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第22回日本神経消化器病学会:コンセンサスの内容

このコンテンツは医療従事者向けの内容です。

2000年代に超高齢社会に突入した日本では、これまでの老人ホームや介護施設に加えて、在宅・訪問看護の現場も増加しており、近年ではどのような現場でも一定した高齢者の体調管理が求められている。医療現場の状況を問わない有益な診断ツールの普及が急務となっている中で、慢性便秘の治療・ケアに資する、直腸を中心としたエコーによる便貯留の観察方法について、横浜市立大学・中島淳氏と東京大学・真田弘美氏の司会進行のもと、第22回日本神経消化器病学会コンセンサスミーティングが2020年11月20日に開催された。

1. なぜ多職種の共通理解が必要なのか?

便秘とは、誰もの身近に存在する症状だ。加齢とともに有症者率も高まることから、高齢者の慢性便秘の治療やケアは喫緊の課題としてその対処法が検討され続けている。これまで便秘の診断では腹部X線や注腸 X 線検査、内視鏡検査等が用いられていたが、いずれも器質的疾患の除外のみに活用されている検査であり、便秘症状や腸内の便貯留を評価することは非常に困難であった。

それは、認知機能の低下によって主観的な便秘の症状が曖昧になることや、在宅・訪問看護では設備、訪問の頻度や時間の問題で看護師が直接便を観察できない、などの理由に起因している、と東京大学・松本勝氏は語る。その結果、症状に応じた適切なケアの選択が難しく、便秘症状の無い患者に下剤を投与してしまったり、直腸に便貯留が無い患者に座薬・摘便を実施してしまったり、といったことが起こりうることが懸念事項となっているという実情が語られた。


そのため「大腸内の便貯留に対する客観的評価の必要性」は明白で、便貯留の性状を可視化できる手法の確立は急務。専門的な医師だけでなく、医用画像の撮影医師、患者の日々のアセスメントやケアを行う看護師など、知識や経験値に寄らず誰もが簡便に利用できるような“共通言語”が求められていた。さらに、増え続ける在宅・訪問看護の現場でのニーズが増加することも明らかであり、診察のために用いるツールが「携帯性」「リアルタイム性」「非侵襲性」に優れたものであることも欠かせない要素となってくることを伝えた。
 

2. 便秘のアセスメントに影響する要因

便秘症では、問診、身体診察、一般的検査、専門的検査といった診察が行われている。しかし、専門的な検査は大規模な設備の整った施設に限られ、排便回数や便性の判断においても客観的に測定できず、問診による患者の自己申告に頼っているのが現状である。

また、便秘の病態分類で大別される「機能性便排出障害」「大腸通過遅延型」「大腸通過正常型」の3つをポータブルエコーを用いて分類できないかと試みたのが国立病院機構 函館病院・津田桃子氏。超音波画像診断での分類と患者への問診から見た分類は、おおむね一致していたと述べた。


一般的に、便秘症で多く見られる機能性便排出障害を疑う場合に行われる直腸における便貯留の評価だが、診察の段階では直腸内診断まで実施することは稀である。そのため、患者に負担をかけない超音波画像診断で即座に結果を確認し、迅速な処置やケアを行うことのできる診察方法としての光明が見えたと言える。

3. 多職種の共通理解を目指したエコーによる便貯留の観察方法

Aエコーによる便貯留の観察

現在、医療技術の発達により超音波画像診断装置の小型化・高画質化が進み、病院のみならず訪問看護の現場でも非侵襲的かつリアルタイムでの体内の可視化が容易になっている。その影響は便秘症の分野においても例外ではなく、腸内の便貯留の観察においても超音波画像診断装置の活用が注目を集めている。
今回のコンセンサスミーティングでは誰でもどこでも使いやすいポータブルエコーを用いて、様々な職種の立場から超音波画像診断で便秘の症状を研究している登壇者の面々による協議のもと、直腸を中心とした超音波画像診断での便貯留の観察方法についての共通認識を得ることができた。

超音波画像診断とCT所見との比較では、便貯留の有無の観察がCTと同様に行えていることを横浜市立大学・三澤昇氏が報告しその有用性を確認。川崎医科大学・眞部紀明氏も、描出された管腔径がCT所見と簡便に一致することを確認している。また、眞部氏が比較したこの管腔径は「ストゥールオブザベーションスタディ」(SOS)において、上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸・直腸の5部位の径を5で割った平均値が、マーカー法で測定した大腸の通過時間と有意な正の相関関係を示していることが確認されている。今後の超音波画像診断の進展につながることが期待される結果でもあった。

各先生の報告後、松本氏から、超音波画像診断の普及に不可欠な標準化に向けたプロトコルが示された。

B観察の対象者

対象者は「便秘が疑われる患者」となる。疑いの有無に関しては、問診が可能な患者に対してはRomeⅣの診断基準を用い、認知機能の低下等問診できない患者に対しては「3日以上排便が無い」「硬便である」「摂取量に対して明らかに排便量が少ない」といった客観的所見で見極める。

C観察のタイミング

望ましい条件は「膀胱内に尿が貯留している」「食事の直後でない」こと。膀胱内の尿は超音波の音響像として利用できることで、直腸等に貯留する便の評価が容易となる。また、食事で発生する小腸内容物やガスは貯留する便との判別が困難であり、それらの残存しやすい食事後は避けるべきとされた。

