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日本

われわれのSYNAPSE VINCENT(呼吸器外科パッケージ)の使い方

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

京都大学医学部附属病院 呼吸器外科

教授 伊達 洋至 先生
陳 豊史 先生

伊達先生(左)陳先生(右)

SYNAPSE VINCENT(呼吸器外科パッケージ)は、呼吸器外科医にやさしい画像支援ナビゲーションソフトである。画像支援ナビゲーションソフトというと、「放射線技師に頼んでおこう」とか、「コンピュータに慣れていないから…」と思いがちだが、SYNAPSE VINCENTは、外科医本人が、自身一人で、気軽に触って活用できる、という点で非常に有用なデバイスであるとわれわれは感じている。また、実際の使用も、流れに沿って行うだけなので、10分もあればだれでも一人で操れるようになる。また付随するオプションも多く、自分なりの使い方というのを見つけるのも楽しいものである。

さて、今回、SYNAPSE VINCENTの呼吸器外科パッケージに入っている、「気管支鏡シミュレータソフト」と、「肺切除解析ソフト」の我々の施設における、日常臨床での利用の実際を一部分だが、ご紹介したいと思う。

まず、気管支鏡シミュレータソフトは、主に、以下の二つの用途に使っている。

1)超音波気管支鏡下針生検(EBUS-TBNA)における穿刺リンパ節の確定とシミュレーション

EBUS-TBNAは、近年普及してきた低侵襲な診断技術であり、多くの病院で、縦隔リンパ節や肺門リンパ節、さらには気管・気管支に接するタイプの腫瘍において、縦隔鏡検査の前に行われるようになってきている。低侵襲であるため、非常に有用な検査だが、手技の習得にラーニングカーブがあることも事実で、全く経験のない施設での導入や初期の頃の検査では、手ごたえのある結果が得られないことが多い。そこで、しっかり穿刺すべき標的を3次元的にとらえることで、その悩みを解消できると我々は感じている。実際に我々の施設では、若手医師がSYNAPSE VINCENTを用いて、担当症例のバーチャル画像を作り、検査を施行するという形で行うことも多く、教育にも利用できる。

実例として、右上葉肺癌で、N2の陰性を確認して手術適応を決めたい症例を紹介する(図1)。4Rのリンパ節(図1A)は、腫脹はしていないが、PET-CTで完全に陰性とは言えず、EBUS-TBNAを行った(図1B)。術前のバーチャル画像が、気管分岐部と穿刺標的との位置関係の把握に非常に有用であった(図1C)。また、大腸癌術後の左肺門リンパ節腫脹の症例では、複数のリンパ節がある中で、今回腫脹してきたものから診断を得たいため、11L周囲のリンパ節について、実際に穿刺すべきリンパ節を検査前のバーチャル画像で特定できた(図2)。

このように、バーチャル画像で穿刺標的が立体的に描出できるため、穿刺標的と周囲構造物との位置関係が明確にわかり、SYNAPSE VINCENTを用いれば、熟練者でなくとも、非常に精度の高いEBUS-TBNAが可能である。

図1

76歳男性、右上葉肺癌(cT2N0M0)。
4Rの縦隔リンパ節(A)は、PET-CTでわずかにuptakeを認めたため、術前にN2の否定のためのEBUS-TBNA(B)を施行。
Virtual気管支鏡にて穿刺すべきリンパ節(赤)が明確にわかる。

図2

70歳男性、大腸癌術後。
左肺門部リンパ節の腫脹とPET-CT(A)での強い取り込みがあり、診断のためのEBUS-TBNAを施行。
Virtual気管支鏡にて、複数のリンパ節の中から穿刺すべきリンパ節(赤)が明確にわかる。

2)気管支鏡的手技における最適な気管支の枝の同定

SYNAPSE VINCENTが、通常の気管支鏡的診断手技(TBBなど)の際の気管支の枝の選択に有用であることはいうまでもない。

さらに、我々は、微小肺癌に対する術前気管支鏡下マッピングを行っているが、その際のマッピングすべき気管支の枝の同定に、気管支鏡シミュレータソフトを用いている。左S9+10の区域切除における腫瘍(青矢印)とその周囲のマッピング(赤矢頭)の図(図3)を提示する。

