da Vinci Si Surgical Systemが導入され、2016年6月より腎部分切除術の症例に関してVINCENTを使用した腎臓解析による手術支援画像の作成を泌尿器科の石井啓一先生から依頼を受けた。現在VINCENTはスタンドアロンのマシーンが1台導入されているのみで、元々、肝胆膵外科の手術支援画像の作成および解析用として導入され、その処理は当該の担当医師が行っていた。

この項ではVINCENTを使用した腎臓解析処理について、当センターの診療放射線技師がたずさわるCT撮影から3D画像処理までを、記述する。一連の画像構築にあたっての記述のため、一症例のみにおける画像を用いて提示する。

撮影に使用しているCT装置は、2016年3月に導入されたSIEMENS社製のSOMATOM Forceで、同装置はDual Sourceシステムによる高い時間分解能と低電圧撮影がおこなえることに加え、z-Sharp Technologyによりアーチファクトを抑制し、体軸方向も高い解像度の画像を描出することが可能である。造影剤は現在240mgI~370mgIの製剤を使用し、体重あたり450mgIのヨード量を30秒固定で、注入レートが3ml/secを下回らないように注入している。撮影時相は単純撮影、動脈相、静脈相(静脈優位相)、実質相、排泄相の撮影をおこなう。撮影のプロトコールに関しては現在使用しているものを記載し、今後Dual Energy、低電圧撮影を検討し導入する予定である。

まず単純撮影は撮影管電圧120kVで横隔膜から内腸骨動脈と外腸骨動脈の分岐部までを撮影する。以後、撮影範囲はすべて同じ範囲を撮影する。

次に動脈相は腎動脈の起始部あたりの大動脈にROIを設定し、Bolus Tracking法で大動脈のCT値が50HU上昇してから6秒後に撮影をおこないpureな動脈相を撮影管電圧100kVで撮影する。(図4)
静脈相(静脈優位相)は動脈相の撮影終了から10秒後に撮影管電圧100kVで撮影する。(図5)

実質相は造影剤注入開始から120秒後に撮影管電圧90kVで撮影する。
排泄相は造影剤注入開始から300秒後に撮影管電圧70kVで撮影線量を40%低減して撮影する。

図4.動脈相

図5.静脈相

これらの撮影から取得した画像データ(単純を除く)をスライス厚0.75mm、スライス間隔を0.3mmで再構成し、ボリュームデータ用の短期サーバーを経由してVINCENT本体に転送する。画像枚数は約3600枚となる。図4、5で示すように、動脈、静脈相ともに脈管の抹消までの明瞭な撮影が実現している。後述するが、これを素材にシミュレーションのための3D画像処理を自動解析することになる。

VINCENTによる腎臓解析処理に於いては、アプリケーションが指示する流れにより作業をすすめていくため、私のようなこれまでVINCENTに触れたことのないものでも感覚的に画像処理をおこなうことが可能と考える。

腎臓解析処理で最初におこなうのが腎臓の抽出で、基本的に静脈相で抽出するが自動抽出ができない場合は別の相で抽出をおこなう。低電圧撮影をおこなった症例ではこの自動抽出が作動せず、手動で抽出することが少なからずあり、現在は100kVで撮影をおこなっている。

位置合わせ処理では各相の大きなズレがないかぎり非剛体処理による位置合わせ処理をおこなっている。

周辺臓器抽出処理では動脈、静脈、尿管、腫瘍をそれぞれ抽出する。この処理には自動抽出とそれを補うためにアプリケーションに実装しているツールを使用しておこなう。動脈は2mm程度以下の末梢では自動抽出に限界があり、手動での抽出をおこなっている。この処理をおこなうことで、より正確な解析が可能となる。

観察処理では抽出したそれぞれの臓器を必要に応じて表示方法(表示・半透明・非表示)を選択し、手術支援となる画像をシネ作成している。

当センターでは前述のとおり担当医とディスカッションをおこなった結果、次のような画像を作成している。

図6.すべての周辺臓器

すべての周辺臓器を表示し8°ごとに右回りで360°表示(図6)
すべての周辺臓器を表示し8°ごとに上回りで360°表示(図6)

図7.動脈と腫瘍のみ

動脈と腫瘍を表示し8°ごとに右回りで360°表示(図7)
動脈と腫瘍を表示し8°ごとに上回りで360°表示(図7)

作成された動画はDICOMデータではないため画像サーバーへは転送せずCD-Rに出力する。
出力画像はQuickTime PlayerがインストールされたPCであれば表示することが可能で、特別な装置等を必要としない。

