FGF23(線維芽細胞増殖因子23)
FGF23は骨から産生され、腎尿細管でのリン再吸収抑制とビタミンDの合成抑制により血中リン濃度を低下させるホルモンです。慢性腎臓病(CKD)症例における血中リン濃度上昇に対し代償的に上昇します。
<FGF23の働き>

CKDにおける臨床活用
研究データより、CKDにおけるFGF23の臨床活用が期待されます。
1.リン制限開始時期の指標・食事療法による治療効果の判定に
CKDにおける重要な合併症の1つとして、リン・カルシウム代謝異常が挙げられます。高リン血症はCKDの予後増悪因子であることがわかっているため、リン・カルシウム代謝異常の管理はCKDの治療において重要であり、腎臓病療法食によるリン制限やリン吸着剤の投与が行われます。
しかし、血中リン濃度の上昇はCKDの後期にならないと認められません。現在腎臓病療法食によるリン制限開始が推奨されているStage2の症例群の犬のうち、血中リン濃度の上昇は19%でのみ認められました。一方、血中FGF23濃度の上昇は73%でみられ、FGF23が早期のリン・カルシウム代謝異常を捉えることができる可能性が示唆されました。
また、猫において腎臓病用療法食の給餌により血中FGF23濃度の減少が報告されており、これは高リン血症でない症例でも確認されています*1。FGF23の評価は、早期のCKDにおけるリン制限開始時期の指標、食事療法の効果判定として用いられることが期待されます。


健常犬およびCKD罹患犬ステージ別*2の血清リン濃度(左)と血清FGF23濃度(右)の比較(n=75)
J Small Anim Pract.2020 Oct;62:基準範囲上限を赤線で示した。
2.生存期間の予後因子として
CKD診断時の血中FGF23濃度により、生存期間に差があることが報告されています。
猫における研究によると、血中FGF23濃度が3,000pg/mL未満の群と比較し、「3,000-10,000pg/mL」および「10,000pg/mL以上」の群で生存日数の中央値が有意に短いことが確認されました*3。
このことよりCKD診断時にFGF23濃度を測定することは、生存期間の推定に有用であり、予後因子としての意義が示唆されます。


猫におけるCKD診断時の血中FGF23濃度と生存期間の関係(n=214)
J Vet Intern Med 2015;29:1494-1501
食事療法開始検討にあたるフローチャート
CKD Stage2の症例において、診断時に血中FGF23濃度を測定することはその後の治療方針選択の補助となります。
例えば、犬における以下の症例に対し、症例1は食事療法開始を検討、症例2は開始しないという選択を行うことができる可能性があります。
【症例1】
Cre 1.8、IP 3.8、FGF23 4,200 pg/mL
(基準範囲 33~751 pg/mL)
【症例2】
Cre 2.1、IP 4.2、FGF23 554 pg/mL
ただし、高リン食・高蛋白食はCKDの進行に関与する可能性があるため、食事療法を開始しない早期のCKDでは使用を避けるべきと言われており、年齢等を考慮した維持食レベルとすることが推奨されます。
さらに猫において血中FGF23濃度は予後と関連するとの報告があり、治療効果の判定、予後の評価のために定期的な測定が有用であると考えられます。

早期の食事療法に関する懸念について
CKDの早期における食事療法開始は以下のような弊害が懸念されます。
食事療法を最大限に活用するために、今後は開始の指標が求められます。
早期のリン制限により起こり得る弊害
■特発性高カルシウム血症の発現または悪化
猫で報告されている特発性高カルシウム血症の原因は不明ですが、低リン食の給餌により発現、悪化することが報告されています*4。
高カルシウム血症そのものが症状(体重減少、多飲多尿など)を呈するほど顕著となることは少ないとされていますが、尿石症との関連も考慮し、特に腎結石や尿管結石を併発している症例では早期からの使用は避けるべきと考えられます。
■低リン血症の発現
リン含有量の少ない腎臓病用療法食では、低リン血症を発現させることがあり、人においては低リン血症もまたCKDの予後を悪化させることが知られています。犬および猫ではまだその報告はありませんが、リン・カルシウム代謝異常が生じていない症例での低リン食の使用は避けるべきである可能性があります。
早期の蛋白制限により起こり得る弊害
■低蛋白食に伴う筋肉量の低下
特に猫では、腎臓病用療法食で体重減少、筋肉量の低下が生じることが報告されており、削痩はCKDの予後の悪化と関連します。
- *1 Geddes, R., Elliott, J. and Syme, H. (2013), The Effect of Feeding a Renal Diet on Plasma Fibroblast Growth Factor 23 Concentrations in Cats with Stable Azotemic Chronic Kidney Disease. J Vet Intern Med, 27: 1354-1361.
- *2 IRIS Stage分類による
- *3 Geddes, R., Elliott, J. and Syme, H. (2015), Relationship between Plasma Fibroblast Growth Factor‐23 Concentration and Survival Time in Cats with Chronic Kidney Disease. J Vet Intern Med, 29: 1494-1501.
- *4 Finch NC. (2016) Hypercalcaemia in cats: The complexities of calcium regulation and associated clinical challenges. J Feline Med Surg. 2016;18(5):387-399.
【監修】 日本獣医生命科学大学 獣医学部 獣医内科学教室第二 講師 宮川優一 先生
-
項目名
-
FGF23(線維芽細胞増殖因子23)
-
対象動物
-
犬・猫
-
材料/量(ml)
-
血清/0.3
-
他材料/量(ml)
-
ヘパ漿/0.3
-
保存方法
-
冷凍保存
-
測定方法
-
CLEIA法
-
報告日数
-
~4
-
参考基準範囲
-
犬:161~527
猫:102~466 -
単位
-
pg/mL
エリスロポエチン
エリスロポエチンは低酸素状態に反応して腎臓から分泌され、赤血球の産生を促進します。腎性貧血、赤血球増加症の鑑別診断などに用います。Ht値と併せてご判断ください。
-
項目名
-
エリスロポエチン【外注検査】
-
対象動物
-
犬・猫
-
材料/量(ml)
-
血清/0.4
-
他材料/量(ml)
-
―
-
保存方法
-
冷蔵保存
-
測定方法
-
CLEIA法
-
報告日数
-
~5
-
参考基準範囲
-
犬:1.3~13.4
猫:1.9~22.9 -
単位
-
mIU/mL
膵臓
インスリンは膵臓から分泌され、グルコースを細胞内に取り込み血糖値を下げる働きがあります。糖尿病の鑑別や、インスリノーマの診断に用います。血糖値と併せてご判断ください。
-
項目名
-
インスリン*1
-
対象動物
-
犬・フェレット・猫
-
材料/量 (ml)
-
犬・フェレット:血清/0.4
猫:血清/0.2 -
他材料/量 (ml)
-
犬・フェレット:―
猫:ヘパ漿/0.2 -
保存方法
-
冷蔵保存
-
測定方法
-
犬・フェレット:CLIA法
猫:ELISA法 -
報告日数
-
~3
-
参考基準範囲
-
犬・フェレット:0.27~0.65
猫:0.27~0.69 -
単位
-
ng/mL
- *1 インスリンの単位をμU/mLに換算する場合は、係数26をご報告値(測定値)に乗算してください。