さらに、肺切除解析ソフトは、普通に一般的にとられている造影CTを用いることで、肺動脈と肺静脈、さらには気管支の区別が可能であり、それに基づき肺内脈管と気管支の3次元画像が作成可能である。これまでは、肺動脈と肺静脈のはっきりしたコントラストを出すためには、2相の造影CTが必要だったが、SYNAPSE VINCENTでは、通常の1相の造影CTで、3次元画像を作ることができる。

したがって、造影CTさえあれば、それが他院でとられたものであっても、すぐに3次元画像を自分で作ることが可能だという点で、当画像支援ナビゲーションソフトの利用の頻度が格段に増える。実際に、現在、我々の施設では、多くの若手医師が、担当の症例で、自ら術前にシミュレーションの画像を作成している。

図3

微小肺癌に対する術前気管支鏡下マッピング。
CTにてS9の領域にGGO主体の数mmの肺病変を認める(A)。
経気管支的な色素を用いたマッピング後に、再度CTにてマッピング部位を確認した、バーチャル色素マッピング画像(B)。
腫瘍(青矢印)とその周囲のマッピング(赤矢頭)。が明確にわかる。

3)生体肺移植における応用

それでは、我々の施設での特徴的な利用法の一つとして、生体肺移植における利用の実際について、ご紹介。

図4は、生体肺移植における肺容量のサイズマッチングの際に必要な、ドナー肺の左右の下葉とレシピエントの左右の肺の3D-CT volumetryを用いた肺容量(volume)である。SYNAPSE VINCENTでは、このように各々の肺葉のvolumeが自動的に表示される(図4左下角に表示)。ここには示さないが、それだけでなく、区域切除や亜区域切除における切除区域や残存区域のvolumeも自動的に瞬時に表示されるので、肺切除後の残存肺機能の予測も簡単にできる。

さらに、右下葉ドナーでの脈管と気管支の分岐パターンを示す(図5)。図5Aが基本となる画像だが、図5Bのような外観にすることもできる。葉間部肺動脈の切離ラインは、白点線で示されており、標準的なドナー手術として術前の準備を行う。

一方、左下葉ドナーでは、舌区肺動脈とA6の分岐の位置関係から、肺動脈の切離ラインが、かなり斜めになることがしばしばある。このような場合には、自己心膜パッチを用いた形成などが必要なことが多く、術前の周到なプランと準備が、安全なドナー手術のみならず、レシピエント手術のためにも重要である。

その一例を図6に示す。図6Aでは、葉間肺動脈の切離ラインを考慮すると、2本の小さな肺動脈の枝(白矢印)を処理しないといけないことが術前に予想される。肺静脈を消去して肺動脈のみの表示(図6B)もボタン一つで可能で、白点線が肺動脈の切離ラインとなる。また、血管を消去して気管支のみの表示(図7A)も可能である。さらに、3次元画像のため、下肺静脈の分岐についても確認が可能で、本症例では、白点線のような切離ラインで安全にドナー手術が行えることが術前に確認できる(図7B)。

本例では、術前の予定通り、白点線を肺動脈の切離ライン(図6B)とし、ドナー側は、自己心膜パッチで形成、レシピエント側は、自己の肺動脈を斜めに残す形で形成して吻合し、問題なく肺移植手術を終えることができた。SYNAPSE VINCENTを用いることで、術前のシミュレーションが、より容易に可能であったことは、想定通りの手術の遂行に寄与したと考える。

図4

生体肺移植における、ドナーとレシピエントの3D-C Tvolumetry

図5

右下葉ドナー肺における脈管と気管支の3次元画像

図6

左下葉ドナー肺における脈管と気管支の3次元画像

図7

左下葉ドナー肺における脈管と気管支の3次元画像