  • * 3D画像はすべて前述の2D画像データにて作成

今後期待することとして、当センターではSOMATOM Forceを使用した造影検査では低管電圧撮影で造影剤の減量に取り組んでいる。他社のワークステーションも同様と思われるが、低管電圧によるCT値の変化にも追随できるような自動処理ができるようになれば今後、急速に普及されるであろう低電圧撮影でも撮影が可能となる。

静脈相(静脈優位相)では動脈の造影剤が残存しているため、画像処理が非常に煩雑になる。動脈相とのサブトラクションが可能となれば、より鮮明な静脈像がより末梢まで描出可能となり画像処理時間の短縮にもつながる。

腎臓CT検査プロトコルシート

装置 SEIMENS社 SOMATOM Force
撮影範囲 横隔膜から内腸骨動脈外腸骨動脈分岐まで
撮影条件 管電圧 70~120kv
スキャンスライス厚 0.75mm
再構成条件 再構成スライス間隔 0.3mm
再構成関数 体幹部標準
造影方法 造影剤濃度 240~370mgI
注入レート 3.0~3.5ml/sec
造影剤量 450mgl/sec
  管電圧 撮影時間 目的
単純 120kv ̶ 他臓器・石灰化評価
早期動脈相 100kv 6s前後*1 腎動脈・腫瘍・腎皮質の抽出
静脈相(静脈優位相) 100kv 10s前後*2 腎静脈
実質相 90kv 120s前後 腫瘍・腎髄質
排泄相 70kv 300s前後 腎盂・尿路の抽出

 

*1 腎動脈分岐レベルの大動脈にROIを設定しBolus Tracking法で大動脈のCT値が50HU上昇してから6s後に撮影開始
*2 早期動脈相撮影終了後から10s後に撮影開始

図8.
腫瘍をくり抜いた画像

図9.
阻血した血管の支配領域を表示した画像

図10.
推奨プリセットの全球(18分割)、垂直回転360度18分割、水平回転360度18分割で作成することにより、マウス操作でワークステーションの画像を任意回転するような表示が可能となる。

5.最後に

ロボット支援腹腔鏡下手術(図11)は、その最先端技術と、それを補助するVINCENTのような、周辺技術の向上によってますます安全に、かつ正確に行われることが予想され、これはさらなる急速な普及につながると考える。

ただ最大の弱点は、触覚がないことである。触覚がないことにより腫瘍への切り込みや脈管の損傷の可能性が高まる。そのため通常の手術よりビジュアルにリアリティが要求されるわけである。特に腎は脈管の塊のような臓器であるので、より高画質で、正確なシミュレーション画像があると術者としてはより安心感がある。特にコンソール画面内の画面分割で画像を目前に表示し、術者が自在に観察、術野から顔を上げることなく先述のQTVRなどを自在に確認しながら手術を完遂できるTile Pro機能は非常に有意義である(図12)。

腎部分切除術の術前シミュレーションにおいて、3D画像の構築を、血管の構築から腫瘍の切除後の状態の予想の構築までほぼ自動で処理して比較的短時間で作成することができ、ロボット支援腹腔鏡下手術では術中、目前で画像を動かして確認しながら手術ができるため、手術周辺機器としてはVINCENTは欠かせないものとしてさらに普及すると思われる。さらに腎臓解析、画像作成が、肝臓外科領域のように保険償還されることを望むものである。

図11.
手術支援ロボットの外観

図12.
Tile Pro 画面写真

参考文献

  1. Furukawa J et al. Console-integrated real time three-dimensional image overlay navigation for robot-assisted partial nephrectomy with selective arterial clamping: early-center experience with 17 cases. Int Med Robot 2014; 10: 385-390.
  2. Komai Y et al. A novel 3-dimensional image analysis system for case-specific kidney anatomy and surgical simulation to facilitate clampless partial nephrectomy. Urology 2014; 83: 500-506.
  3. Huang WC et al. Chronic kidney disease after nephrectomy in patients with renal cortical tumors: a retrospective cohort study. Lancet Oncol 2006; 7:735-740.
  4. Mihir M et al. Robotic partial nephrectomy wit superselective versus main artery clamping: a retrospective comparison. Eur Urol 2014; 66: 713-719.
  5. Gill IS et al. “Zero ischemia” partial nephrectomy: novel laparoscopic and robotic technique. Eur Urol 2011; 59: 128-134.

販売名 :富士画像診断ワークステーション FN-7941型
認証番号 : 22000BZX00238000