D観察の方法

観察する患者の体位は基本的に仰臥位であり、必要に応じてヘッドアップの調整や膝関節の屈曲などを行い、腹壁に余分な力の入らない安楽な姿勢に整えることがよい。ポータブルエコーの設定条件では、コンベックスプローブを使用し、周波数は2~5MHz付近が適切な設定範囲であることが確認できた。さらに解像度については、「膀胱内が無エコーで描出できる」「組織の境界・辺縁を均一に描出できる」といった条件下であることが望ましい。


具体的なプローブ走査について、恥骨上縁にプローブを当てたのち横断走査で超音波ビームを尾側に10~30度傾けて膀胱を描出。さらにその膀胱を音響窓として膀胱深部の直腸を描出させる。縦断走査でも同様に、恥骨上縁にプローブを当て超音波ビームを尾側に10~30度傾け膀胱を描出し、その深部の直腸を描出する。


また、在宅での観察を念頭に置き、必要物品として超音波画像診断装置の他に、エコーゼリー、エコーゼリーをふき取るためのおしぼり・ティッシュペーパー。さらには患者をリラックスさせるためのバスタオル等の掛物も必要となる。
 

E典型画像

直腸内に便貯留があるときには、内容物表面に超音波が反射して半月型の高エコー域が描出されるのが典型画像となる。一方で便が無いときであれば、全周性の低エコー域が描出される。つまり、高エコー域の所見が認められなくなることで、ケア等で「便が排出された」と確認することができるのだ。


硬便の有無の評価では、描出された高エコー域の形状に着目する。硬便でない場合は、前述のように半月型をしている高エコー域だが、硬便の場合には音響陰影を伴う三日月型の高エコー域が描出される。また、ガス貯留時には多重反射の所見が観察できる。


基本的に上記は横断像での評価となるが、さらに縦断像を取得することで直腸における便貯留の位置・量の確認も可能である。縦断像では、膀胱より深部に帯状の高エコー域が描出されることになる。


性別による描出の差異は、横断像では男性は膀胱深部に低エコー域の前立腺が確認でき、さらに深部に直腸が認められる。女性であれば膣の下に直腸を認めることができる。縦断像においては、男性は尾側にある前立腺が膀胱の右下にあり、女性は頭側に子宮が見られる。
 

F鑑別が必要な所見

直腸がんの場合には、限局的に肥厚している全周性の低エコー域が確認できるのが特徴となる。便貯留の無い正常な直腸では連続性のある全周性の低エコー域が描出されるが、一部が限局的に肥厚している場合には注意が必要である。


宿便性下痢は毎日少量の水様便が続くため便秘であると確認しづらいが、縦断像・横断像ともに硬便の高エコー域が描出されるため確認ができる。宿便性下痢が疑わしい場合にも、超音波画像診断は有用であると言える。
 

G観察が難しいケース

現在観察困難であることが判明しているのは、「膀胱の尿貯留が少ない」「腸管ガスの貯留」「尿道留置カテーテル挿入」「肥満体型」といった条件だ。


膀胱内に尿貯留が少ないと腸管ガスの影響を受けやすくなってしまうため、超音波画像診断時には100ml程度の尿貯留のある状態が望ましい。腸管ガスの貯留も同様で、ガスの量が多いという報告のある便排出障害型の便秘では注意が必要となる。しかし患者を左腹臥位にした状態で観察するなど、ガスの影響を抑えやすい観察方法も報告されている。

尿道留置カテーテルは、カテーテル自体が全周性の高エコーラインとして描出され、膀胱内の固定水は無エコーとなる。そのため尿貯留の無いときには、カテーテルをランドマークとして直腸を見つける必要がある。

肥満体型の患者では、皮下脂肪での超音波の反射・散乱が発生するため膀胱・直腸の描出が非常に不明瞭になってしまう。腹壁の厚み・体表から直腸までの距離が、直腸の層構造評価不良となった症例で優位に長いということも報告されており、とくに8cmを超えた場合には評価が困難であった。
 

4. まとめ

便秘の疑いがある場合には、超音波画像診断を実施し、半月型の高エコー域の有無で便貯留の有無を確認する。さらに三日月型の高エコー域と音響陰影があるかどうかで硬便の有無を判断。さらにこのコンセンサスミーティングによって作成されたフローチャートを用いて、横断像は便貯留の有無・性状の確認、縦断像は便の位置や貯留量を確認することで患者の病状を正確に把握し、適切な治療やケアの選択につなげていくことが可能となる、と締めくくった。

発表後は、登壇者の発表を熱心に聞いていた川崎医療福祉大学・春間賢氏や国立病院機構 函館病院・加藤元嗣氏、日本創傷・オストミー・失禁管理学会の田中秀子氏、看護理工学会・須釜淳子氏、東京医科大学病院・河本敦夫氏といった各領域の権威からも、ポータブルエコーを用いた超音波画像診断が持つ伸びしろや将来性に期待を寄せる声が相次いだ。

フローチャートの作成で、専門的知識を持った医師だけでなく研修を受けた看護師でも、訪問看護に携帯可能な超音波画像診断装置であるポータブルエコーを持参することで直腸観察が可能になることが期待でき、ポイントオブケアによる患者のQOLの向上に資することが期待される。今後は、便性状の詳細な見極めや具体的な画像調整方法の標準化などの次なる課題をクリアすることで、ポータブルエコーを使ったさらなる簡便な検査が実現していくことだろう。